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策略と混乱
269ー1 独立国への道(2)ー1
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◇◇ トーブル ◇◇
自称婚約者の女性が王宮警備隊に連行された後、私は呆然としている母の前で離別の挨拶をする。
「母上、これからは父上と一緒にヘイズ領で暮らされるのでしょう?」
「え、ええそうね。当然アナタも冬期休暇はヘイズ領で過ごすでしょう?」
まだ頭が混乱しているのか、連行される女性をぼんやり見送りながら、母は私と視線を合わせようとしない。
「いいえ、私は今後ヘイズ領に行くことはありません」
私の意思など考えもしない目の前の人に、今日こそははっきりと告げねばならない。
「何を言っているの? 父上にお会いしないなんて許されると思っているの?」
困ったというより、まるで我が儘な子供を叱るように母は私を睨んだ。
「トーブル様は、王立高学院の医療コースを牽引する大事なお役目がありますわ。
覇王軍も王立高学院特別部隊も、半数は冬期休暇を取らずに学院に残ります」
民を守るのは貴族の義務ですからと付け加えて、エリザーテさんは美しく微笑む。
「トーブルは王族よ、そんな必要なんて……」
「止めてください母上! 王族であるなら貴族の先頭に立ち戦うことは当然ではありませんか。
学院に居るリーマス王子とルフナ王子だって戦っているのです。
父上にお伝えください。私は決してアナタには従わないと」
私はそう言い捨て、わなわなと怒りで体を震わせている母に背を向け、パーティー会場から出ていく。
「待ちなさいトーブル!」
怒りを隠さず叫んでいる母の声が聞こえるが、絶対に後ろは振り向かない。
私が出口に向かっていると、王宮乗り込み隊のメンバーが私の脇を固めていく。
強引にヘイズ領に連れ去られることがないよう、皆は心配して動いてくれる。
……決別が悲しいとか寂しいとか、全く思わなかったな。
「大丈夫ですかトーブル様?」と、エリザーテさんが声を掛けてくれる。
「大丈夫です。これでスッキリしました。さあ、学院に戻りましょう。もうここは、私の住む場所ではありません」
先日王様に願い出ていた王族からの独立が認められ、私は領地なしの伯爵になった。
希望したのは準男爵だったが、それを強要すると、王様が反国王派の貴族に非難され、お立場が悪くなる可能性があったので了承した。
魔獣の大氾濫に勝利できたら、王様は父と対峙されるだろう。
もしも戦えば、どちらが勝つのかは誰の目にも明らかだ。
僅かな間でも、王になれたと満足するのだろうか?
……あまりに愚かで醜い。
領都ヘイズは、コーチャー山脈から魔獣が氾濫し、壊滅する可能性が高い。
あの男では何もできないだろう。
だからこそ、それが分かっているからこそ、覇王様は好きにさせておけと仰ったのだ。
王宮で母に別れを告げた翌日、王立高学院は冬期休暇に入った。
覇王軍と王立高学院特別部隊のメンバーは、半数が学院に残って活動する。
私はできるだけ多くのポーションを作るため、医療コースの仲間と一緒に薬草園の管理をしたり、新たなポーションを生みだすための研究をする。
聖魔法を使った治療技術を向上させるため、魔力量を上げる訓練も頑張らねばならない。
妖精と契約できた学生の一部に、聖魔法を教えることも重要な役目だ。
薬草採取して研究室に戻ると、私の机の上に警告メッセージが置いてあった。
【 1月10日までにヘイズ領に戻らない場合、覇王の家族は命を落とすことになる。
可愛い孫を王にするためなら、私は何でもするだろう。祖父の期待を裏切るな 】
自称婚約者の女性が王宮警備隊に連行された後、私は呆然としている母の前で離別の挨拶をする。
「母上、これからは父上と一緒にヘイズ領で暮らされるのでしょう?」
「え、ええそうね。当然アナタも冬期休暇はヘイズ領で過ごすでしょう?」
まだ頭が混乱しているのか、連行される女性をぼんやり見送りながら、母は私と視線を合わせようとしない。
「いいえ、私は今後ヘイズ領に行くことはありません」
私の意思など考えもしない目の前の人に、今日こそははっきりと告げねばならない。
「何を言っているの? 父上にお会いしないなんて許されると思っているの?」
困ったというより、まるで我が儘な子供を叱るように母は私を睨んだ。
「トーブル様は、王立高学院の医療コースを牽引する大事なお役目がありますわ。
覇王軍も王立高学院特別部隊も、半数は冬期休暇を取らずに学院に残ります」
民を守るのは貴族の義務ですからと付け加えて、エリザーテさんは美しく微笑む。
「トーブルは王族よ、そんな必要なんて……」
「止めてください母上! 王族であるなら貴族の先頭に立ち戦うことは当然ではありませんか。
学院に居るリーマス王子とルフナ王子だって戦っているのです。
父上にお伝えください。私は決してアナタには従わないと」
私はそう言い捨て、わなわなと怒りで体を震わせている母に背を向け、パーティー会場から出ていく。
「待ちなさいトーブル!」
怒りを隠さず叫んでいる母の声が聞こえるが、絶対に後ろは振り向かない。
私が出口に向かっていると、王宮乗り込み隊のメンバーが私の脇を固めていく。
強引にヘイズ領に連れ去られることがないよう、皆は心配して動いてくれる。
……決別が悲しいとか寂しいとか、全く思わなかったな。
「大丈夫ですかトーブル様?」と、エリザーテさんが声を掛けてくれる。
「大丈夫です。これでスッキリしました。さあ、学院に戻りましょう。もうここは、私の住む場所ではありません」
先日王様に願い出ていた王族からの独立が認められ、私は領地なしの伯爵になった。
希望したのは準男爵だったが、それを強要すると、王様が反国王派の貴族に非難され、お立場が悪くなる可能性があったので了承した。
魔獣の大氾濫に勝利できたら、王様は父と対峙されるだろう。
もしも戦えば、どちらが勝つのかは誰の目にも明らかだ。
僅かな間でも、王になれたと満足するのだろうか?
……あまりに愚かで醜い。
領都ヘイズは、コーチャー山脈から魔獣が氾濫し、壊滅する可能性が高い。
あの男では何もできないだろう。
だからこそ、それが分かっているからこそ、覇王様は好きにさせておけと仰ったのだ。
王宮で母に別れを告げた翌日、王立高学院は冬期休暇に入った。
覇王軍と王立高学院特別部隊のメンバーは、半数が学院に残って活動する。
私はできるだけ多くのポーションを作るため、医療コースの仲間と一緒に薬草園の管理をしたり、新たなポーションを生みだすための研究をする。
聖魔法を使った治療技術を向上させるため、魔力量を上げる訓練も頑張らねばならない。
妖精と契約できた学生の一部に、聖魔法を教えることも重要な役目だ。
薬草採取して研究室に戻ると、私の机の上に警告メッセージが置いてあった。
【 1月10日までにヘイズ領に戻らない場合、覇王の家族は命を落とすことになる。
可愛い孫を王にするためなら、私は何でもするだろう。祖父の期待を裏切るな 】
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