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決戦開始
261ー2 心理対抗戦(2)ー2
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事件を聞いた学生たちが、大騒ぎをしているであろう食堂へ行き、何事もなかったかのように、トーブル先輩には元気な顔を皆に見せていただこう。
『アコル、妖精仲間には、学院に戻って直ぐ指示を出しておいたわ』
「ありがとうエクレア。敵を疑うなら先ず身内からだよな」
俺は妖精にだけ通じる言葉を使って、エクレアに礼を言った。
ここのところ思うのは、王宮でも学院内でも情報が勝手に流れていることだ。
今回の内乱の首謀者は、王弟シーブルで間違いないだろう。
だが、あの男に手を貸していたワートン公爵はもう居ない。
……だったら誰が? ヘイズ領、ワートン領、デミル領の殆どの貴族には調査部が付いている。
味方の振りをした敵だっている可能性はある。
己の保身のために動く者なら分かり易い。
厄介なのは、保身ではなく野心のために動く者だ。
トーブル先輩もリーマス王子も、人から恨みを買うとは思えないし、人を陥れるのは苦手なタイプだ。
犯人は、新しい独立国で高位貴族を狙うか、大臣などの要職に就くか、身分こそが全てと思う者の犯行に違いない。
……う~ん、王立高学院の学生の中に、それほど大きな野心を持っている者が居ただろうか?
いや、俺は今年の新入生の顔なんて殆ど知らないぞ。
教師の動向は学院長がチェックしてる。でも、一般職員はどうだ?
……これから暫く、学院に住んでいる妖精たちに、調査をお願いするしかないか。
食堂に到着すると、殆どの学生は食事を終えていたが、みな席を立たずガヤガヤしていた。
でも、入り口に現れたリーマス王子の姿を見た途端、シーンと静まり返った。
リーマス王子は刺すような視線に晒されながらも、俺の指示通り無表情で歩いていく。
「待ってくださいリーマス王子」と、続いて入り口から入って来たのは、元気そうなトーブル先輩だ。
いつもと変わらぬ感じで、振り向いたリーマス王子は極上の笑顔をトーブル先輩に向ける。
誰の目にも、仲の良い先輩後輩にしか見えない。
静まり返っていた食堂内に、「えーっ?」と驚きの声が広がっていく。
何事もなかったかのような二人の姿に、学生たちは『どういうこと?』って首を捻る。
普段通りの姿を見て、首を捻っている学生たちは、噂の発信源となっていた数人の学生に視線を向ける。
その視線は「おい、どういうことだよ? トーブル先輩元気じゃないか!」と問われている。
……目は口程に物を言うってところだな。
再びザワザワと騒がしくなった食堂の様子を窺っていた俺は、ラリエスと一緒に笑顔で食堂に入っていく。
俺とラリエスは超多忙なので、学院に居ない方が多く、居たとしても食事時間が学生とずれることが多い。だから久し振りに姿を現した感じだ。
今度は「キャーッ!」と女子の華やいだ声が上がり、男子の「覇王様だ」「勇者様だぞ」という声も聞こえてくる。
一瞬で場の雰囲気が変わり、俺とラリエスに熱い視線が注がれる。
……よし、目的達成。あとはラリエスに頑張ってもらおう。
俺は普段から愛想がよろしくない。だから、誰も話し掛けようとしない。
でもラリエスは、俺ほど怖そうでも不愛想でもないから、仲良くなりたい同期生や、勇気とガッツのある後輩から声を掛けられたりする。
今夜は、そんな後輩からの声掛けに、立ち止まって応じてもらう。
尊い犠牲というやつだ。
「ラリエス先輩、質問があるのですが」とか「今日はどんな活動をされたのですか?」てな具合の声掛けに、ラリエスは貴公子スマイルで応じる。
……さすが貴公子スマイル。一瞬で皆の視線を釘付けだ。
今年度から覇王軍関係者は、6時から21時までの間、いつでも食事の提供をしてもらえる。
外部から来ている【覇王探求部会】メンバーも同様の待遇が受けられるので、門限の21時ギリギリまで自由に食事ができると好評だ。
さてと、食堂の中二階にある覇王軍・執行部専用席で、仲間からの報告を受けるか。
『アコル、妖精仲間には、学院に戻って直ぐ指示を出しておいたわ』
「ありがとうエクレア。敵を疑うなら先ず身内からだよな」
俺は妖精にだけ通じる言葉を使って、エクレアに礼を言った。
ここのところ思うのは、王宮でも学院内でも情報が勝手に流れていることだ。
今回の内乱の首謀者は、王弟シーブルで間違いないだろう。
だが、あの男に手を貸していたワートン公爵はもう居ない。
……だったら誰が? ヘイズ領、ワートン領、デミル領の殆どの貴族には調査部が付いている。
味方の振りをした敵だっている可能性はある。
己の保身のために動く者なら分かり易い。
厄介なのは、保身ではなく野心のために動く者だ。
トーブル先輩もリーマス王子も、人から恨みを買うとは思えないし、人を陥れるのは苦手なタイプだ。
犯人は、新しい独立国で高位貴族を狙うか、大臣などの要職に就くか、身分こそが全てと思う者の犯行に違いない。
……う~ん、王立高学院の学生の中に、それほど大きな野心を持っている者が居ただろうか?
いや、俺は今年の新入生の顔なんて殆ど知らないぞ。
教師の動向は学院長がチェックしてる。でも、一般職員はどうだ?
……これから暫く、学院に住んでいる妖精たちに、調査をお願いするしかないか。
食堂に到着すると、殆どの学生は食事を終えていたが、みな席を立たずガヤガヤしていた。
でも、入り口に現れたリーマス王子の姿を見た途端、シーンと静まり返った。
リーマス王子は刺すような視線に晒されながらも、俺の指示通り無表情で歩いていく。
「待ってくださいリーマス王子」と、続いて入り口から入って来たのは、元気そうなトーブル先輩だ。
いつもと変わらぬ感じで、振り向いたリーマス王子は極上の笑顔をトーブル先輩に向ける。
誰の目にも、仲の良い先輩後輩にしか見えない。
静まり返っていた食堂内に、「えーっ?」と驚きの声が広がっていく。
何事もなかったかのような二人の姿に、学生たちは『どういうこと?』って首を捻る。
普段通りの姿を見て、首を捻っている学生たちは、噂の発信源となっていた数人の学生に視線を向ける。
その視線は「おい、どういうことだよ? トーブル先輩元気じゃないか!」と問われている。
……目は口程に物を言うってところだな。
再びザワザワと騒がしくなった食堂の様子を窺っていた俺は、ラリエスと一緒に笑顔で食堂に入っていく。
俺とラリエスは超多忙なので、学院に居ない方が多く、居たとしても食事時間が学生とずれることが多い。だから久し振りに姿を現した感じだ。
今度は「キャーッ!」と女子の華やいだ声が上がり、男子の「覇王様だ」「勇者様だぞ」という声も聞こえてくる。
一瞬で場の雰囲気が変わり、俺とラリエスに熱い視線が注がれる。
……よし、目的達成。あとはラリエスに頑張ってもらおう。
俺は普段から愛想がよろしくない。だから、誰も話し掛けようとしない。
でもラリエスは、俺ほど怖そうでも不愛想でもないから、仲良くなりたい同期生や、勇気とガッツのある後輩から声を掛けられたりする。
今夜は、そんな後輩からの声掛けに、立ち止まって応じてもらう。
尊い犠牲というやつだ。
「ラリエス先輩、質問があるのですが」とか「今日はどんな活動をされたのですか?」てな具合の声掛けに、ラリエスは貴公子スマイルで応じる。
……さすが貴公子スマイル。一瞬で皆の視線を釘付けだ。
今年度から覇王軍関係者は、6時から21時までの間、いつでも食事の提供をしてもらえる。
外部から来ている【覇王探求部会】メンバーも同様の待遇が受けられるので、門限の21時ギリギリまで自由に食事ができると好評だ。
さてと、食堂の中二階にある覇王軍・執行部専用席で、仲間からの報告を受けるか。
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