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覇王、時々商人

248ー1 ワートン領の貴族たち(5)ー1

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 ◇◇ ボンテンク ◇◇

 救済本部から妹のカイヤの姿が見えなくなって、10分以上は過ぎただろうか。
 俺は王立高学院特別部隊の全メンバーと、救護所や救済本部で働き始めた住民たちに、カイヤを見なかったかと聞いて回った。

 だが、残念ながら誰もカイヤの行方を知らなかった。
 おかしい。そんなことがあるのか? 王立高学院特別部隊の隊服は目立つのに、忽然と姿を消すなんて。

 仲間と手分けして探しに行こうとしていたら、コーチャー山脈へ魔獣討伐に向かう途中のレイトル第四王子と、ワートン領を襲った魔獣の討伐を終えたマギ公爵とログドル第二王子一行が、領都ワートンに戻ってきて王立高学院特別部隊と合流した。

 カイヤが行方不明になっていると知ったマギ公爵は、責任者であり娘でもあるミレーヌ様から状況を聞き、領都ワートンに到着してから体験した、貴族たちの横暴な行いの内容に激怒した。

「もしものことがあってはいけない。急いでカイヤさんを探しに行きましょう」

 大人しくて上品な印象だったレイトル第四王子はそう言うと、大声でカイヤの情報提供を住民に訴えかけ始めた。

「情報提供者には、炊き出しのスープを奢るぞ」

王子とは思えない気さくな態度で、子供から大人まで声を掛けていく。

 その必死な声や行動を見るに、まだカイヤを結婚相手として諦めてはいないようだ。 

 レイトル王子のスープ奢る作戦が功を奏したようで、カイヤからパンを貰った子供数人が、眼鏡をした偉そうな男が、カイヤを貴族街の方へ連れて行ったと教えてくれた。

 ……メガネの偉そうな男? 慎重なカイヤが一人で行動を?

「あら、いつの間にか、眼鏡をかけ、いつも偉そうにしている貴族部の教授の姿が見えませんわ」

ミレーヌ様は辺りを見回し、眉を寄せ怪しい人物を特定する。

 ……あの下衆教授、もしもカイヤに危害を加えたら息の根を止めてやる!



 貴族街に入って直ぐ、カイヤの契約妖精ナツメくんが姿を現した。

『ボンテンク兄さん、学院の教授に騙されたカイヤが、救済用の食料を奪おうとするワートン領の貴族と、武装した男たちに囲まれてる、助けて!』

「「なんだと!」」

 俺とレイトル王子は同時に叫び、互いに顔を見合わせ頷く。

 目撃証言をしてくれた子供たちに道案内して貰っていたが、これから先は危険を伴うことが予想されるので、レイトル王子が銀貨1枚を握らせ、皆で仲良く分けるよう言って戻らせる。

 ナツメくんの案内で俺の隣を走るレイトル王子は、兄である俺よりも怒りを滲ませている。
 同行してくれたマギ公爵やその従者たちには申し訳ないが、全力疾走する俺とレイトル王子について来れないので先に行く。

 そして貴族街の東、煉瓦が散乱している公園だったと思われる場所まで来た時、剣を抜いた数人の男たちの姿が目に飛び込んできた。
 そして同時に、誰かが放ったと思われるファイヤーボールらしき炎が見えた。

 そこからの記憶は定かではない。 

「私の求婚者に何をする!」と叫ぶ声がして、レイトル王子は疾風の如く走り、火魔法を放ったと思われる男の右肩に剣を突き刺した。

 俺は右腕を炎に包まれているカイヤに向かって水魔法を放ち、頭からザバリと水を掛けて消火し、カイヤに走り寄る。

「お兄さま、遅いですわ」

恨めしそうな顔をして弱弱しく呟いたカイヤは、ガクリと俺の腕の中に倒れ込んだ。
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