455 / 709
覇王、時々商人
241ー2 再びニルギリ公国へ(3)ー2
しおりを挟む
そこからはもう一方的だった。
土魔法が得意なマサルーノ先輩は、3人の男が外に出るなり緊急避難用のかまくらに閉じ込めてしまった。
魔獣の攻撃から身を守るかまくらだ。頑丈で窓も出入口もない。
役人が来るまで暗闇で大人しくしてもらうのがいいだろう。
見学人だった者も道行く人たちも、何が起こったのか分からないって顔でかまくらを見ている。
「さあ、これでゆっくりマーガレット商会を見学できますね坊ちゃん」
マサルーノ先輩は魔法陣の書かれた紙をポケットに突っ込みながら、爽やかな笑顔で言った。
成り行きを茫然と眺めていたマーガレット商会の商会員たちは、慌てて「いらっしゃいませ」と声を出し、俺たちを店内に迎えてくれる。
「助けていただきありがとうございます。また、ご迷惑をお掛けし申し訳ございませんでした。
私はこの商会の部長でサーパスと申します。ぜひともお礼をしたいので、奥の部屋にご案内してもよろしいでしょうか?」
そう言って深く頭を下げる壮年の男性は、事務長じゃなくて部長だった。
他の商会員たちもカウンターや店の奥から出てきて、ありがとうございましたと頭を下げる。
……フンフン、さすが老舗の商会だな。簡単に魔法を発動させた俺たちを、貴族だと思ったようだ。
この国の魔法教育は、コルランドル王国よりはましで、貴族だけではなく平民も受けられる。が、学費が高いので、領主や役場の推薦がなければ入学できない。
軍に入隊すれば、基本的な初級魔法は教えてもらえる。
マサルーノ先輩が使った土魔法は、この国のレベルからすると高い方だと思う。
いとも簡単に、しかも無詠唱で発動する魔法陣なんて、高位貴族以外は使えない……いや、この国では有り得ない魔法だろう。
女性商会員の案内で通された部屋は、派手さはないけど高級な調度品や絵画が上品に配置されていた。きっと貴族や大商会を接客する部屋だろう。
直ぐにお茶が出されて、少しだけ待っていると、先程の部長さんと商会員とはどこか違う装いの女性が入室してきた。
「この度は、ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。
私は当商会の商会長代理を務めるミラリー・マルガレーテルと申します。
もしも今後お客様に、先程の者たちがご迷惑を掛けることがあれば、どうかマーガレット商会にご一報くださいませ。
二度と迷惑が掛からぬよう対処いたします」
髪を結い上げ凛とした表情で話すこの女性が、やたらとダメな男に付きまとわれる不運なミラリーさんか・・・
アレクシス領のエドガー殿が言っておられた通り、芯の強そうな女性だ。
まあ、そうでなければ商会長代理は務まらないだろう。
「いえ、あの男たちのことは心配無用です。私たちはこの国の者ではありませんし、明日この国を去りますので、襲われることもないでしょう」
申し訳なさそうに頭を下げるミラリーさんに、マサルーノ先輩は優しく答えた。
折角だからとお茶に口を付けたところで、男性商会員が緊張した面持ちで入室してきた。
「失礼いたします。ミラリー様、エドガー様とコルランドル王国からのお客様が到着されました」
その男性商会員は、俺たちの対面に座っていたミラリーさんの側まで来て、小声で用件を伝えた。
土魔法が得意なマサルーノ先輩は、3人の男が外に出るなり緊急避難用のかまくらに閉じ込めてしまった。
魔獣の攻撃から身を守るかまくらだ。頑丈で窓も出入口もない。
役人が来るまで暗闇で大人しくしてもらうのがいいだろう。
見学人だった者も道行く人たちも、何が起こったのか分からないって顔でかまくらを見ている。
「さあ、これでゆっくりマーガレット商会を見学できますね坊ちゃん」
マサルーノ先輩は魔法陣の書かれた紙をポケットに突っ込みながら、爽やかな笑顔で言った。
成り行きを茫然と眺めていたマーガレット商会の商会員たちは、慌てて「いらっしゃいませ」と声を出し、俺たちを店内に迎えてくれる。
「助けていただきありがとうございます。また、ご迷惑をお掛けし申し訳ございませんでした。
私はこの商会の部長でサーパスと申します。ぜひともお礼をしたいので、奥の部屋にご案内してもよろしいでしょうか?」
そう言って深く頭を下げる壮年の男性は、事務長じゃなくて部長だった。
他の商会員たちもカウンターや店の奥から出てきて、ありがとうございましたと頭を下げる。
……フンフン、さすが老舗の商会だな。簡単に魔法を発動させた俺たちを、貴族だと思ったようだ。
この国の魔法教育は、コルランドル王国よりはましで、貴族だけではなく平民も受けられる。が、学費が高いので、領主や役場の推薦がなければ入学できない。
軍に入隊すれば、基本的な初級魔法は教えてもらえる。
マサルーノ先輩が使った土魔法は、この国のレベルからすると高い方だと思う。
いとも簡単に、しかも無詠唱で発動する魔法陣なんて、高位貴族以外は使えない……いや、この国では有り得ない魔法だろう。
女性商会員の案内で通された部屋は、派手さはないけど高級な調度品や絵画が上品に配置されていた。きっと貴族や大商会を接客する部屋だろう。
直ぐにお茶が出されて、少しだけ待っていると、先程の部長さんと商会員とはどこか違う装いの女性が入室してきた。
「この度は、ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。
私は当商会の商会長代理を務めるミラリー・マルガレーテルと申します。
もしも今後お客様に、先程の者たちがご迷惑を掛けることがあれば、どうかマーガレット商会にご一報くださいませ。
二度と迷惑が掛からぬよう対処いたします」
髪を結い上げ凛とした表情で話すこの女性が、やたらとダメな男に付きまとわれる不運なミラリーさんか・・・
アレクシス領のエドガー殿が言っておられた通り、芯の強そうな女性だ。
まあ、そうでなければ商会長代理は務まらないだろう。
「いえ、あの男たちのことは心配無用です。私たちはこの国の者ではありませんし、明日この国を去りますので、襲われることもないでしょう」
申し訳なさそうに頭を下げるミラリーさんに、マサルーノ先輩は優しく答えた。
折角だからとお茶に口を付けたところで、男性商会員が緊張した面持ちで入室してきた。
「失礼いたします。ミラリー様、エドガー様とコルランドル王国からのお客様が到着されました」
その男性商会員は、俺たちの対面に座っていたミラリーさんの側まで来て、小声で用件を伝えた。
4
お気に入りに追加
319
あなたにおすすめの小説

アヤノ ~捨てられた歌姫は骨を拾われる、のか?~
momomo
ファンタジー
成人の儀式である『託宣の儀』で前世を思いだした、新幹線事故によって死亡した者達。
孤児のロウは自身が転生者である事を黙ったまま、同じ転生者や他の者達とパーティーを組み、その世界で生きて行く。
捨てられた歌姫は骨を拾われる、のか?
題名が女性向け小説っぽくなってしまいましたが、男性向け(?)です。
どこにでも良くある、転生者の冒険物語。
『歌唱』『スティール』等のスキルで、5人のパーティーがドタバタと生きていく。
影の題名は『ミミ劇場?』です。
基本、お気楽系です。俺強ええーまではいきません。ハーレムもありません。
全50話ほどで、短文の閑話数話を挟む予定です。
閑話以外は、一話8000文字から9000文字程です。

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~
愛山雄町
ファンタジー
エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。
彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。
彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。
しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。
そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。
しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。
更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。
彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。
マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。
彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。
■■■
あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

【完結】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~
うどん五段
ファンタジー
幼い頃から心臓の悪かった中村キョウスケは、親から「無駄金使い」とののしられながら病院生活を送っていた。
それでも勉強は好きで本を読んだりニュースを見たりするのも好きな勤勉家でもあった。
唯一の弟とはそれなりに仲が良く、色々な遊びを教えてくれた。
だが、二十歳までしか生きられないだろうと言われていたキョウスケだったが、医療の進歩で三十歳まで生きることができ、家での自宅治療に切り替わったその日――階段から降りようとして両親に突き飛ばされ命を落とす。
――死んだ日は、土砂降りの様な雨だった。
しかし、次に目が覚めた時は褐色の肌に銀の髪をした5歳くらいの少年で。
自分が転生したことを悟り、砂漠の国シュノベザール王国の第一王子だと言う事を知る。
飢えに苦しむ国民、天候に恵まれないシュノベザール王国は常に飢えていた。だが幸いな事に第一王子として生まれたシュライは【天候を操る程度の能力】を持っていた。
その力は凄まじく、シュライは自国を豊かにするために、時に鬼となる事も持さない覚悟で成人と認められる15歳になると、頼れる弟と宰相と共に内政を始める事となる――。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載中です。
無断朗読・無断使用・無断転載禁止。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった
根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる