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覇王、時々商人
234ー2 王の剣と王の盾を目指す者(2)ー2
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真の臣下であるなら、そうではない、それではダメだと意見するべきだったのに、きっと王様に申し上げても、厳しい決断はなさらないだろうと勝手に諦めていた。
そして宰相と財務大臣は、王様の決断を尊重するだろうと、頭から決めつけていた。
ヘイズ領の悲劇を見ても民を救おうとしなかったのは、王様ではなく、王様を支える役目の我々の方であったのだと、覇王様の言葉でやっと目が覚めたのだと私は言った。
「覇王様はこれまで、何度も何度も、私たちが変わるチャンスを与えてこられました。
それでいいのか? このままでは無能な領主のせいで民が死んでしまうぞ! と問われ続けてこられたのに、責任は決定した領主が取ればいいと思ってしまう、無責任で能無な臣下でした」
話しながら私は、どんどん自責の念に駆られていく。
「覇王様が、覇王様が王ではなく、支える者の責任だと仰ったのか?
いや、そ、それでも、私が無能な王であったことに変わりない。私が・・・」
きっとこれまで、ご自分を無能な王だと責め続けてこられたのだろう。
言葉を詰まらせ口を堅く結んで、俯いた王様はポタリと涙を零された。
……王の涙を見ると心が痛い。何故、何故もっと早く向き合わなかったのだろう。
「覇王様は、戦う気概の無い者は、誰であろうと切り捨てる。この国の民を守るためなら、障害となるモノを覇王として排除する。
王の臣下として、皆にその覚悟ができたと考えていいのだな? と問われました。
臣下としての覚悟・・・その言葉の意味が分かった時、私は、いえ、私たちは、王の臣下として失格だったと思い知らされました。
王様、これから私は【王の盾】となり、王様の障害となるモノを撥ね退け、攻撃しようとする者から王様をお守りいたします」
私は再び臣下の礼をとり、安心して先頭に立って戦ってくださいとお願いした。
「まだ間に合うなら、私もこの時から生まれ変わろう。
大臣の顔色を窺う王にはもうならない!
国王として先頭に立って戦い、民に認められる王に、強い王になる。ありがとうマリード侯爵」
王様は立ち上がると、晴れやかな表情で力強く宣言された。
もう、先程までの気弱な王はここに居ない。
これからは戦う同志として、そして臣下として共にあろう。
私たちはそれから30分の間、覇王様の要求をのんで、コーチャー山脈で魔獣討伐をし、必ず魔石を手に入れるため、宰相・財務大臣・他の大臣や副大臣を漏れなく、強制参加させる作戦を立てた。
◆ ◆ ◆ ◆
私は意識を、宰相が招集した緊急会議に戻した。
初めて大臣たちに怒りの感情をぶつけられた王様を見て、出席者の半分はバツの悪い顔をして俯き、半分は何が起こったのだろうという顔をしている。
「王様、何を仰るのですか? 王様が非道な王だと批判されることを、私たちが望むはずがありません」
慌てて弁解したのは宰相のサナへ侯爵だ。
その表情を見れば、これまで懸命に尽くしてきたのに、何故そのようなことを言われるのだろうかと、不満に思う感情が隠せていない。
「では何故、民は私や宰相や財務大臣に怒りをぶつけているのだ?
民のため懸命に尽くす【覇王軍】や【王立高学院特別部隊】に対し、国が何の援助もせず、無責任にも程があると判断したからであろう」
これまでの王様なら、サナへ侯爵の発言に「そうだな」と返されただろう。
だが今日は違う。サナへ侯爵の発言に反論し、きちんとした説明を求めたのだ。
「特別予算を確認したら、緊急を要する案件に出せる金額は、金貨1200枚はあったぞ財務大臣。
それに、全く機能していない国防省が持っている予算が使えるだろう。
既に国防省は必要ない機関と成り下がっているのに、何故金貨3000枚もの金を眠らせている?
国の存亡の懸かった局面を、財務省は正しく判断できないようだな。
国王権限で、【王立高学院特別部隊】に金貨2000枚の謝罪金を支払い、古代魔術具発動のための資金として、金貨2000枚を拠出する。
これは決定事項であり、お前たちの尻拭いのための決定であることを忘れるな!」
王様の堂々とした物言いに、私は思わず目を見張ってしまった。
人というものは、覚悟するだけでこうも変われるものなのだと驚かされた。
正しい判断ができないと名指しされた、財務大臣と副大臣の顔色は悪い。
そして、全く戻ってくる気配さえない国防省大臣の代わりに出席していた副大臣は、予算の殆どを削減され死にそうな顔をしている。
王様は、昨夜から今朝にかけて、各部署の予算書と今年度予算を丁寧に確認されていた。
執務机の上に積み上げられていた書類を見た私は、王様の本気を見たような気がして嬉しかった。
「それが認められないのであれば、他の部署の予算から捻出しますか?
それとも宰相・大臣・副大臣は、抗議デモの責任を取って総辞職する……又は、1年間無給で働かれますか? そうすれば金貨4000枚など簡単に出せますよ」
私は王様の言葉を援護するように、抗議デモの責任という部分を強調し、自分はどちらでも構わないと涼しい顔をして言った。
何か反論しなければと思考し、口を開き掛けていた副大臣たちは、総辞職と無給という言葉を聞いて口をつぐんだ。
どうやら誰も責任は取りたくないようで、王様の決定に従うと声を上げ始めた。
「当面、金の問題は体裁を整えられるとして、問題は、覇王様からの課題だ」
王様はそう投げかけて、出席者全員を睨むように見ていく。
ここで目を逸らす大臣や副大臣は失格だと、私は王様に進言しておいた。
絶対コーチャー山脈に行かせるか、最悪、命の値段として金貨500枚を徴収すると事前に決めてある。
「何の問題もないでしょう。皆さん覇王講座で魔法攻撃も学ばれたはずですから。
民の怒りを和らげるためにも、【覇王軍】【王立高学院特別部隊】はもちろん、王立高学院の教授や学生から信頼を得るために、魔獣討伐に、魔石の採取に行きましょう!」
いい笑顔で断言したのは、国務大臣であり【魔獣討伐専門部隊】の責任者でもあるワイコリーム公爵だった。
そして宰相と財務大臣は、王様の決断を尊重するだろうと、頭から決めつけていた。
ヘイズ領の悲劇を見ても民を救おうとしなかったのは、王様ではなく、王様を支える役目の我々の方であったのだと、覇王様の言葉でやっと目が覚めたのだと私は言った。
「覇王様はこれまで、何度も何度も、私たちが変わるチャンスを与えてこられました。
それでいいのか? このままでは無能な領主のせいで民が死んでしまうぞ! と問われ続けてこられたのに、責任は決定した領主が取ればいいと思ってしまう、無責任で能無な臣下でした」
話しながら私は、どんどん自責の念に駆られていく。
「覇王様が、覇王様が王ではなく、支える者の責任だと仰ったのか?
いや、そ、それでも、私が無能な王であったことに変わりない。私が・・・」
きっとこれまで、ご自分を無能な王だと責め続けてこられたのだろう。
言葉を詰まらせ口を堅く結んで、俯いた王様はポタリと涙を零された。
……王の涙を見ると心が痛い。何故、何故もっと早く向き合わなかったのだろう。
「覇王様は、戦う気概の無い者は、誰であろうと切り捨てる。この国の民を守るためなら、障害となるモノを覇王として排除する。
王の臣下として、皆にその覚悟ができたと考えていいのだな? と問われました。
臣下としての覚悟・・・その言葉の意味が分かった時、私は、いえ、私たちは、王の臣下として失格だったと思い知らされました。
王様、これから私は【王の盾】となり、王様の障害となるモノを撥ね退け、攻撃しようとする者から王様をお守りいたします」
私は再び臣下の礼をとり、安心して先頭に立って戦ってくださいとお願いした。
「まだ間に合うなら、私もこの時から生まれ変わろう。
大臣の顔色を窺う王にはもうならない!
国王として先頭に立って戦い、民に認められる王に、強い王になる。ありがとうマリード侯爵」
王様は立ち上がると、晴れやかな表情で力強く宣言された。
もう、先程までの気弱な王はここに居ない。
これからは戦う同志として、そして臣下として共にあろう。
私たちはそれから30分の間、覇王様の要求をのんで、コーチャー山脈で魔獣討伐をし、必ず魔石を手に入れるため、宰相・財務大臣・他の大臣や副大臣を漏れなく、強制参加させる作戦を立てた。
◆ ◆ ◆ ◆
私は意識を、宰相が招集した緊急会議に戻した。
初めて大臣たちに怒りの感情をぶつけられた王様を見て、出席者の半分はバツの悪い顔をして俯き、半分は何が起こったのだろうという顔をしている。
「王様、何を仰るのですか? 王様が非道な王だと批判されることを、私たちが望むはずがありません」
慌てて弁解したのは宰相のサナへ侯爵だ。
その表情を見れば、これまで懸命に尽くしてきたのに、何故そのようなことを言われるのだろうかと、不満に思う感情が隠せていない。
「では何故、民は私や宰相や財務大臣に怒りをぶつけているのだ?
民のため懸命に尽くす【覇王軍】や【王立高学院特別部隊】に対し、国が何の援助もせず、無責任にも程があると判断したからであろう」
これまでの王様なら、サナへ侯爵の発言に「そうだな」と返されただろう。
だが今日は違う。サナへ侯爵の発言に反論し、きちんとした説明を求めたのだ。
「特別予算を確認したら、緊急を要する案件に出せる金額は、金貨1200枚はあったぞ財務大臣。
それに、全く機能していない国防省が持っている予算が使えるだろう。
既に国防省は必要ない機関と成り下がっているのに、何故金貨3000枚もの金を眠らせている?
国の存亡の懸かった局面を、財務省は正しく判断できないようだな。
国王権限で、【王立高学院特別部隊】に金貨2000枚の謝罪金を支払い、古代魔術具発動のための資金として、金貨2000枚を拠出する。
これは決定事項であり、お前たちの尻拭いのための決定であることを忘れるな!」
王様の堂々とした物言いに、私は思わず目を見張ってしまった。
人というものは、覚悟するだけでこうも変われるものなのだと驚かされた。
正しい判断ができないと名指しされた、財務大臣と副大臣の顔色は悪い。
そして、全く戻ってくる気配さえない国防省大臣の代わりに出席していた副大臣は、予算の殆どを削減され死にそうな顔をしている。
王様は、昨夜から今朝にかけて、各部署の予算書と今年度予算を丁寧に確認されていた。
執務机の上に積み上げられていた書類を見た私は、王様の本気を見たような気がして嬉しかった。
「それが認められないのであれば、他の部署の予算から捻出しますか?
それとも宰相・大臣・副大臣は、抗議デモの責任を取って総辞職する……又は、1年間無給で働かれますか? そうすれば金貨4000枚など簡単に出せますよ」
私は王様の言葉を援護するように、抗議デモの責任という部分を強調し、自分はどちらでも構わないと涼しい顔をして言った。
何か反論しなければと思考し、口を開き掛けていた副大臣たちは、総辞職と無給という言葉を聞いて口をつぐんだ。
どうやら誰も責任は取りたくないようで、王様の決定に従うと声を上げ始めた。
「当面、金の問題は体裁を整えられるとして、問題は、覇王様からの課題だ」
王様はそう投げかけて、出席者全員を睨むように見ていく。
ここで目を逸らす大臣や副大臣は失格だと、私は王様に進言しておいた。
絶対コーチャー山脈に行かせるか、最悪、命の値段として金貨500枚を徴収すると事前に決めてある。
「何の問題もないでしょう。皆さん覇王講座で魔法攻撃も学ばれたはずですから。
民の怒りを和らげるためにも、【覇王軍】【王立高学院特別部隊】はもちろん、王立高学院の教授や学生から信頼を得るために、魔獣討伐に、魔石の採取に行きましょう!」
いい笑顔で断言したのは、国務大臣であり【魔獣討伐専門部隊】の責任者でもあるワイコリーム公爵だった。
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