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高学院二年目

229ー1 それぞれの目指す道(3)ー1

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「それは凄い。古代魔術具でドラゴン討伐できるなら、王都の守りは強固になるぞ」

マキアート教授の報告を聞き、歓喜の声を上げたのは第二王子ログドルだ。
 彼は建設大臣という役職に在り、できるだけ王都の重要な建物を守りたいと願っていた。

 膨大な復興費用のことも考え、市街戦を回避する方法はないかと、俺の執務室に何度か訪ねて来ており、覇王軍メンバーとも親交があった。
 エイト曰く、ログドル王子は覇王である俺の信奉者なんだとか・・・


 マキアート教授は、右側の魔術具の説明を終えると、いろいろ発言したそうにしている大臣たちに発言させず、さっさと左側の魔術具の説明に移った。

 左側の魔術具は、魔獣討伐にも使えると思われるが、広範囲を照らす光の魔術具だったり、巨大な魔法陣を発動させ落とし穴的なものを作ったり、どちらかというと防衛重視の魔術具であると説明した。

「これらの魔術具を起動させるには、魔獣の上位種や変異種クラスの魔石が必要です。
 王宮にある全ての貴重な魔石を使い切ったとしても、二日分といったところでしょう。

 そこで新たな予算を組んで、財務部には冒険者ギルドや商業ギルドから、できるだけ多くの魔石を買い取って頂きたい」

マキアート教授は、本日の核となる資金要請を国王側に突きつけた。
 大きな成果を生み出す魔術具は、魔石の消耗が激しいので、たくさんの魔石を用意するか、魔術具を改良するための予算が必要なのだと、研究者らしく熱弁をふるった。

「新たな予算かぁ・・・有用な魔術具であれば、膨大な復興費用を抑えられるかもしれないが、試すのにも予算が必要となると、直ぐに返事はできないな」

新たな出費に表情を曇らせながら、財務大臣レイム公爵は腕組みをする。

「特別予算から出せばいい。直ぐに出せるのはどのくらいだ?」

資金を出し渋っている様子のレイム公爵に、出せる金額を国王が訊いた。

「特別予算から捻出するなら、金貨800枚が限界です」と、レイム公爵は答えて渋い顔をした。


「貼り出された魔術具の中には描いておりませんが、まだ起動できていない魔術具の中に、巨大な魔法障壁をつくることが可能だと思われるモノが残っています」

マキアート教授は最後に、本日の目玉でもある、巨大な魔法障壁をつくることができる魔術具の存在を明かした。

「巨大な魔法障壁だと?」

驚きと喜びの入り混じった表情で、マキアート教授を見ながら訊いたのは国王だ。

「その範囲はどのくらいなのですか?」と、キラキラした瞳で問うのはログドル第二王子。

「いろいろな魔石を試しているのですが、上位種程度の魔石では起動しませんでした。
 魔石をセットする部分の大きさも、他の魔術具の倍以上の大きさがあります。

 変異種クラスの魔石を同時に2個、又は、ドラゴンの成獣クラスの魔石がないと起動できないのではないかと思われます。
 恐らく、いえ、予想ではありますが、魔石の魔力量によって、魔法障壁を張れる広さが決まるのではないかと考えられます」

ログドル王子の問いに答えたのは、魔法陣・魔法攻撃の責任者マサルーノだった。


「王立高学院が実験に使用してきた魔石は、王宮の地下宝物庫にあったモノが半分、残り半分は【覇王軍】と覇王様から提供されている。
 皆さんはご存じないかもしれないが、【覇王軍】から提供された魔石をギルドで購入しようとした場合、その金額は軽く金貨1,000枚を越えている。

 この国は、学生の命懸けの活動と、完全なる正義感と善意の上に胡座をかき、甘えて何もしてこなかった。
 大ケガを負った学生に対し、金貨1枚さえ出さない国に対し、教育者である我々の怒りと無念さがどれ程のもか、まるで分かっておられない。

 よって本日以後、【覇王軍】や学生が命懸けで手に入れた魔石は、全てギルドで換金させていただく。
 せ、せめてケガの治療費や……ポ、ポーション購入代金くらい・・・出してやらねば……顔をあげて学院内を歩けない」

マキアート教授は言葉を詰まらせながら、教育者としての立場から意見というか、怒りの感情をぶつけた。


 俺は自分でできることは自分でやればいいと思ってきたけど、教授の立場からすると、国の姿勢は無責任過ぎたようだ。
 こんな機会でもなければ、ぶつけられない思いだったのだろう。

 しかも学院長は王族だから、マキアート教授は自分の心の内を、半分も伝えていない可能性の方が高い。
 それをすれば、学院長の兄である国王の政治批判をしたことになる。
 親友でもある学院長を、追い込みたくなかったはずだ。

 学院長に視線を向ければ、ショックを受けたように下を向いている。
 きっと、学生の命を預かる責任者として、マキアート教授ほどに思い至れなかった自分を情けなく感じているはずだ。
 国王側の他のメンバーも、何も言えず下を向くしかない。


「これまで各領地に出動して得た活動費の半分は、薬草の購入代金や救済活動で使うポーション作りで消えています。
 隊員の隊服や装備、食費や移動費だって当然必要です。ほんのわずかな出動報酬ですら、既に払えるかどうかという状態です。

 足りない薬草は覇王様が自ら採取しに出掛けられ、馬車の維持費や人件費も覇王様が個人のお金から捻出されています。

 もしも皆さんが、【覇王軍】や【王立高学院特別部隊】に対し、ちゃんと協力し連携しているなどと思っていらっしゃるとしたら、それは思い上がりであり、無責任……いえ、無知というものです」

ラリエスは淡々とした口調で静かに語りながら、次第に語気に怒りを孕ませながら言い放つ。

 そして無意識に威圧してしまい、対面に座っている者たちの顔色を青くさせる。
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