428 / 709
高学院二年目
228ー1 それぞれの目指す道(2)ー1
しおりを挟む
冒険者ギルド代表者の脅しに、国王側の半数が不快な顔をした。
冒険者ギルドのサブギルマス如きが、王様に喧嘩を売ったことが許せないのか、これまで領主や高官以外が意見する機会など与えられていなかったからなのか・・・
……どちらにしても笑える。
この会議室には、テーブルを囲み着席している発言権の有る大臣たち以外にも、部下である副大臣たちがいる。
大臣を補佐する為なのか、そういう決まりなのか分からないが、壁際の椅子に座って控えている。
王族であるが故に、無礼だと許せない顔をしたのはレイム公爵だ。
不快感を隠さないのが、サナへ侯爵と、大臣の後ろに控えている者たちである。
覇王である俺が連れてきた選りすぐりのメンバーに対し、無礼なのはどちらなんだろうか。
不快な顔をした者は、この場で一番身分が高い人物を、まだ国王だと思っているし、うちのメンバーより自分たちの方が地位が高いと思っている。
……確かに王から与えられた貴族としての役職は上なのだろうが、力とか地位まで高いと思っているなら、それは覇王を見下していることになる。
俺は覇王として、貴族の身分や権力が欲しいと思ったことなどない。
自分に与えられた使命を果たすため、覇王という役を精一杯演じている。
覇王の仮面を付ければ覇王らしく、大商人を目指すアコル・ドバインの素顔は消す。
覇王のキャラでいる時は、己の運命を受け入れ、遺言に従い最大限の努力をしているのだ。
「私が容認しているとは、どういう意味だろうか?」
平静を装った国王が、サブギルマスであるダルトンさんに問う。
「税に関することが、国王の許可なしに行えるとは思えません。
思えないのに堂々と公言し実行されたのです。誰でも容認されたのだと思うのではないですか?
それとも、税に関する権限を持つ財務部が目溢しをしている……又は、職務怠慢で調査していない……又は、国王の許可など必要ないと、デミル公爵が勝手に思っているということでしょうか?」
一世一代の大舞台で、これぞ冒険者の代表という顔をして、ダルトンさんはきっぱりと見えを切った。
「何だと! 我々が職務怠慢だというのか!」と大声で怒鳴ったのは財務副大臣だ。
「それでは、何なのです?」と、俺は発言権の無い副大臣ではなく、大臣であるレイム公爵を軽く睨みながら冷たく問う。
睨んだのが不味かったのか、軽く覇気が漏れてしまい、レイム公爵と隣にいた国王が胸に手を当て顔を歪める。
「ぶ、部下が失礼しました。財務部では、そ、その情報は掴めていませんでした」
レイム公爵は苦しそうに顔を歪めて謝罪する。
どうやら俺が、覇王であることを思い出してくれたようだ。
「も、申し訳ありません覇王様、私は決して……決してそのようなことを容認しておりません。至急デミル公爵を呼び戻し、真偽を確認します」
ちょっと顔色を悪くした国王が、容認はしていないと謝罪しながら断言した。
上司であるレイム公爵と国王が謝罪したことがショックだったのか、財務副大臣は椅子から滑り落ちて尻もちをついている。
……ああ、俺の覇気の影響かぁ。
エイトとボンテンクが滅茶苦茶怖い顔で副大臣たちを睨んでいるけど、おいおい、人相が悪いぞ二人とも・・・
「確認して不正が事実だとしたら、王様はデミル公爵をどう処罰されるのでしょうか?
その返答によっては、デミル領の冒険者ギルドは閉鎖され、冒険者は他領に移動することになります」
半分演技、半分は本気で怒っているダルトンさんが、最後の仕上げとばかりに追い込んでいく。
俺は薄っすらと微笑んで、どうするの?って視線を、トーマス王子と学院長に向ける。
……さあ、お手並み拝見の時間だ。
「もちろん処分します。
昨年末には国費を使って軍の大群を勝手に動かし、あろうことか自領の民を意図的に見殺しにした。
また、追放した元第一王子マロウを匿い、子息は王都の教会を崩壊させた。
そして今回は国法を犯し、冒険者ギルドと冒険者を苦しめようとした。
王様は、慈悲を持って改心することを望んでおられたが、反省さえせず、自領の民を迫害した。
今回こそ爵位剥奪のうえ領主を罷免されるだろう。そうですよね王様?」
勝負に出たのはトーマス王子ではなく学院長だった。
処罰ではなく処分と言い切り、弱腰の国王に決断を促していく。
「王様、デミル公爵の処罰は、この私にお命じください。私が王の剣となり、罪人を排除いたします」
少し遅れてトーマス王子が、椅子から立ち上がって力強く断言し、王命をと願い出た。
「こちらは国務大臣として調査した、デミル公爵家が犯した罪の一覧です。
残念ながら子息も息女も、全員が大なり小なりの犯罪行為を犯しています。
世代交代くらいでは、デミル領の浄化は不可能だと思われます。
ですので、デミル公爵だけを呼び寄せるのではなく、トーマス王子はハシム殿と共に一般軍を率いて、デミル領で一族全てを罪人として捕える方がいいでしょう」
カバンの中から調査書類の束を取り出し、テーブルの上に置いたワイコリーム公爵は、挑むような視線をトーマス王子に向け後押しした。
「デミル領の行いには目に余るものがあり、マリード領も多大な迷惑を受けていました。
一般軍の大臣としても、国務大臣の提案をお受けしたいと思います」
王やレイム公爵に何も言わせないよう、ハシム殿も決定事項のように大きく頷いて見せる。
何が起こったのか分からないという顔をしているのは、宰相のサナへ侯爵だ。
茫然と目を見開いているのは、レイム公爵とマギ公爵。
最も困惑している様子の国王は、学院長とトーマス王子にじっと視線を向け何かを思考している。
冒険者ギルドのサブギルマス如きが、王様に喧嘩を売ったことが許せないのか、これまで領主や高官以外が意見する機会など与えられていなかったからなのか・・・
……どちらにしても笑える。
この会議室には、テーブルを囲み着席している発言権の有る大臣たち以外にも、部下である副大臣たちがいる。
大臣を補佐する為なのか、そういう決まりなのか分からないが、壁際の椅子に座って控えている。
王族であるが故に、無礼だと許せない顔をしたのはレイム公爵だ。
不快感を隠さないのが、サナへ侯爵と、大臣の後ろに控えている者たちである。
覇王である俺が連れてきた選りすぐりのメンバーに対し、無礼なのはどちらなんだろうか。
不快な顔をした者は、この場で一番身分が高い人物を、まだ国王だと思っているし、うちのメンバーより自分たちの方が地位が高いと思っている。
……確かに王から与えられた貴族としての役職は上なのだろうが、力とか地位まで高いと思っているなら、それは覇王を見下していることになる。
俺は覇王として、貴族の身分や権力が欲しいと思ったことなどない。
自分に与えられた使命を果たすため、覇王という役を精一杯演じている。
覇王の仮面を付ければ覇王らしく、大商人を目指すアコル・ドバインの素顔は消す。
覇王のキャラでいる時は、己の運命を受け入れ、遺言に従い最大限の努力をしているのだ。
「私が容認しているとは、どういう意味だろうか?」
平静を装った国王が、サブギルマスであるダルトンさんに問う。
「税に関することが、国王の許可なしに行えるとは思えません。
思えないのに堂々と公言し実行されたのです。誰でも容認されたのだと思うのではないですか?
それとも、税に関する権限を持つ財務部が目溢しをしている……又は、職務怠慢で調査していない……又は、国王の許可など必要ないと、デミル公爵が勝手に思っているということでしょうか?」
一世一代の大舞台で、これぞ冒険者の代表という顔をして、ダルトンさんはきっぱりと見えを切った。
「何だと! 我々が職務怠慢だというのか!」と大声で怒鳴ったのは財務副大臣だ。
「それでは、何なのです?」と、俺は発言権の無い副大臣ではなく、大臣であるレイム公爵を軽く睨みながら冷たく問う。
睨んだのが不味かったのか、軽く覇気が漏れてしまい、レイム公爵と隣にいた国王が胸に手を当て顔を歪める。
「ぶ、部下が失礼しました。財務部では、そ、その情報は掴めていませんでした」
レイム公爵は苦しそうに顔を歪めて謝罪する。
どうやら俺が、覇王であることを思い出してくれたようだ。
「も、申し訳ありません覇王様、私は決して……決してそのようなことを容認しておりません。至急デミル公爵を呼び戻し、真偽を確認します」
ちょっと顔色を悪くした国王が、容認はしていないと謝罪しながら断言した。
上司であるレイム公爵と国王が謝罪したことがショックだったのか、財務副大臣は椅子から滑り落ちて尻もちをついている。
……ああ、俺の覇気の影響かぁ。
エイトとボンテンクが滅茶苦茶怖い顔で副大臣たちを睨んでいるけど、おいおい、人相が悪いぞ二人とも・・・
「確認して不正が事実だとしたら、王様はデミル公爵をどう処罰されるのでしょうか?
その返答によっては、デミル領の冒険者ギルドは閉鎖され、冒険者は他領に移動することになります」
半分演技、半分は本気で怒っているダルトンさんが、最後の仕上げとばかりに追い込んでいく。
俺は薄っすらと微笑んで、どうするの?って視線を、トーマス王子と学院長に向ける。
……さあ、お手並み拝見の時間だ。
「もちろん処分します。
昨年末には国費を使って軍の大群を勝手に動かし、あろうことか自領の民を意図的に見殺しにした。
また、追放した元第一王子マロウを匿い、子息は王都の教会を崩壊させた。
そして今回は国法を犯し、冒険者ギルドと冒険者を苦しめようとした。
王様は、慈悲を持って改心することを望んでおられたが、反省さえせず、自領の民を迫害した。
今回こそ爵位剥奪のうえ領主を罷免されるだろう。そうですよね王様?」
勝負に出たのはトーマス王子ではなく学院長だった。
処罰ではなく処分と言い切り、弱腰の国王に決断を促していく。
「王様、デミル公爵の処罰は、この私にお命じください。私が王の剣となり、罪人を排除いたします」
少し遅れてトーマス王子が、椅子から立ち上がって力強く断言し、王命をと願い出た。
「こちらは国務大臣として調査した、デミル公爵家が犯した罪の一覧です。
残念ながら子息も息女も、全員が大なり小なりの犯罪行為を犯しています。
世代交代くらいでは、デミル領の浄化は不可能だと思われます。
ですので、デミル公爵だけを呼び寄せるのではなく、トーマス王子はハシム殿と共に一般軍を率いて、デミル領で一族全てを罪人として捕える方がいいでしょう」
カバンの中から調査書類の束を取り出し、テーブルの上に置いたワイコリーム公爵は、挑むような視線をトーマス王子に向け後押しした。
「デミル領の行いには目に余るものがあり、マリード領も多大な迷惑を受けていました。
一般軍の大臣としても、国務大臣の提案をお受けしたいと思います」
王やレイム公爵に何も言わせないよう、ハシム殿も決定事項のように大きく頷いて見せる。
何が起こったのか分からないという顔をしているのは、宰相のサナへ侯爵だ。
茫然と目を見開いているのは、レイム公爵とマギ公爵。
最も困惑している様子の国王は、学院長とトーマス王子にじっと視線を向け何かを思考している。
2
お気に入りに追加
311
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる