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高学院二年目
226ー2 臣下の覚悟ー2
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俺の言葉を聞いたトーマス王子が、ガタンと音をたてて椅子から立ち上がるが、大きく息を吐き、何も言えず俯いて静かに座り直した。
学院長も、悔しそうに顔を歪めて目を閉じる。
そんなことはない、国王は民のことをちゃんと考えている!と、誰も口にしない。
それを口にすれば、では、具体的にどう考えているのだと、俺に質問された時に答えを用意しておかねばならない。
「覇王様、発言してもよろしいでしょうか?」
重い空気の中、緊張した表情で手を挙げたのはマリード侯爵だった。
「もちろんですマリード侯爵」と、俺は笑顔で応えた。
「どうか国王に、覇王様の御心をストレートにお伝えください。
我ら臣下が情けないのは重々承知しておりますが、国王とレイム公爵は現在、魔獣に関する重要決定権をお持ちではありません。
王宮は完全に部外者扱いで、意見する機会さえ・・・いえ、覇王様の御考えを聞くこともできません。
そんなことも分からないのかと見捨てるのではなく、この国を……大事に思う仲間として、お考えいただくことはできないでしょうか?」
今まで聞いたことがない辛そうな声で話すマリード侯爵は、云い終えて立ち上がると、俺に向かって深く頭を下げた。
すると、ワイコリーム公爵、学院長、ハシム殿、トーマス王子が続いて立ち上がり、「お願いします」と深く深く頭を下げた。
「確かに現状をみると、我々と国……というか王様とは連携できていません。
資金を出していないので当然だとは思いますが・・・
アコル様、私も共に王宮へ参ります。
アコル様が行きたくなければ、どうぞ、この私を代理としてお使いください」
ラリエスはそう言って、父親と同じように立ち上がり頭を下げた。
ラリエスも、俺と国王や王宮との関係を憂いていたようだ。
「分かった。皆がそれを望むであれば、王宮と連携しよう。
最善の策を練り、それを実行するための協力なら惜しむことはない。
ただし、俺は誰に対しても言葉を選ぶことはしない」
「ありがとうございます」と、今度は全員が立ち上がり頭を下げた。
皆は覇王に従っているけど、この国の国王の臣下だったってことだ。
「だが、戦う気概もない者は、誰であろうと切り捨てる。
この国と民を守るためなら、障害となるモノを覇王として排除する。
皆はアルファス国王の臣下として、その覚悟ができたと考えていいのだな?」
俺の問いに、暫く誰も返事をしない。
どう答えるのが正解なのか、覚悟という言葉の解釈が分からず、黙っている可能性もある。
ただ国王と仲良くして欲しいなんて考えている者は居ないだろうが、俺が王宮に乗り込むということは、それなりの波乱を伴うということだ。
「もちろんです覇王様」と、一番に応えたのはワイコリーム公爵だった。
トーマス王子は、俺が国王を切り捨てるのではないかと恐れているのだろう。
額に汗を滲ませ、どう返答すべきか苦悩している。
「ブラックドラゴンの脅威を考えれば、一刻の猶予もありません。
私は自領の民も国も、救いたいと真剣に思っています。
王宮の混乱を鎮める必要があるなら、私は、王の剣となります」
覚悟という言葉の意味を正しく理解し、力強く宣言したのはハシム殿だ。
王の剣・・・それは、王に代わり剣を抜き、敵を討つ者のことを指す。
「そ、その仕事は……私が、次期国王を目指す私がすべきことです」
驚いたことに、あのトーマス王子が自分から戦う姿勢を見せた。
俺だけではなく、覇王軍メンバーがびっくりしたという視線を向けている。
確かに、次期国王を目指すなら、邪魔者を自ら排除するくらいの気概は必要だ。
それが父である国王を守るためであっても、トーマス王子が覚悟を決めたのなら喜ばしい。
「トーマス王子は、王の剣としての役目を果たし、王の指示に従えない者を排除するということですね。
フフ、ではマリード侯爵には王の盾として、覇王である私の暴走を止めて頂きましょう」
俺はトーマス王子とマリード侯爵に視線を向け、挑むように微笑んだ。
トーマス王子は、少し困惑した表情だったが「もちろんです」と答えて、何かが吹っ切れたようで男らしい顔つきに変わった。
「ありがとうございます覇王様。どうか遠慮なく王にご意見ください。
盾としての役目、必ずや果たしてみせます。
王や領主たちに何が足らなかったのか、この年になって、ようやく分かりました」
マリード侯爵も宣言し、覇王様と息子に教えられたと付け加えた。
これまで領主も大臣も王子も、誰も王を命懸けで守ろうとしていなかった。
王は、剣も盾も、軍師も戦士さえ持っていなかったのだ。
「それでは私は、覇王様の剣となりましょう」と、ラリエスが嬉しそうに言う。
「では私は覇王様の盾となり、如何なる敵からもお守りします」とボンテンクが宣言する。
「それなら私は覇王様の弓となり、近付く敵を牽制しましょう」と、エイトも胸を張る。
「私は、覇王様の前に立ちはだかる全ての敵を、魔法で蹴散らしてみせます」とマサルーノも手を上げる。
「フフ、私は覇王様のため、妖精と女性のネットワークを駆使し、誰が敵なのかを探りましょう」と、シルクーネさんが黒く微笑んだ。
その途端、男性陣は全員、ゾクッと背筋に冷たいものが走った。
この国の女性は強い。この学院でも、情報を集めたり先読みして動いてくれるのは女性だ。
王宮では、女性の能力を上手く使えていないようだが、俺は始めから頼りっぱなしだ。
この場にノエル様やミレーヌ様が居たら、もっと怖い……いやいや、もっと頼もしい発言を聞けただろう。
「親身に王に寄り添っていなかったのは、我々の方だった……ということか。
覇王様、私も王族として覚悟を決め、覇王様の示された道に挑んでみます。
贅沢を言わせて頂けるなら、デミル領がいいですね。
ワイコリーム領とマリード領が隣なら、こんな私でも領主になれる気がしてきました」
にっこりと笑って、学院長は爆弾発言をした。
学院長も、悔しそうに顔を歪めて目を閉じる。
そんなことはない、国王は民のことをちゃんと考えている!と、誰も口にしない。
それを口にすれば、では、具体的にどう考えているのだと、俺に質問された時に答えを用意しておかねばならない。
「覇王様、発言してもよろしいでしょうか?」
重い空気の中、緊張した表情で手を挙げたのはマリード侯爵だった。
「もちろんですマリード侯爵」と、俺は笑顔で応えた。
「どうか国王に、覇王様の御心をストレートにお伝えください。
我ら臣下が情けないのは重々承知しておりますが、国王とレイム公爵は現在、魔獣に関する重要決定権をお持ちではありません。
王宮は完全に部外者扱いで、意見する機会さえ・・・いえ、覇王様の御考えを聞くこともできません。
そんなことも分からないのかと見捨てるのではなく、この国を……大事に思う仲間として、お考えいただくことはできないでしょうか?」
今まで聞いたことがない辛そうな声で話すマリード侯爵は、云い終えて立ち上がると、俺に向かって深く頭を下げた。
すると、ワイコリーム公爵、学院長、ハシム殿、トーマス王子が続いて立ち上がり、「お願いします」と深く深く頭を下げた。
「確かに現状をみると、我々と国……というか王様とは連携できていません。
資金を出していないので当然だとは思いますが・・・
アコル様、私も共に王宮へ参ります。
アコル様が行きたくなければ、どうぞ、この私を代理としてお使いください」
ラリエスはそう言って、父親と同じように立ち上がり頭を下げた。
ラリエスも、俺と国王や王宮との関係を憂いていたようだ。
「分かった。皆がそれを望むであれば、王宮と連携しよう。
最善の策を練り、それを実行するための協力なら惜しむことはない。
ただし、俺は誰に対しても言葉を選ぶことはしない」
「ありがとうございます」と、今度は全員が立ち上がり頭を下げた。
皆は覇王に従っているけど、この国の国王の臣下だったってことだ。
「だが、戦う気概もない者は、誰であろうと切り捨てる。
この国と民を守るためなら、障害となるモノを覇王として排除する。
皆はアルファス国王の臣下として、その覚悟ができたと考えていいのだな?」
俺の問いに、暫く誰も返事をしない。
どう答えるのが正解なのか、覚悟という言葉の解釈が分からず、黙っている可能性もある。
ただ国王と仲良くして欲しいなんて考えている者は居ないだろうが、俺が王宮に乗り込むということは、それなりの波乱を伴うということだ。
「もちろんです覇王様」と、一番に応えたのはワイコリーム公爵だった。
トーマス王子は、俺が国王を切り捨てるのではないかと恐れているのだろう。
額に汗を滲ませ、どう返答すべきか苦悩している。
「ブラックドラゴンの脅威を考えれば、一刻の猶予もありません。
私は自領の民も国も、救いたいと真剣に思っています。
王宮の混乱を鎮める必要があるなら、私は、王の剣となります」
覚悟という言葉の意味を正しく理解し、力強く宣言したのはハシム殿だ。
王の剣・・・それは、王に代わり剣を抜き、敵を討つ者のことを指す。
「そ、その仕事は……私が、次期国王を目指す私がすべきことです」
驚いたことに、あのトーマス王子が自分から戦う姿勢を見せた。
俺だけではなく、覇王軍メンバーがびっくりしたという視線を向けている。
確かに、次期国王を目指すなら、邪魔者を自ら排除するくらいの気概は必要だ。
それが父である国王を守るためであっても、トーマス王子が覚悟を決めたのなら喜ばしい。
「トーマス王子は、王の剣としての役目を果たし、王の指示に従えない者を排除するということですね。
フフ、ではマリード侯爵には王の盾として、覇王である私の暴走を止めて頂きましょう」
俺はトーマス王子とマリード侯爵に視線を向け、挑むように微笑んだ。
トーマス王子は、少し困惑した表情だったが「もちろんです」と答えて、何かが吹っ切れたようで男らしい顔つきに変わった。
「ありがとうございます覇王様。どうか遠慮なく王にご意見ください。
盾としての役目、必ずや果たしてみせます。
王や領主たちに何が足らなかったのか、この年になって、ようやく分かりました」
マリード侯爵も宣言し、覇王様と息子に教えられたと付け加えた。
これまで領主も大臣も王子も、誰も王を命懸けで守ろうとしていなかった。
王は、剣も盾も、軍師も戦士さえ持っていなかったのだ。
「それでは私は、覇王様の剣となりましょう」と、ラリエスが嬉しそうに言う。
「では私は覇王様の盾となり、如何なる敵からもお守りします」とボンテンクが宣言する。
「それなら私は覇王様の弓となり、近付く敵を牽制しましょう」と、エイトも胸を張る。
「私は、覇王様の前に立ちはだかる全ての敵を、魔法で蹴散らしてみせます」とマサルーノも手を上げる。
「フフ、私は覇王様のため、妖精と女性のネットワークを駆使し、誰が敵なのかを探りましょう」と、シルクーネさんが黒く微笑んだ。
その途端、男性陣は全員、ゾクッと背筋に冷たいものが走った。
この国の女性は強い。この学院でも、情報を集めたり先読みして動いてくれるのは女性だ。
王宮では、女性の能力を上手く使えていないようだが、俺は始めから頼りっぱなしだ。
この場にノエル様やミレーヌ様が居たら、もっと怖い……いやいや、もっと頼もしい発言を聞けただろう。
「親身に王に寄り添っていなかったのは、我々の方だった……ということか。
覇王様、私も王族として覚悟を決め、覇王様の示された道に挑んでみます。
贅沢を言わせて頂けるなら、デミル領がいいですね。
ワイコリーム領とマリード領が隣なら、こんな私でも領主になれる気がしてきました」
にっこりと笑って、学院長は爆弾発言をした。
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