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高学院二年目

226ー1 臣下の覚悟ー1

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 今年発生した魔獣の氾濫は、春にサーシム領のリドミウムの森、ヘイズ領と王都との境にあるライバンの森、夏に入ってからは龍山、つい最近ではワートン領のアホール山と、大規模な氾濫が続いている。

 ライバンの森の氾濫では、ヘイズ領の住民・冒険者・兵士を含めた死者数は2100人を超えた。
 夏の龍山の氾濫は広範囲で、マギ領の冒険者が多く負傷し、マギ領とサナへ領の死傷者は400人を超えた。 

 魔獣討伐専門部隊の死傷者の数は35人、覇王軍、王立高学院特別部隊の学生も、多くの負傷者を出した。

 雨季にはミル山の火山噴火による氾濫もあり、マリード領とニルギリ公国で被害が出た。
 王都がグレードラゴンに襲撃されたりもしたが、あの時の被害は人災に近い。
 教会の崩落は、王都民に大きな衝撃と恐怖を与え、未だ復興の兆しさえない。

 50頭クラスの魔獣の小規模氾濫は日常茶飯事だが、覇王軍、魔獣討伐専門部隊、冒険者が力を合わせ、被害を最小限に抑えてきた。
 何と言っても光のドラゴンのお陰で、遠隔地への対応が可能になった影響は大きい。

 龍山の次に高いセイロン山にも多くの魔獣はいるが、光のドラゴン2頭が定期的に上位種や変異種を食料にしているので、大きな氾濫は起こっていない。


 本日は新しくできた覇王軍本部で行う第一回の覇王軍会議で、総責任者のボンテンクが、冒頭で今年の被害状況と活動内容を報告していく。

 参加者は、覇王軍本部内の【覇王軍】から、社会人となったボンテンク、シルクーネ、マサルーノ。
【覇王軍第二部隊】が、俺の護衛でもあるタルトさん。【冒険者ギルド連携部】が、サブギルマスのダルトンさん。【事務局】が、事務局長のエバンさん。

【魔獣討伐専門部隊】からワイコリーム公爵。【魔法省】からマリード侯爵。【一般魔法省】からトーマス王子。【一般軍】からハシム殿。
【王立高学院】から学院長と副学院長のマキアート教授。

 そして覇王である俺と、側近ラリエス、従者エイトの合計15人である。
 これからは、このメンバーが主となり魔獣の大氾濫に対応していく。


 次は、【魔獣討伐専門部隊】のワイコリーム公爵が、現状報告をする。

「魔獣討伐専門部隊は、サーシム領のリドミウムの森に展開していた部隊を王都に戻しました。
 その理由は、危険な山や森を抱えている多くの領主から、サーシム領だけ守るのはおかしいとクレームが入ったからです」

「まあ確かに、現状では何処の領地も危険度は変わらないな」と、サブギルマスのダルトンさんが頷きながら言う。

「そこで魔獣討伐専門部隊は、暫く王都を中心に活動することになりました。
 今後は、覇王軍に出動料を払わず、救援要請してこない領地に向かうよう王命がでる可能性が高いです。

 しかし公平を期すため、タダで利用できる便利な部隊だと勘違いされないよう、出動は拒否します。
 魔獣討伐専門部隊は、覇王様の管理下にある組織ですから」

ワイコリーム公爵は、ちょっと不機嫌そうに言い切った。

 そもそも、覇王軍に対し当然の対価を払わない領主が悪いのに、支払わなくても魔獣討伐専門部隊が何とかしてくれると考えること自体がおかしいと、ワイコリーム公爵はご立腹なのだ。

「ああ、ワートン領とデミル領とヘイズ領ですね。
 その件に関して、冒険者ギルド本部から領主宛に、覇王軍や覇王軍第二部隊の救援が見込めない場合、冒険者は魔獣の討伐をしないと通達を出しました」

ダルトンさんも、不機嫌な顔をして付け加える。
 覇王軍に出動代金を払わない領主は、冒険者ギルドに対しても補助金を出していないので、これ以上冒険者を無駄死にさせる訳にはいかないと決断したようだ。


「最大の脅威となるブラックドラゴンが住んでいるのは、ヘイズ領とワートン領だというのに、民のことを考えられないような領主は……果たして必要だろうか?」

俺はテーブルの上に両肘をつき手を組んで、超不機嫌な顔をして全員に質問した。
 今日から俺は、学生という立場を考慮せず、覇王らしく絶対的な強者として振る舞うことにした。

 三日前に【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書の、新しいページが開いた。

〖 覇王は、道を示さねばならない。
その道を共に進む者を厳選し、妨害するものを排除する。
その道の障害を取り除くのは、臣下の務めである。
覇王は孤であってはならない。個として存在するが、希望を与える光として、多くを照らさねばならない〗

 初めて開いたそのページは、これまでと違い上級魔法や魔法陣は一切描いてなかった。
 文章を読んだ俺は、これは覇王の遺言の一節に違いないと判断し、俺なりの解釈で道を示すことにした。


 俺の問いに、皆の顔色は一瞬で変わった。

 俺の発言の意味するところを考えると、誰も何も答えられない。
 全員が心の中で同じように、そんな領主は要らないと思っていても、それを口に出すということは、国王を批判することと同義なのだから発言できない。

「国王もレイム公爵も、ヘイズ領の悲劇で、何も学ばなかったようだ。
 民をみすみす見殺しにできる国王って……どうなんだろう?
 
 彼等にとって、覇王軍や魔獣討伐専門部隊や冒険者の命は、見捨てられる民と同じように軽いのだろうな。
 彼らが守るべきは、命懸けで戦う者ではなく、何もしない領主ということだ」
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