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高学院二年目
220ー1 絆(1)ー1
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ブラックドラゴンという不気味な存在を知って、俺は改めて気を引き締め直した。
きっと、これからの戦いの核というか、最も恐れるべき強敵となるだろう。
ブラックドラゴンは魔法で魔獣を従えていると思っていたが、あれは従えていたのではなく、洗脳……いや、脳を乗っ取っていたと言った方が正しいと思う。
魔法で自由を奪われた魔獣たちは、己の意思で行動できなくなった。
……なんと恐ろしいことだろうか。
ただ道具のように操り、その生死などはどうでもいいって感じだった。
そうでなけれな、味方であるグレードラゴンを、あっさりと殺すはずがない。
ブラックドラゴンと魔獣の大氾濫・・・その関係は自然現象上に偶然現れたのか、意図的または決められた運命のようなものなのか・・・
光のドラゴンであるエリスやランドルは、魔獣の大氾濫が起こる時に誕生している。
希少なドラゴン種であることを考えると、同じような定めが存在している可能性もある。
「アコル様、落下したグレードラゴン2体を回収してきました」
ランドルが討伐したグレードラゴンとブラックドラゴンが殺したグレードラゴンを、ボンテンクが回収したと報告してきた。
「ああ、俺も他の魔獣を回収したところだ」と、赤黒く染まった大地を見ながら応えた。
このままじゃ匂いも酷いし魔獣や獣を引き寄せそうだと思った俺は、カルタック教授が改良してくれた魔法陣の紙を取り出し、水の大魔法を放って地面の血を地中に流し込んだ。
「町を救ってくださり、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
振り返ると、領主や冒険者、住民たちが深く頭を下げていた。
「偶然魔獣の氾濫を目撃して良かった。どうやらブラックドラゴンが魔獣を操っていたようだ。
今後は町とアホール山の間に見張りを置き、しっかり用心した方がいいだろう」
用心はしていたが、まさかこれ程に大規模な魔獣が襲撃してくるとは予想していなかった様子の領主や冒険者たちに、俺はこれからが大事なのだと注意しておく。
「アホール山には、グレードラゴンの群と、ブラックドラゴンの群が居た。
ドラゴンの襲撃にも注意し、必ず避難用の地下、又は山に避難豪を造っておかねばならない」
町に到着して直ぐに、対ドラゴン用の地下室があるかどうか確認していたボンテンクは、領主に向かって厳しい視線を向けて言った。
「はい従者様。しかし町にはB級魔術師以上の魔術師がおりません。
アッサム帝国の上位魔術師は、王都から優先して地下室や防護壁を造っています。
いつになったら辺境の町に魔術師を派遣していただけるか・・・
でも、今回の襲撃を目撃した町民は全員、手作業で地下室を造ってくれると思います」
領主はそう言って、町を挙げて避難豪や地下室を造ると約束してくれた。
元気な男たちは武器を手に持ち、領主と一緒に防護壁の上に身をかがめて、魔獣が爆走してくる様子を見ていたので、領主の言葉に皆がウンウンと頷いている。
もしも俺たちが魔獣を討ち漏らしたら、戦う気でいた住民たちを見て、コルランドル王国にはない姿勢だと感心する。
アッサム帝国の住民も、ホバーロフ王国と同じように、簡単な魔法攻撃ができる平民は多いようだ。
念のため防護壁の上に見張りを残して、俺とボンテンクは冒険者ギルドに向かう。
町に入ると、魔獣討伐成功を知った住民たちが、家から出てきたり窓から体を乗り出すようにして、ありがとうと手を振りながら笑顔で大歓迎してくれた。
冒険者ギルドの執務室で、領主や役場長、ギルマスたちと一緒に、今回の魔獣素材や討伐報酬、討伐費用について話し合う。
「覇王軍が出動した時は、最低でも金貨100枚は必要だと聞いています」
領主はとても緊張した表情で、救援出動費用について話し始めた。
「それは救援要請を受けて、王立高学院から出動した場合ですね。
アッサム帝国から救援要請を受けた場合であれば、金貨200枚は最低でも頂くことになるでしょう」
ボンテンクが、覇王軍の出動基準について説明する。
その途端、「金貨200枚……」とか「いや、住民の命の代金だから」と呟く声が聞こえた。
コルランドル王国の公爵でさえ、出動代金をまともに払おうとしない。
王都から離れた国境に近い子爵領の町にとって、金貨100枚は大金だ。200枚なんて絶対に払えないだろう。
「まあ今回は、依頼を受けたわけではないし、グレードラゴンの討伐は覇王軍の課題でもある。
広大な果樹園や収穫寸前の作物の損害を考えると、金貨30枚でいいだろう」
顔色の悪い領主に向かって、俺はにっこりと微笑んで出動代金を伝えた。
「えっ? たった金貨30枚ですか? そ、それなら何とか用意できます」と、俯いて泣きそうな顔をしていた役場長が、ばっと顔を上げて嬉しそうに応えた。
「あの、ド、ドラゴンや大量の魔獣は、こ、この町のギルドで換金されるのでしょうか?」
そう訊いてきたギルマスの顔色は、領主よりも悪かった。
ドラゴン1頭だけでも、この町のギルドが破産してしまうだろう。そりゃ顔色も悪くなるな。
「はは、大丈夫です。俺のマジックバッグは時間が経過しませんから持ち帰ります。
でも、上位種に踏みつぶされた下級魔獣や中級魔獣50頭は、この町のギルドで引き取ってもらいます。
それらの素材代金も討伐報酬も必要ありません。被災者で分配してください。
それからグレードラゴンを一頭、救済品として置いて帰ります」
「はい?」と、領主と役場長は目をパチパチさせ、ギルマスは訳が分からないという顔をした。
「まあ、一頭はブラックドラゴンが止めを刺していたので、あれは持って帰れないですね」
グレードラゴンを回収したボンテンクが、ちょっと損傷は激しいですが、売れば金貨200~300枚はするでしょうと付け加える。
きっと、これからの戦いの核というか、最も恐れるべき強敵となるだろう。
ブラックドラゴンは魔法で魔獣を従えていると思っていたが、あれは従えていたのではなく、洗脳……いや、脳を乗っ取っていたと言った方が正しいと思う。
魔法で自由を奪われた魔獣たちは、己の意思で行動できなくなった。
……なんと恐ろしいことだろうか。
ただ道具のように操り、その生死などはどうでもいいって感じだった。
そうでなけれな、味方であるグレードラゴンを、あっさりと殺すはずがない。
ブラックドラゴンと魔獣の大氾濫・・・その関係は自然現象上に偶然現れたのか、意図的または決められた運命のようなものなのか・・・
光のドラゴンであるエリスやランドルは、魔獣の大氾濫が起こる時に誕生している。
希少なドラゴン種であることを考えると、同じような定めが存在している可能性もある。
「アコル様、落下したグレードラゴン2体を回収してきました」
ランドルが討伐したグレードラゴンとブラックドラゴンが殺したグレードラゴンを、ボンテンクが回収したと報告してきた。
「ああ、俺も他の魔獣を回収したところだ」と、赤黒く染まった大地を見ながら応えた。
このままじゃ匂いも酷いし魔獣や獣を引き寄せそうだと思った俺は、カルタック教授が改良してくれた魔法陣の紙を取り出し、水の大魔法を放って地面の血を地中に流し込んだ。
「町を救ってくださり、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
振り返ると、領主や冒険者、住民たちが深く頭を下げていた。
「偶然魔獣の氾濫を目撃して良かった。どうやらブラックドラゴンが魔獣を操っていたようだ。
今後は町とアホール山の間に見張りを置き、しっかり用心した方がいいだろう」
用心はしていたが、まさかこれ程に大規模な魔獣が襲撃してくるとは予想していなかった様子の領主や冒険者たちに、俺はこれからが大事なのだと注意しておく。
「アホール山には、グレードラゴンの群と、ブラックドラゴンの群が居た。
ドラゴンの襲撃にも注意し、必ず避難用の地下、又は山に避難豪を造っておかねばならない」
町に到着して直ぐに、対ドラゴン用の地下室があるかどうか確認していたボンテンクは、領主に向かって厳しい視線を向けて言った。
「はい従者様。しかし町にはB級魔術師以上の魔術師がおりません。
アッサム帝国の上位魔術師は、王都から優先して地下室や防護壁を造っています。
いつになったら辺境の町に魔術師を派遣していただけるか・・・
でも、今回の襲撃を目撃した町民は全員、手作業で地下室を造ってくれると思います」
領主はそう言って、町を挙げて避難豪や地下室を造ると約束してくれた。
元気な男たちは武器を手に持ち、領主と一緒に防護壁の上に身をかがめて、魔獣が爆走してくる様子を見ていたので、領主の言葉に皆がウンウンと頷いている。
もしも俺たちが魔獣を討ち漏らしたら、戦う気でいた住民たちを見て、コルランドル王国にはない姿勢だと感心する。
アッサム帝国の住民も、ホバーロフ王国と同じように、簡単な魔法攻撃ができる平民は多いようだ。
念のため防護壁の上に見張りを残して、俺とボンテンクは冒険者ギルドに向かう。
町に入ると、魔獣討伐成功を知った住民たちが、家から出てきたり窓から体を乗り出すようにして、ありがとうと手を振りながら笑顔で大歓迎してくれた。
冒険者ギルドの執務室で、領主や役場長、ギルマスたちと一緒に、今回の魔獣素材や討伐報酬、討伐費用について話し合う。
「覇王軍が出動した時は、最低でも金貨100枚は必要だと聞いています」
領主はとても緊張した表情で、救援出動費用について話し始めた。
「それは救援要請を受けて、王立高学院から出動した場合ですね。
アッサム帝国から救援要請を受けた場合であれば、金貨200枚は最低でも頂くことになるでしょう」
ボンテンクが、覇王軍の出動基準について説明する。
その途端、「金貨200枚……」とか「いや、住民の命の代金だから」と呟く声が聞こえた。
コルランドル王国の公爵でさえ、出動代金をまともに払おうとしない。
王都から離れた国境に近い子爵領の町にとって、金貨100枚は大金だ。200枚なんて絶対に払えないだろう。
「まあ今回は、依頼を受けたわけではないし、グレードラゴンの討伐は覇王軍の課題でもある。
広大な果樹園や収穫寸前の作物の損害を考えると、金貨30枚でいいだろう」
顔色の悪い領主に向かって、俺はにっこりと微笑んで出動代金を伝えた。
「えっ? たった金貨30枚ですか? そ、それなら何とか用意できます」と、俯いて泣きそうな顔をしていた役場長が、ばっと顔を上げて嬉しそうに応えた。
「あの、ド、ドラゴンや大量の魔獣は、こ、この町のギルドで換金されるのでしょうか?」
そう訊いてきたギルマスの顔色は、領主よりも悪かった。
ドラゴン1頭だけでも、この町のギルドが破産してしまうだろう。そりゃ顔色も悪くなるな。
「はは、大丈夫です。俺のマジックバッグは時間が経過しませんから持ち帰ります。
でも、上位種に踏みつぶされた下級魔獣や中級魔獣50頭は、この町のギルドで引き取ってもらいます。
それらの素材代金も討伐報酬も必要ありません。被災者で分配してください。
それからグレードラゴンを一頭、救済品として置いて帰ります」
「はい?」と、領主と役場長は目をパチパチさせ、ギルマスは訳が分からないという顔をした。
「まあ、一頭はブラックドラゴンが止めを刺していたので、あれは持って帰れないですね」
グレードラゴンを回収したボンテンクが、ちょっと損傷は激しいですが、売れば金貨200~300枚はするでしょうと付け加える。
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