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高学院二年目

217ー1 ブラックドラゴンー1

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 それは目を覆いたくなる惨状だった。
 ホバーロフ王国側に生息しているグレードラゴンは、間違いなく人間を食料だと認識している。

 その上、腹を満たすだけではなく、目の前のやや小さなグレードラゴンは、狩りの練習というか襲うことだけを考えて人間を蹂躙していた。
 食料として……というより、子供が遊びを楽しんでいるかのようだった。

 先程の成獣が既に狩りをしていたようで、遺体らしきものの数は30を越えているし、今現在もその数を増やしている。
 逃げ惑う人間を追いかけて踏みつぶしたり、口にくわえて投げ捨てたりと、恐怖というより現実の出来事だと信じたくない思いに支配されそうになる。

「ランドル、素材は要らない」と、目を逸らしそうになる気持ちを叱咤して、ランドルに指示を出した。

『了解』と短く応えたランドルは、逃げていた最後の人間が踏みつぶされたのを確認し、子供のグレードラゴンの背後から炎の攻撃を放った。

 いつもより大きな炎は、一瞬にして子供のグレードラゴンの全身を包み、いつものグギャーッという耳障りな鳴き声を発する間もなく燃え上がった。
 あの高温の炎では、骨の一部くらいしか残らないだろう。


 囚人と思われるボロボロの服を着た男たちが、建物の陰に隠れてグレードラゴンが燃えていく様を震えながら見ている。
 建物の奥には、鉱山の入り口らしき穴が見える。

「どうして坑道に避難しなかったのでしょうか?」

直ぐ側に避難できる場所があるのに、何故逃げ込まなかったのだろうかと、ボンテンクは首を捻る。

 兵士らしき遺体の傍らには剣や弓が落ちているが、まさかグレードラゴンと戦おうとしたのか?
 もしかしたら簡単な魔法攻撃を仕掛けたかもしれないが、それはあまりにも無謀だろう。

「お前たち何をしている! 次こそは捕えるんだ! 今度は、あの金色のドラゴンを逃がすなー。ドラゴンの素材は高値で売れるんだぞ! 戦え! このゴミどもがー!」

坑道の入り口に姿を現した派手で華美な服を着た貴族らしい男が、信じられないことを大声で怒鳴っている。
 すると坑道の中から、スコップやツルハシを手にした囚人や看守らしき男たちが、震えながら出てきたではないか・・・

 ……これがホバーロフ王国の腐った貴族の現実か。

「ランドル、調査に戻るぞ」

怒りの感情に支配される前に、俺はこの場から去ることにして指示を出した。

 ランドルは何も言わず、わざと坑道の方に体を向け、いつもより大きく翼を動かして上昇する。
 坑道から出ていた貴族や看守数人が、強い風に煽られて飛ばされていく。

 突然の突風に囚人の多くは体を伏せたり、ツルハシを地面に突き刺し飛ばされないように身を守った。
 だが、何も手に持っていなかった貴族や看守は、吹き飛ばされて坑道入り口の壁に激突した。

「自業自得だな」と、冷たく低い声でボンテンクが呟いた。

『囚人の命なんて何とも思っていないんだろうね。
 あれは偶然ドラゴンに襲われて死んだのか、ドラゴンを意図的に狩ろうとして死んだのか……どっちにしても、ドラゴンのことを知らなすぎる』

ボンテンクの契約妖精ライム君が出てきて、腕を組みプンプン怒る。



 嫌なものを見たせいか全く空腹を感じないが、ランドルに休憩や食事を与えるため、グレードラゴンの巣がない岩場に降りて休憩する。
 いつの間にか雨は止んでおり、眼下に広がるホバーロフ王国の景色は美しかった。

 ミルダの町の宿の夫婦が気合を入れて作ってくれたお弁当を広げ、ランドル用には俺のマジックバッグの中に収納してあった上位魔獣を取り出して与える。
 は~っと特大の溜め息が出てしまったが、折角だからお弁当を食べよう。

 妖精たちも全員出てきて、好きなものを選んで食べていく。
 空に大きな虹が架かって、ちょっとだけ皆の気持ちが洗われていく。


 俺は政治に干渉したくないし、ホバーロフ王国を正そうとも思わない。
 俺が強大な王を目指していたら、ホバーロフ王国の王族を倒し王になればいい。でも俺の目標は大商人だ。

「そう遠くない未来に、現在のホバーロフ国王は倒される気がします。
 反国王派の公爵は、奴隷制度廃止や国民に対する圧政を止めると公言しているらしいです」

ボンテンクは、集めた情報からそうなる可能性が高いだろうと言う。
 本当にそうなるなら、それが一番理想的だ。

 ……俺にできることがあるとしたら、反国王派が勝利した後、生まれ変わろうとするホバーロフ王国の商人と取引を始めることくらいだ。


 昼食後は、順調に調査を続けることができた。
 ティー山脈のホバーロフ王国側には、結局4か所の巣があった。
 全ての巣は、4頭から8頭くらいで構成されており、それ以上に大きな巣は見当たらなかった。

 午前中に発見した巣と、レイム領の国境に近い場所に在った巣のグレードラゴンは、人間を餌だと認識して襲撃していることが明らかになった。
 今後コルランドル王国側にも飛んでくる可能性があるので、冒険者ギルドに報告しておかねばならない。

 夕方、次の目的地であるアホール山の麓にある町に到着した。
 アホール山の登山口は二箇所で、南側の登山口はレイム領の北端の町にあり、西側の登山口はワートン領の東端にあった。

 今夜泊まるのはワートン領の東端の町で、この町の冒険者ギルドには何度かお邪魔したことがある。
 初めて来たのは高学院に入学する前で、【宵闇の狼】のメンバーと一緒だった。

 アホール山に住んでいるグレードラゴンは、西側の大きな岩場に巣を作っていて、時々町の近くまで下りてきて人間を脅すが、まだ食料になったという報告はない。
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