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高学院二年目
216ー1 ティー山脈の魔獣ー1
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「風呂かあ・・・うん、悪くない」と呟いて巨大亀を見ると、なんだかバスタブに見えてくる。
「素材代金も期待できますね」と、ボンテンクも討伐に乗り気だ。
油断していた訳ではないが、俺たちに気付いた巨大亀は、ドンだけ首が伸びるんだよ! って叫びたくなる程に首を伸ばして、口から紫色の物体を吐き掛けてきた。
絶対に届かないだろうと思える距離をとっていたけど、信じられないことに直ぐ目の前まで紫色の液体が飛んできた。
……あー危なかった! まるで甲羅の中に角のある凶暴なアイススネークが入っているみたいだ。
「なんて凶暴で凶悪」と、ボンテンクは青い顔して驚いている。
「これは、遠距離攻撃で大きなダメージを与えないと倒せないな。
でもまあ目は2つだから、魔法攻撃はなさそうだ。ただ、あの数は厄介だ」
俺は腕を組んで、同じ巨体が9頭もいることに唸ってしまう。
あの数から一斉に紫色の酸と思われる液体で攻撃されたら、ランドルの翼に穴があく。
「ランドルの炎の攻撃はどうでしょうか?」と、遠距離攻撃ができるランドルに、試しに攻撃させてみてはとボンテンクが提案する。
「いや、もしもあの甲羅が炎を弾いたら、山火事になる可能性がある。
それに、攻撃によってあの集団が山を下れば、氾濫に繋がり被害が拡大するだろう。
確かに平地の方が攻撃しやすいが、山の上で上位魔獣同士で潰し合ってくれた方が助かる。
もしかしたら、その相手がグレードラゴンになるかもしれないし」
俺はそんな希望的なことを言いながら、今日は巨大亀と戦うのを止めると決めた。
そもそも亀なのに、湖や池もないような場所にいることが理解できない。まだ未知の能力がある可能性だってある。
「どうして魔獣の氾濫が起こる時は、未知の魔獣が多く現れるのでしょうか?」
リドミウムの森を西に見ながら再び南下していると、ボンテンクが今更だけどと疑問を投げかけた。
「俺もそのことは常に考えているんだが、全く答えが見つからない。
でも、その謎が分かれば、これからの魔獣の氾濫を防ぐことができるかもしれない。
あの有り得ない異形の変異種や、ドラゴンの異常繁殖が起こる現象には、きっと秘密があるはずだ。
強力な魔獣が増える・・・つまり、魔力量の多い魔獣が誕生するってことだ」
俺たちは、う~んと唸りながらも、視線はきちんとティー山脈の斜面にむけている。
『火山が突然噴火したのにも意味があるのかもしれないわ』とエクレアが、風を避けて俺のマントの中から顔を覗けて言う。
『魔獣が変化したのではなく、山や森が変化したとは考えられんか主?』と、ロルフが意外なことを言った。
「「山や森が?」」と、俺とボンテンクの声が揃う。
それは考えてもみなかったことだ。
……山や森が変化したから魔獣が変化した?
「確かに、それは絶対にないとは言えない気がします。魔獣は魔力を持っています。
山や森の魔力が変化したのなら、植物にも変化がないか調べてみるのはどうでしょうか?」
「それはいい考えかもしれないなボンテンク。調査が終わって学院に帰ったら、王宮の立ち入り禁止書庫に入って、その方面の記録や文献がないか探してみよう」
グレードラゴンの調査や巨大亀のことも大事だが、この謎を解明することができればと、俺の思考はすっかり【魔獣の変化】と【山や森の変化】との関連性に傾いていった。
丁寧に調査を続け、ティー山脈の南端に到着した頃には、夕日が空をオレンジ色に染めていた。
ミル山の噴火の様子も気になったので、今夜はマリード領のミルダの町に泊まることにする。
前回ランドルの姿も見せていたので、大きな混乱もなくミルダの町の冒険者ギルド近くの広場に降りることができた。
今回も「覇王様が来られたぞー!」って感じで大歓迎された。
冒険者ギルド近くの宿に宿泊をお願いし、出迎えに来たギルマスと一緒に宿で夕食を共にする。
「あれから大きな噴火は起きていません。上位種魔獣も時々山を下りてきますが、マリード支部からの応援も来たし、うちに所属しているBランク以上の冒険者も、覇王講座から戻ってきたので問題ないです」
なんとか討伐できていると、ギルマスは嬉しそうに報告する。
覇王講座で覚えた攻撃魔法や魔法陣攻撃によって、大ケガをする者も減り亡くなった者も居ないという。
「火山灰で野菜は値上がりしましたが、魔獣の肉が大量に出回ったので、食料不足にはなっていません」
宿の主人が美味しそうな料理をテーブルに並べながら、これも覇王様のお陰ですとニカリと笑いながら言う。
お任せで料理を頼んだら、豪快な肉料理が並んでいくので、確かに肉の値段は下がっているのだろう。
「おまけに毛皮や皮も格安で買えるようになったから、この冬の備えは万全です覇王様」
宿屋のおかみさんも、熱々のシチューを木の椀に注ぎながら嬉しそうに教えてくれる。
火山灰の被害が心配だったが、葉物野菜以外はなんとか収穫できているそうだ。
秋に向け、急いで葉物野菜の種を蒔いたそうで、9月には収穫が期待されているとか。良かった。
ただ、心配な情報もあった。
ギルマスによると、ミル山のマリード領側のクレバス辺りで、見たこともない巨大なホーンブルのような魔獣が何度か目撃されたらしい。
「もしもその魔獣に目が4つあったら、危険な魔法を使う可能性があります。討伐しようとせず、必ず【覇王軍】に連絡してください」
ミル山でも魔獣に変化が起きているらしい現状に、頭を抱えたくなった。
明日はミル山の上空も飛んで、目視できる範囲でドラゴンや変異種が居ないか確認することにしよう。
「素材代金も期待できますね」と、ボンテンクも討伐に乗り気だ。
油断していた訳ではないが、俺たちに気付いた巨大亀は、ドンだけ首が伸びるんだよ! って叫びたくなる程に首を伸ばして、口から紫色の物体を吐き掛けてきた。
絶対に届かないだろうと思える距離をとっていたけど、信じられないことに直ぐ目の前まで紫色の液体が飛んできた。
……あー危なかった! まるで甲羅の中に角のある凶暴なアイススネークが入っているみたいだ。
「なんて凶暴で凶悪」と、ボンテンクは青い顔して驚いている。
「これは、遠距離攻撃で大きなダメージを与えないと倒せないな。
でもまあ目は2つだから、魔法攻撃はなさそうだ。ただ、あの数は厄介だ」
俺は腕を組んで、同じ巨体が9頭もいることに唸ってしまう。
あの数から一斉に紫色の酸と思われる液体で攻撃されたら、ランドルの翼に穴があく。
「ランドルの炎の攻撃はどうでしょうか?」と、遠距離攻撃ができるランドルに、試しに攻撃させてみてはとボンテンクが提案する。
「いや、もしもあの甲羅が炎を弾いたら、山火事になる可能性がある。
それに、攻撃によってあの集団が山を下れば、氾濫に繋がり被害が拡大するだろう。
確かに平地の方が攻撃しやすいが、山の上で上位魔獣同士で潰し合ってくれた方が助かる。
もしかしたら、その相手がグレードラゴンになるかもしれないし」
俺はそんな希望的なことを言いながら、今日は巨大亀と戦うのを止めると決めた。
そもそも亀なのに、湖や池もないような場所にいることが理解できない。まだ未知の能力がある可能性だってある。
「どうして魔獣の氾濫が起こる時は、未知の魔獣が多く現れるのでしょうか?」
リドミウムの森を西に見ながら再び南下していると、ボンテンクが今更だけどと疑問を投げかけた。
「俺もそのことは常に考えているんだが、全く答えが見つからない。
でも、その謎が分かれば、これからの魔獣の氾濫を防ぐことができるかもしれない。
あの有り得ない異形の変異種や、ドラゴンの異常繁殖が起こる現象には、きっと秘密があるはずだ。
強力な魔獣が増える・・・つまり、魔力量の多い魔獣が誕生するってことだ」
俺たちは、う~んと唸りながらも、視線はきちんとティー山脈の斜面にむけている。
『火山が突然噴火したのにも意味があるのかもしれないわ』とエクレアが、風を避けて俺のマントの中から顔を覗けて言う。
『魔獣が変化したのではなく、山や森が変化したとは考えられんか主?』と、ロルフが意外なことを言った。
「「山や森が?」」と、俺とボンテンクの声が揃う。
それは考えてもみなかったことだ。
……山や森が変化したから魔獣が変化した?
「確かに、それは絶対にないとは言えない気がします。魔獣は魔力を持っています。
山や森の魔力が変化したのなら、植物にも変化がないか調べてみるのはどうでしょうか?」
「それはいい考えかもしれないなボンテンク。調査が終わって学院に帰ったら、王宮の立ち入り禁止書庫に入って、その方面の記録や文献がないか探してみよう」
グレードラゴンの調査や巨大亀のことも大事だが、この謎を解明することができればと、俺の思考はすっかり【魔獣の変化】と【山や森の変化】との関連性に傾いていった。
丁寧に調査を続け、ティー山脈の南端に到着した頃には、夕日が空をオレンジ色に染めていた。
ミル山の噴火の様子も気になったので、今夜はマリード領のミルダの町に泊まることにする。
前回ランドルの姿も見せていたので、大きな混乱もなくミルダの町の冒険者ギルド近くの広場に降りることができた。
今回も「覇王様が来られたぞー!」って感じで大歓迎された。
冒険者ギルド近くの宿に宿泊をお願いし、出迎えに来たギルマスと一緒に宿で夕食を共にする。
「あれから大きな噴火は起きていません。上位種魔獣も時々山を下りてきますが、マリード支部からの応援も来たし、うちに所属しているBランク以上の冒険者も、覇王講座から戻ってきたので問題ないです」
なんとか討伐できていると、ギルマスは嬉しそうに報告する。
覇王講座で覚えた攻撃魔法や魔法陣攻撃によって、大ケガをする者も減り亡くなった者も居ないという。
「火山灰で野菜は値上がりしましたが、魔獣の肉が大量に出回ったので、食料不足にはなっていません」
宿の主人が美味しそうな料理をテーブルに並べながら、これも覇王様のお陰ですとニカリと笑いながら言う。
お任せで料理を頼んだら、豪快な肉料理が並んでいくので、確かに肉の値段は下がっているのだろう。
「おまけに毛皮や皮も格安で買えるようになったから、この冬の備えは万全です覇王様」
宿屋のおかみさんも、熱々のシチューを木の椀に注ぎながら嬉しそうに教えてくれる。
火山灰の被害が心配だったが、葉物野菜以外はなんとか収穫できているそうだ。
秋に向け、急いで葉物野菜の種を蒔いたそうで、9月には収穫が期待されているとか。良かった。
ただ、心配な情報もあった。
ギルマスによると、ミル山のマリード領側のクレバス辺りで、見たこともない巨大なホーンブルのような魔獣が何度か目撃されたらしい。
「もしもその魔獣に目が4つあったら、危険な魔法を使う可能性があります。討伐しようとせず、必ず【覇王軍】に連絡してください」
ミル山でも魔獣に変化が起きているらしい現状に、頭を抱えたくなった。
明日はミル山の上空も飛んで、目視できる範囲でドラゴンや変異種が居ないか確認することにしよう。
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