キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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高学院二年目

215ー1 ホバーロフ王国の闇ー1

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 グレードラゴンをマジックバッグに収納し、辺りに居たホバーロフ王国の兵士たちに視線を向けると、俺に向けられていたのは恐れの表情だった。

 何せ俺は光のドラゴンから地上に降り立ち、グレードラゴンを一撃で倒し、その巨体を収納できるマジックバッグを持っていたのだから無理からぬ話だ。
 話す言葉はホバーロフ王国語だが、敵なのか味方なのかを測りかね、剣に手を掛けてはいるが動けないといったところだろう。

「何をしている! ケガをしている者の手当をしろ。亡くなった仲間は早く埋葬しないと、またグレードラゴンに襲われるぞ!」

指揮官不在で自己判断ができずにいる兵士たちに向かって、俺は大声で怒鳴った。

 ビグリと肩を震わせはしたが、そこは訓練された兵士らしく、急いで仲間を助けるために動き始めた。
 見ず知らずの若造の命令でも、それが今すべきことだと理解できたようだ。

 しかし、兵士たちの行動を見た俺は、理解できずに首を捻ってしまった。

 ……何故、軽症の者だけしか助けようとしない?


「アコル様、お怪我はありませんでしたか?」

敵兵を軽く睨みながら、走ってきたボンテンクが小声で話し掛けてきた。

「大丈夫だ。なあボンテンク、ホバーロフ王国の兵士は、何故重傷者を助けようとしないのだろう?」

「ああ、昔からです。ホバーロフ王国の下級兵士は平民です。
 大ケガをしても医者から治療を受けたり、薬を与えられることもないので、助かる見込みのないケガ人は足手まといになり、見捨てられるそうです」

「はあ?」と俺は思わず大きな声を出してしまった。

 そういえば、ホバーロフ王国の兵士は徴兵制で集められていたんだった。
 職業軍人もいるが、その割合は3割程度だと特務部の教科書に書いてあったな。

 いや、良く考えたらコルランドル王国だって、命懸けで魔獣討伐してくれる冒険者に対する待遇は、全く同じじゃないか。
 使い捨ての駒扱いで、医者や薬も与えられることはない。

 処刑されたヘイズ侯爵なんか、冒険者だけじゃなくて領軍の兵士だって死んで当たり前って感じだった。
 サーシム領の貴族だって、冒険者如きとか所詮は冒険者……って態度だった。

 ホバーロフ王国は、国の命令で国民を徴兵しているのに、本当に腐った王族や貴族たちだ。
 いやいや、コルランドル王国だって、【魔獣討伐専門部隊】の隊員が亡くなっても、その補償額は金貨1枚だし、その中には貴族だって入ってる。

「はぁっ、俺の思考は平民寄りだから、どうしても怒りを覚える」

「アコル様、生まれながらの貴族である私は、つい最近まで、そんなものだと思っていました。
 でも冒険者登録してから、これまでの価値観は大きく変わりました」

 軽傷者だけが荷馬車に乗せられ、重傷者や亡くなった兵士は捨て置かれる様を見ながら、俺とボンテンクの気持ちは重くなる。

 ……ここは戦場で、彼等は敵兵だ。これ以上の手出しはできない。

 二人で特大の溜め息を吐きながら、目の前の敵国の兵士をどうしたものかと思案する。
 後方から馬車が近付いてくるのが見えたので、早々に撤退することにしよう。

「これから光のドラゴンを呼ぶ。ケガをしたくないなら直ぐに撤退しろ!」と、俺は上空を見上げて再び大声で命じた。

 ホバーロフ王国の兵士は、俺に釣られたように空を見上げて、かなり上空を旋回している金色のドラゴンの姿を捉える。
 ランドルは黄金の冠をキラキラと輝かせながら、優雅に旋回していた。

 俺の指示を聞いたランドルは、旋回しながらゆっくりゆっくり高度を下げ始める。

 上官の命令でもないので、勝手に撤退することなどできないと考えていた兵士たちだが、流石にドラゴンの巨体が迫ってくれば、逃げないで留まる……という選択肢はなかったようだ。

 一斉に「ギャーッ!」と悲鳴を上げながら逃げ始める。
 近付いてきていた馬車も、慌てたように再び方向転換し、国境から離れていく。


「さて、せっかくだから、国境を塞いでおくか」と俺は呟く。

 ランドルに念話で、コルランドル王国側に移動して、国境付近にいるホバーロフ王国の兵士を、低空飛行で脅しながらホバーロフ王国側に追い払うように頼む。

 俺はボンテンクと、1キロくらい先に見える国境の壁に向かって移動する。
 
 巨大な国境門がはっきりと視線の先に見えた時、国境を占拠していたホバーロフ王国の兵士10人くらいが、恐怖で顔を引き攣らせながら逃げてきた。

「ドラゴンが来るぞー、早く逃げろー!」と叫んで、敵か味方かも分からない俺たちに危険を知らせる。
 
 先程のグレードラゴン2頭を、きっちり目視していたであろう彼等は、仲間たちが襲われていたことを知っているはずだ。
 ドラゴンに襲撃されるという恐怖が、今度は自分の身に降り掛かってきて完全にパニック状態になっていく。
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