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現実と理想
212ー1 混乱する卒業式ー1
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卒業式の朝、その一報は不確かなものとして、冒険者ギルドレイム支部から届いた。
レイム支部には、古代魔術具の通信機が設置されており、俺の執務室の親機に緊急連絡がきた。
野蛮な国と嫌われれている隣国ホバーロフ王国が、レイム領に進攻を開始したというのだ。
確かにコルランドル王国は、これまで30~50年に一度の割合でホバーロフ王国からちょっかいを掛けられていた。
だが、その全ての戦いにおいて勝利しており、レイム領も国境の守りを強固にしていた。
ホバーロフ王国は、新国王が誕生すると何故か戦争を仕掛けてくる。
現国王は在位して12年になるが、これまで戦争らしきものは仕掛けてこなかった。それは、現王が即位して直ぐに、ホバーロフ王国で疫病が流行ったからだ。
「覇王様、レイム領の国境の町が、ホバーロフ王国から侵攻されたと知らせがありました。
はじめは、ドラゴンや魔獣に襲われたホバーロフ王国の民が、助けを求めてレイム領に逃げ込んで来たらしいのです。
しかし、その避難民の中に、武器を隠し持った兵士が紛れており、町役場が占拠されました。
その町は、レイム領にある三つの国境ゲートのうち最も南に位置する町で、ティー山脈の北端に位置しています」
卒業生が会場に入場を始めたタイミングで、第二報を知らせてくれたのは、遅れて会場入りされた側室フィナンシェ様だった。
レイム公爵家から嫁がれた側室フィナンシェ様は、扇で口元を隠しながら詳しい状況を教えてくれる。
領都にいる公爵夫人から届いた伝書鳥によると、5日前に農民らしき者たちが20人ほど、魔獣に村が襲われたので助けて欲しいと国境に現れたらしい。
本来なら、ホバーロフ王国とは友好関係でもないので助けたりはしないのだが、魔獣の氾濫が起こったと泣きつかれたので、人命救助だと考え仕方なく受け入れたらしい。
ところが次の日も、ケガをした者や子供を含む80人が国境に現れた。
役場長は町外れにある広場を提供し、今後のことを領主様と相談するので、勝手に動き回らないようにと指示を出したそうだ。
しかし、なんとかお金だけは持ちだしたが、野宿するにも鍋や食器などの生活用品が無いので、町で買い物させて欲しいと泣いて頼まれ、同情した町の役人が許可を出してしまったらしい。
すると、荷車を押して町に入った10人の男たちが、突然荷車から剣や弓を取り出し、武装して役場を占拠した。
役場で働く者が殺されたり人質にされ、避難民を装って入国した兵士らしき50人が、現在町を制圧した状況なのだという。
「その国境の町は、確かサーシム領に近い場所でしたよね伯母上」
今日の俺は覇王としてではなく、学生兼ゲスト扱いでフィナンシェ様の隣に座って卒業式に列席している。
「はい覇王様。その町を治めているのは男爵ですが、その西隣はカイヤさんや従者であるボンテンク君の父である、ドレナス伯爵が治める領地です。
ドレナス伯爵はレイム公爵と一緒に、先程レイム領に戻られたそうです」
人の親切心を踏みにじる蛮行が許せないと付け加えて、フィナンシェ様は心配そうにボンテンク先輩に視線を向ける。
ボンテンク先輩は、魔法部主席として表彰を受けるため、卒業生の最前列に座っていた。
在学生は戦争に従軍してはならないし、国は学生を参加させてはならないと法律で決まっている。
でも、ボンテンク先輩は今日で学院を卒業する。
たとえ【覇王軍】の指揮官だとしても、自領が戦場となれば戻らずにはいられないだろう。
「今代の覇王が、レイム公爵家の血族だと知っての暴挙なのか、無知と無能が過ぎての暴挙なのか・・・まあ、どちらにしても、これは俺に売られた喧嘩なのでしょうね」
挨拶のためステージに向かう学院長に視線を向け、フィナンシェ様にだけ聞こえる小声で言って、俺は不敵に笑った。
学院長の少し長い挨拶が終わると、次は優秀な卒業生の表彰へと移っていく。
最初は特務部からで、成績優秀者は【覇王軍】のヤーロン先輩だった。
特別表彰は、飛び級で卒業を決め、この度B級一般魔術師の試験に合格して、来年度魔法部の3年に進級するゲイルだった。
商学部の成績優秀者は、飛び級卒業する俺だったが、覇王が表彰されると何かと煩いことになりそうなので辞退し、俺は教授たちと同じ場所に居た。
成績優秀者になったのは、ドバイン運送本店勤務が決まっているイステル先輩だった。
貴族部の成績優秀者はノエル様だ。
特別表彰は、B級一般魔術師を取得したミレーヌ様とノエル様を含む【王立高学院特別部隊】の4人だった。
魔法部の成績優秀者はボンテンク先輩で、特別表彰は、優れたオリジナル魔法陣を作成した功績でマサルーノ先輩が選ばれていた。
卒業式もいよいよ終盤になり、これまででは有り得なかったことが起きて、学生も参列していた保護者や来賓も驚いた。
いや、俺も驚いたよ。
「最後になりましたが、王様からお言葉を頂きます」と、学院長が告げたのだ。
当然のように体育館内はざわざわして、信じられないと首を横に振ったり、光栄なことだと喜んだり、いったい何事なのかと訝しがったりと、皆の反応は様々だった。
下級貴族や平民では、国王を間近で見ることも、直接お声を聞く機会などない。
中級貴族であったとしても、子女が謁見できることなどあり得ない。
ご尊顔を拝することがあるとしたら、国王の誕生祭で教会に向かわれる時くらいだ。
レイム支部には、古代魔術具の通信機が設置されており、俺の執務室の親機に緊急連絡がきた。
野蛮な国と嫌われれている隣国ホバーロフ王国が、レイム領に進攻を開始したというのだ。
確かにコルランドル王国は、これまで30~50年に一度の割合でホバーロフ王国からちょっかいを掛けられていた。
だが、その全ての戦いにおいて勝利しており、レイム領も国境の守りを強固にしていた。
ホバーロフ王国は、新国王が誕生すると何故か戦争を仕掛けてくる。
現国王は在位して12年になるが、これまで戦争らしきものは仕掛けてこなかった。それは、現王が即位して直ぐに、ホバーロフ王国で疫病が流行ったからだ。
「覇王様、レイム領の国境の町が、ホバーロフ王国から侵攻されたと知らせがありました。
はじめは、ドラゴンや魔獣に襲われたホバーロフ王国の民が、助けを求めてレイム領に逃げ込んで来たらしいのです。
しかし、その避難民の中に、武器を隠し持った兵士が紛れており、町役場が占拠されました。
その町は、レイム領にある三つの国境ゲートのうち最も南に位置する町で、ティー山脈の北端に位置しています」
卒業生が会場に入場を始めたタイミングで、第二報を知らせてくれたのは、遅れて会場入りされた側室フィナンシェ様だった。
レイム公爵家から嫁がれた側室フィナンシェ様は、扇で口元を隠しながら詳しい状況を教えてくれる。
領都にいる公爵夫人から届いた伝書鳥によると、5日前に農民らしき者たちが20人ほど、魔獣に村が襲われたので助けて欲しいと国境に現れたらしい。
本来なら、ホバーロフ王国とは友好関係でもないので助けたりはしないのだが、魔獣の氾濫が起こったと泣きつかれたので、人命救助だと考え仕方なく受け入れたらしい。
ところが次の日も、ケガをした者や子供を含む80人が国境に現れた。
役場長は町外れにある広場を提供し、今後のことを領主様と相談するので、勝手に動き回らないようにと指示を出したそうだ。
しかし、なんとかお金だけは持ちだしたが、野宿するにも鍋や食器などの生活用品が無いので、町で買い物させて欲しいと泣いて頼まれ、同情した町の役人が許可を出してしまったらしい。
すると、荷車を押して町に入った10人の男たちが、突然荷車から剣や弓を取り出し、武装して役場を占拠した。
役場で働く者が殺されたり人質にされ、避難民を装って入国した兵士らしき50人が、現在町を制圧した状況なのだという。
「その国境の町は、確かサーシム領に近い場所でしたよね伯母上」
今日の俺は覇王としてではなく、学生兼ゲスト扱いでフィナンシェ様の隣に座って卒業式に列席している。
「はい覇王様。その町を治めているのは男爵ですが、その西隣はカイヤさんや従者であるボンテンク君の父である、ドレナス伯爵が治める領地です。
ドレナス伯爵はレイム公爵と一緒に、先程レイム領に戻られたそうです」
人の親切心を踏みにじる蛮行が許せないと付け加えて、フィナンシェ様は心配そうにボンテンク先輩に視線を向ける。
ボンテンク先輩は、魔法部主席として表彰を受けるため、卒業生の最前列に座っていた。
在学生は戦争に従軍してはならないし、国は学生を参加させてはならないと法律で決まっている。
でも、ボンテンク先輩は今日で学院を卒業する。
たとえ【覇王軍】の指揮官だとしても、自領が戦場となれば戻らずにはいられないだろう。
「今代の覇王が、レイム公爵家の血族だと知っての暴挙なのか、無知と無能が過ぎての暴挙なのか・・・まあ、どちらにしても、これは俺に売られた喧嘩なのでしょうね」
挨拶のためステージに向かう学院長に視線を向け、フィナンシェ様にだけ聞こえる小声で言って、俺は不敵に笑った。
学院長の少し長い挨拶が終わると、次は優秀な卒業生の表彰へと移っていく。
最初は特務部からで、成績優秀者は【覇王軍】のヤーロン先輩だった。
特別表彰は、飛び級で卒業を決め、この度B級一般魔術師の試験に合格して、来年度魔法部の3年に進級するゲイルだった。
商学部の成績優秀者は、飛び級卒業する俺だったが、覇王が表彰されると何かと煩いことになりそうなので辞退し、俺は教授たちと同じ場所に居た。
成績優秀者になったのは、ドバイン運送本店勤務が決まっているイステル先輩だった。
貴族部の成績優秀者はノエル様だ。
特別表彰は、B級一般魔術師を取得したミレーヌ様とノエル様を含む【王立高学院特別部隊】の4人だった。
魔法部の成績優秀者はボンテンク先輩で、特別表彰は、優れたオリジナル魔法陣を作成した功績でマサルーノ先輩が選ばれていた。
卒業式もいよいよ終盤になり、これまででは有り得なかったことが起きて、学生も参列していた保護者や来賓も驚いた。
いや、俺も驚いたよ。
「最後になりましたが、王様からお言葉を頂きます」と、学院長が告げたのだ。
当然のように体育館内はざわざわして、信じられないと首を横に振ったり、光栄なことだと喜んだり、いったい何事なのかと訝しがったりと、皆の反応は様々だった。
下級貴族や平民では、国王を間近で見ることも、直接お声を聞く機会などない。
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