キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

文字の大きさ
上 下
392 / 709
現実と理想

210ー1 未来へと開ける道ー1

しおりを挟む
 俺は大きな椀のような形をした古代魔術具を手に取り、描かれていた絵を見て驚いた。
 そこには、数種類の薬草と思われる絵と、絵の横に重さと思われる数字が描かれていたのだ。

 俺の持つ知識の中にあるどのポーションにも該当しないその組み合わせに、俺は一縷の望みを抱いてしまう。

 ……もしもこの魔術具でポーションが製造できるなら、それがどんな効能の薬であれ大きな希望となるだろう。

 気付けば俺は、魔術具をマジックバッグに収納し、薬師部棟に向かって走りだしていた。
 慌てたラリエスが追ってくるが、逸る気持ちが抑えられず全力で走ってしまう。

 薬師部では午前中、講師、准教授、教授が全員集まり、すっかり底をついた薬やポーションの創薬準備をしているはずだ。

「ご相談があります」と、俺は勢いよくドアを開けて言った。
 驚いて俺の方を見る教師の皆さんは、何事だろうかと慌てて集まってくる。

 薬師部において俺のポジションは、神に次ぐくらいの順位で高いらしく、失われた最高級ポーションを再現させ、新たな新薬を生み出す奇跡の存在として、時々拝まれたりしている。
 
 覇王としての俺は、魔法攻撃指導や救済活動にも力や資金を注いでいるが、覇王軍に入った資金の4分の1を医療チームに注いでいた。
 薬の開発には最も力を入れ、医療チームの人材を育てられる仕組みを作り、薬草栽培には家族をも巻き込み気合を入れている。

 互いの知識を共有し、学び合い、魔力量を上げてきた。
 その努力のお陰で、今ではポーションや他の薬を作る時間が半分になった。
 妖精と契約した教師や学生が頑張って、薬草の生育速度は奇跡的だ。

 そんな薬師部の教師たちに、俺は古代の魔術具を見せて、古代文字の解読で分かったことを伝える。
 そして目の前の魔術具が、創薬に関するものかもしれないと、絵文字と数字を指さし説明した。

「もしもそうなら凄い発見です」と、母の友人でもあるラベンダー准教授が瞳を輝かせる。

「早速この絵に該当する薬草を調べよう!」と言って、セイランド教授が指示を出していく。

 俺はラリエスと一緒に、魔術具の起動方法を考えていく。

「この空間には、魔石を嵌め込むのではないでしょうか?」

魔術具の底にあった縦横高さ5センチくらいの大きさの空間に指を入れて、ラリエスが魔石を入れてみようかと提案する。
 直ぐに自分のマジックバッグの中からそれに近い大きさの魔石を取り出し、セットしてみてもいいですかと訊いてくる。

「確かに、魔術具の9割は魔石を原動力として動いているな」と、俺は頷いてラリエスに許可を出す。

 ラリエスが取り出した魔石は、今回サナへ領で討伐したレッドウルフの変異種の魔石で、色は血のように赤く透明感のない四角い魔石だった。

 セットして3分、残念ながら何の変化も起こらない。

「魔石の研究は少しずつ進んでいますが、魔力量が足らないのでしょうか?」

ラリエスは残念そうに言って、今度はビッグベアーの変異種の魔石を取り出しセットする。
 ビッグベアーの変異種の魔石は焦げ茶色で、形は楕円形だった。

 すると、魔術具はゴゴゴゴゴと低い音を立て始める。
 やはり魔石が原動力で間違いないようだ。
 音を聞いた数人の教師が、興味津々という感じで魔術具を上から覗き込む。

「この魔術具は、どうやって薬を作り出すのでしょうか?」と、リコッティー教授がキラキラした瞳で質問する。

「それが残念なことに、この魔術具の取扱説明書は無かったんです」と、俺は正直に事実を答えた。

 そうなんだよ。恐らくこの魔術具はポーションを作る機械で間違いないのに、取扱説明書が無いので正しい起動方法が全く分からない。

「とりあえず、現在作れるポーションの材料と、蒸留水を一緒に入れて起動してみましょう」

どんな方法でも試すしかないのだから、できることをドンドンやろうと俺は言った。


『この魔石だと、魔力量は120くらいかしら?』って、姿を現したエクレアが言う。

『そうだね、魔獣の強さは魔石の魔力量と同じくらいだね』と、ラリエスの契約妖精トワも姿を現し会話に参加してくる。

「それでは、120以下の魔力量で作れるポーションの薬草を持って参ります」と、リコッティー教授が直ぐに動いてくれる。

 都合のいいことに、この調剤室の続き部屋は薬草管理室だ。
 昨日王宮の薬草園からも、薬草をたくさん採取してきたようで、直ぐに準備は整うだろう。

 リコッティー教授が下級ポーションの材料を持って戻ってきたので、薬草図鑑で魔術具に描かれていた薬草を調べていた教師たちも、皆が手を止めて集まってくる。

 念のため、薬草を磨り潰した状態のものと、なにもしないままの状態の二通りを準備していく。

 皆の予想では、この魔術具は薬師に代わって薬草に魔力を注ぎ、ポーションを作ってくれる魔術具だろうと意見が揃っていた。
 もしもそうなら、素材と魔石さえあれば、魔力枯渇を恐れずにポーションが作れる。

 期待を込めて、皆は食い入るように魔術具と薬草を凝視していく。
 先ずは磨り潰した薬草と蒸留水を入れてみる。

「ここが機動スイッチだと思いますアコル様」と言いながら、ラリエスはカチリと音がするまで突起部分を押した。

 すると、ゴウンゴウンと音を立て始めた魔術具は、3分が経過した頃、聖魔法を使った時と同じような緑色の光が、魔術具の椀の中で一瞬だけ眩しく光った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...