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現実と理想

207ー2 医療の限界ー2

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 薬師部に到着すると、医学生や妖精と契約し医療コースを選択した学生たちが、懸命に治療をしていた。
 リーマス王子は、薬師コースの学生に指示を出しながら、実習室で湿布や痛み止めの薬を作っている。

 薬草を煎じる独特の匂いが漂う実習棟の右の部屋には、打撲や軽傷の者が12人、左の部屋には骨折や縫合が必要なケガ人が4人集められていた。

 ……こういう場面でも、ちゃんと危機管理指導講座で学んだことが活かされていて嬉しい。

 だが国難とはいえ、こうしてケガ人が出ると胸が詰まる。
 覚悟はしていたつもりでも、仲間が負傷するのは辛い。
 これが日常茶飯事になるのかと思うと、まだまだやるべきことがあるのではと焦ってしまう。

「覇王様」「アコル様」と、左側の部屋に入ると、俺を見付けた仲間たちが声を掛けてくれる。

 骨折と額に傷を負っているトゥーリス先輩、右腕に大きな傷を負っているヤーロン先輩は、サナへ領組で応急処置済み。
 左腕からダラダラと血を流しているマサルーノ先輩と、背中にやや深い傷を負っているミレッテさんはマギ領組で、全く治療を受けていない。

 ノエル様とカイヤさんが、懸命に止血しようと清潔な布で傷口を塞いでいるけど、王都に戻るまでにかなり出血していたようで、服に染み込んだ血は黒く変色している。
 外科医はモスナート教授しか学院に残っていないので、内科医のコリアンダー教授が治療にあたっていた。

 俺はマジックバッグに残っていた【慈悲の雫】の中級ポーションを3本取り出し、1本をコリアンダー教授に渡し、ミレッテさんの治療をしてもらう。

 カイヤさんは自分のマジックバッグの中から仕切り板を取り出し、女性の治療を見られないよう衝立を作ってくれた。
 ノエル様は、ミレッテさんの背中の部分の服をハサミで丁寧に切っていく。

 ミレッテさんは意識はあるものの、息は荒く口を開くのも辛そうだ。
 コリアンダー教授が傷口にゆっくりとポーションを振り掛けると、ミレッテさんは「うっ」と唸ってから「助かったー」と言って、気絶するように眠ってしまった。


「ゲイルとチェルシーさんは助かりそうですか?」と、マサルーノ先輩が暗い表情で訊いてきた。

「応急処置は済んだ。傷は塞いだが、予断を許さない状況だ。命は取り留められたと思う。しかし出血が多かったから、一週間は絶対安静だ」

「あ、ありがとうございます。良かった。本当に良かった」と、マサルーノ先輩は緊張の糸が切れたように体の力を抜き泣き出した。

 マサルーノ先輩の気持ちが痛い程に理解できるトゥーリス先輩も、隣で一緒に泣いている。

「さあ、今度はみんなの番だ。俺のとっておきのポーションを出してやろう」と俺は明るく言って、マサルーノ先輩の肩にそっと手を置いた。
 

 先ずは貧血で顔色の悪いマサルーノ先輩とヤーロン先輩の傷口に、ポーションの半分量を丁寧に塗るような感じで伸ばしていく。
 そして残った半分量は、薬として飲むよう指示を出した。

 二人とも熱があり体力も相当消耗しているけど、リーダーとして弱音を吐かず、ずっと気を張ってきたのだろ。
 塞がっていく傷口を見て、ようやくフーッと深く息を吐きだし緊張を緩めた。


 重度の裂傷を塞ぎ化膿を予防し、高熱を下げて消耗した体力を回復させる中級ポーション【慈悲の雫】は、マジックバッグの中にまだ10本くらい残っている。
 軽度から中度の裂傷を塞ぎ、消耗した体力を向上させる下級ポーションも、新たに作って20本持っている。

 だが、ホイホイとポーションを使えば、ケガをしても大丈夫だと思い無茶をしたり、させられたりする可能性がある。 

 ……出し惜しみしたい訳じゃない。
 ……でも、薬草の量も作れる薬師の数も限られている。
 ……命の重さが、身分やお金で優先されるのは我慢できない。

 俺は俺が助けるべきだと思う、懸命に人を助けようと頑張っている学院の仲間や、魔獣討伐専門部隊、冒険者にこそポーションを使いたいのだ。
 命の重さは皆同じだが、魔獣と戦える人材が居なくなれば、この国は終わってしまう。

 ……なんで俺以外に全適性持ちが居ないんだよ! 

 ふう、気持ちを切り替えてトゥーリス先輩の治療をしよう。

「特別大サービスで、トゥーリス先輩には俺の聖魔法を使います。
 まだ覚えたばかりだから、治るかどうか分かりません。凄ーく痛かったら言ってください」

俺はニヤリと笑いながら、トゥーリス先輩の額の傷に両手を当てた。
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