キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

文字の大きさ
上 下
378 / 709
現実と理想

203ー1 混乱と前進(1)ー1

しおりを挟む
 龍山から氾濫した魔獣の討伐がひと段落したのは、俺とランドルが子供のグレードラゴンを討伐した日から5日が過ぎた夕方だった。

 マギ領とサナへ領に到着した【覇王軍】と【魔獣討伐専門部隊】は、これまでとは違う数に翻弄された。
 避難する住民を守りながらの戦いで、負傷者を多く出し苦戦した。

 龍山の至る所から下山した魔獣たちは、上位種から逃げるため、できるだけ遠くへ移動しようとしたので、広範囲で討伐を行わねばならなかったのだ。

 原則、【覇王軍】は最低でも二人組で行動し、【魔獣討伐専門部隊】は四人組以上の人数で行動する。
 どれだけ少人数で対応しても、元々の人数が少ないので、広大な龍山を囲むように人員を配置することなど不可能だった。

 そこで俺はランドルに乗って、上空から魔獣の動きを監視し、妖精のエクレアとユテを使って地上に居る仲間たちに指示を出した。
 もちろん俺とランドルも魔獣が村や町に向かわぬよう、上空から攻撃を行った。

 サナへ領側は木々が殆どないので、魔獣の動きが目視できるが、マギ領側は木々が茂っており魔獣を発見するのが難しい。
 三日目にラリエスとエリスが龍山に戻って来たので、サナへ領側を担当してもらった。



 高学院を出発してから8日後、覇王軍の主要メンバーの半分が戻って来た。
 王都にドラゴンが飛来し、被害が出たと報告がきたからだ。
 
「ここまで苦戦したのは初めてです」

マギ領側で指揮を執っていたエイトが、王立高学院に戻って直ぐ、疲れた顔をして俺の執務室で報告を始めた。

 一緒にマギ領で指揮を執っていたマサルーノ先輩は、まだ安心できる状態ではないと判断し、冒険者ギルド龍山支部に残ってくれている。


「サナへ領も状況は良くありません。
 龍山の魔獣対策が全くできていなかったので、冒険者ギルドも領軍も、領都サナへから駆け付けるのに、一日半も掛かりました。

 龍山の麓で暮らす領民は、避難訓練もしておらず、避難場所も無かった。
 3つのシルバーウルフの群が、別々に村や牧場を襲い、被害は甚大です」

サナへ領で指揮を執っていたボンテンクは、8つの村が半壊、2つの村が全滅していたと報告し、新しく冒険者ギルドを設置すべきだと提案する。

 サナへ領には、まだルフナ王子もトゥーリス先輩も残っていて、【王立高学院特別部隊】は、全員が暫く帰れそうにないと追加報告をした。


「被害が広範囲に広がっているので、マギ領に向かった【王立高学院特別部隊】も、暫く帰れないと思います。
 夏なので食料は不足していませんが、ケガ人が多いので医療チームの派遣が必要です」

エイトは学院長の方を向いて、医療チームの派遣を要請する。
 それならばサナへ領にもお願いしますと、ボンテンクが同様に要請する。

「王都もいつどうなるか分からない。全員を出すことは出来ないが、教師と医学生の半分をマギ領とサナへ領に向かわせよう。護衛はどうしたらいいでしょうか?」

学院長は教師と学生の派遣を決定し、護衛をどうすべきかと俺の顔を見ながら訊いてきた。

「魔獣討伐専門部隊も暫く戻れません。
 マギ公爵とサナへ侯爵には、自領に戻って被害状況の確認と、被災者をどうするのか決めて貰わなきゃいけないので、領主の護衛と一緒に向かわせればいいでしょう」

 王都に居ても大して役に立ちませんから……という言葉は口には出さず、俺は学院長に領主を戻らせろと指示を出す。
 自領の民は自分で守るという気概くらい、領主なら見せて欲しい。


「覇王様、王様や大臣たちから、【覇王軍】か【魔獣討伐専門部隊】のどちらかでいいので、王都で指揮が執れる人材を数人、常に残しておいて欲しいと要請がありました」

どこか申し訳なさそうに、一般軍大臣であるハシム殿が王宮からの要望を伝えてきた。

 ……王都くらい自分たちで守れ! と言いたいのは山々だが、瓦礫と化した教会を見たら、人々のショックや衝撃も大きかったろうから、仕方ないだろう。


「それで結局、ドラゴンを攻撃したのは誰だったのですか?」と、リーマス王子がハシム殿に質問する。

「はい、攻撃したのはデミル公爵の子息と元王子マロウのようです。
 マロウ王子……いえ、元王子は、デミル公爵を頼ったようで、仲の良い側近だったデミル公爵の三男が、マロウを本教会で匿うよう命令し、最近は王都で暮らしていたとか・・・」

大きな溜息とともに、ハシム殿は重くなりそうな口を開いて、調べたことの真相を語っていく。

 ドラゴンが本教会の大聖堂に降りる直前、教会に居た者は全員、地下室に逃げ込んでいた。
 しかし、動く気配のないドラゴンの様子に、デミル公爵の子息が今ならドラゴンを背後から攻撃し、倒すことができるかもしれないと言い出した。

 首尾よく倒すか大きな傷を負わせれば、マロウ王子の罪は許され、自分と王子は王都をドラゴンから救った英雄になるだろうと、頭のネジの緩いデミル公爵の子息は考えた。

 ドラゴンが王都に飛来した時に指揮を執るのが誰なのか、何故誰も攻撃しようとしないのかということを、魔獣と戦ったことなどない二人は、全く考えようともしなかった。

 簡単にドラゴンを討伐できると思った二人は、自分たちが教会と王都を守ってやると宣言し、教会の司教たちが止めるのも聞かず、地下室から抜け出してしまった。

 その結果、教会は大聖堂も本教会も失い、飛ばされた教会のレンガなどで家や店を壊された建物は百軒以上。
 避難していたのでケガ人は少なかったが、それでも住民50人以上が負傷した。

 その後、ドラゴンは上級地区の城壁を壊し、上級地区に居を構えていた高位貴族の住居5軒を半壊させ、王城の天守塔の4つの内2つを崩落させた。
 気が済んだ感じのドラゴン2頭は、それから北に向かって飛び去った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...