373 / 709
現実と理想
200ー2 ドラゴン襲来とサナへ領の危機ー2
しおりを挟む
王立高学院が見えてきた頃には、中級地区の住民の姿は、殆ど見掛けなくなっていた。
この辺りの商会は、自分の敷地の中に地下室を造っているようだし、避難場所になっている公共施設も多い。
到着した王立高学院では、学生たちが避難してきた住民を地下室に誘導していた。
魔法部の教授や学生たちは、もしもに備えて臨戦態勢に入っている。
……さすが王立高学院。動きに迷いもないし、住民の避難を優先している。
緊急時に本部となる予定の図書室に向かうと、学院長や各学部の部長教授たちが集合していた。
ドラゴンが王都に飛来した場合、私は王宮を守ることなく、王都民を守るために最善を尽くすよう覇王様から命令されている。
それは王立高学院も同じで、ここは、ドラゴンと戦うための作戦本部となる。
「こんな時に限って、作戦本部を仕切る【魔獣討伐専門部隊】が居ない。
王都の様子はどうだハシム殿?」
学院長は窓から教会の方を見ながら、困ったという顔をして私に問う。
「はい、下級地区はかなり混乱していましたが、中級地区の人の姿は少なかったですよ。とりあえず建物の中に避難しているようです」と私は答えた。
「今のところ、グレードラゴンは人を襲っていないようですわ」と、側室フィナンシェ様は冷静だ。
「今この学院には、覇王軍、王立高学院特別部隊、優秀な魔法部の学生が居ない状態だが、残っている魔法部や特務部の学生も優秀だ」
「ええカルタック教授、昨年の今頃の魔法省のエリート、軍のエリート全員よりも戦力としては高いでしょう」と、特務部のパドロール教授が同意する。
「ドラゴン2頭なら、今の戦力でもいけそうかマキアート教授?」
「フッ、学院長、当然です。この日の為に改良型魔法陣も揃えてあるし、妖精と契約している者も多い。
学院長だって古代魔法陣が使えるのだから問題ないでしょう?」
マキアート教授は負ける気なんて全くないって顔をして、学院長を見てニヤリと笑う。
「問題は戦場となる場所ですね。王都内で戦闘が始まれば、どうしても建物や人の被害は大きくなります」
私は頼もしい仲間たちに向かって、唯一の問題点を上げて溜息を吐いた。
◇◇ ラリエス ◇◇
龍山から本格的な魔獣の氾濫が始まったと、連絡を受けたのは昨日の夜明けだった。
連絡してきた冒険者ギルド龍山支部によると、突然中級魔獣たちが群れで下山を開始したのだという。
その影響で、下位の魔獣が龍山の至る所から逃げだし始めたそうだ。
覇王様と私は、直ぐに光のドラゴンを呼んで、昼過ぎには龍山の上空に到着した。
そこで見たのは、グレードラゴンが龍山の中腹まで下りて、Aランク以上の上位魔獣を襲っている光景だった。グレードラゴンの数は20を越えている。
当然上位種の魔獣は、グレードラゴンの餌になりたくないから下山して逃げる。
今度は山の中腹より下に居た中級魔獣が、上位種から逃げ出し下山していく。
標高1500メートル付近に生息している中級魔獣たちは、群れで行動するものが多い。
群れで逃げ惑うことによって、800メートル付近に生息している下位の魔獣たちは、完全にパニックになっていた。
龍山は特殊な形をしていて、龍山の北と東に位置するマギ領側は、なだらかで冒険者も入山しやすい。
しかし龍山の南に位置するサナへ領側は、断崖絶壁というか、岩が剥き出しで木や草も殆ど生えていない。
岩場を生活圏にしている魔獣もいるが、主には鳥や鹿類の魔獣くらいで、種類の多いウルフ系やボア系などは生息していなかった。
しかし、中級や下位の魔獣たちは、生きる為に逃げねばならず、生活圏ではないサナへ領側に向かって移動を開始していた。
サナへ領側には、龍山で活動するための冒険者ギルドが無い。
冒険者が入山できる登山口もないし、登れるとしたら岩の多い王都側の西の斜面くらいだった。
マギ領には、龍山支部の他にも2箇所、龍山で活動する冒険者のための支部があり、常に龍山の魔獣の動きを注視していた。
だが、サナへ領の者は、龍山から魔獣が下りてくるという観念がなかった。
だから、ドラゴン以外の龍山の魔獣に襲われることはないと、警戒さえしていなかった。
『ラリエス、アコル様が直ぐに学院に戻って、【覇王軍】と【王立高学院特別部隊】、【魔獣討伐専門部隊】を、マギ領とサナへ領へ向かわせろって』
私と契約している光のドラゴンエリスが、アコル様の指示を念話で伝えてくれる。
アコル様はエリスとも念話ができるので、1キロ以内であればエリスを通して会話も可能だった。
「了解エリス。直ぐに学院に戻ろう。これは大変なことになりそうだ。アコル様はどうされるのだろう?」
私の話を聞いたエリスが、直ぐにアコル様の予定を訊いてくれた。
『アコル様は、ランドルと一緒にあのグレードラゴンたちを、山の中腹から追い払うって。できれば数も減らしたいって』
エリスからアコル様の予定を聞いた私は、急いで学院に取って返した。
そして学院に戻った私は、直ぐにサナへ領の冒険者ギルドに緊急事態を知らせ、【魔獣討伐専門部隊】へ出動要請を出した。
この辺りの商会は、自分の敷地の中に地下室を造っているようだし、避難場所になっている公共施設も多い。
到着した王立高学院では、学生たちが避難してきた住民を地下室に誘導していた。
魔法部の教授や学生たちは、もしもに備えて臨戦態勢に入っている。
……さすが王立高学院。動きに迷いもないし、住民の避難を優先している。
緊急時に本部となる予定の図書室に向かうと、学院長や各学部の部長教授たちが集合していた。
ドラゴンが王都に飛来した場合、私は王宮を守ることなく、王都民を守るために最善を尽くすよう覇王様から命令されている。
それは王立高学院も同じで、ここは、ドラゴンと戦うための作戦本部となる。
「こんな時に限って、作戦本部を仕切る【魔獣討伐専門部隊】が居ない。
王都の様子はどうだハシム殿?」
学院長は窓から教会の方を見ながら、困ったという顔をして私に問う。
「はい、下級地区はかなり混乱していましたが、中級地区の人の姿は少なかったですよ。とりあえず建物の中に避難しているようです」と私は答えた。
「今のところ、グレードラゴンは人を襲っていないようですわ」と、側室フィナンシェ様は冷静だ。
「今この学院には、覇王軍、王立高学院特別部隊、優秀な魔法部の学生が居ない状態だが、残っている魔法部や特務部の学生も優秀だ」
「ええカルタック教授、昨年の今頃の魔法省のエリート、軍のエリート全員よりも戦力としては高いでしょう」と、特務部のパドロール教授が同意する。
「ドラゴン2頭なら、今の戦力でもいけそうかマキアート教授?」
「フッ、学院長、当然です。この日の為に改良型魔法陣も揃えてあるし、妖精と契約している者も多い。
学院長だって古代魔法陣が使えるのだから問題ないでしょう?」
マキアート教授は負ける気なんて全くないって顔をして、学院長を見てニヤリと笑う。
「問題は戦場となる場所ですね。王都内で戦闘が始まれば、どうしても建物や人の被害は大きくなります」
私は頼もしい仲間たちに向かって、唯一の問題点を上げて溜息を吐いた。
◇◇ ラリエス ◇◇
龍山から本格的な魔獣の氾濫が始まったと、連絡を受けたのは昨日の夜明けだった。
連絡してきた冒険者ギルド龍山支部によると、突然中級魔獣たちが群れで下山を開始したのだという。
その影響で、下位の魔獣が龍山の至る所から逃げだし始めたそうだ。
覇王様と私は、直ぐに光のドラゴンを呼んで、昼過ぎには龍山の上空に到着した。
そこで見たのは、グレードラゴンが龍山の中腹まで下りて、Aランク以上の上位魔獣を襲っている光景だった。グレードラゴンの数は20を越えている。
当然上位種の魔獣は、グレードラゴンの餌になりたくないから下山して逃げる。
今度は山の中腹より下に居た中級魔獣が、上位種から逃げ出し下山していく。
標高1500メートル付近に生息している中級魔獣たちは、群れで行動するものが多い。
群れで逃げ惑うことによって、800メートル付近に生息している下位の魔獣たちは、完全にパニックになっていた。
龍山は特殊な形をしていて、龍山の北と東に位置するマギ領側は、なだらかで冒険者も入山しやすい。
しかし龍山の南に位置するサナへ領側は、断崖絶壁というか、岩が剥き出しで木や草も殆ど生えていない。
岩場を生活圏にしている魔獣もいるが、主には鳥や鹿類の魔獣くらいで、種類の多いウルフ系やボア系などは生息していなかった。
しかし、中級や下位の魔獣たちは、生きる為に逃げねばならず、生活圏ではないサナへ領側に向かって移動を開始していた。
サナへ領側には、龍山で活動するための冒険者ギルドが無い。
冒険者が入山できる登山口もないし、登れるとしたら岩の多い王都側の西の斜面くらいだった。
マギ領には、龍山支部の他にも2箇所、龍山で活動する冒険者のための支部があり、常に龍山の魔獣の動きを注視していた。
だが、サナへ領の者は、龍山から魔獣が下りてくるという観念がなかった。
だから、ドラゴン以外の龍山の魔獣に襲われることはないと、警戒さえしていなかった。
『ラリエス、アコル様が直ぐに学院に戻って、【覇王軍】と【王立高学院特別部隊】、【魔獣討伐専門部隊】を、マギ領とサナへ領へ向かわせろって』
私と契約している光のドラゴンエリスが、アコル様の指示を念話で伝えてくれる。
アコル様はエリスとも念話ができるので、1キロ以内であればエリスを通して会話も可能だった。
「了解エリス。直ぐに学院に戻ろう。これは大変なことになりそうだ。アコル様はどうされるのだろう?」
私の話を聞いたエリスが、直ぐにアコル様の予定を訊いてくれた。
『アコル様は、ランドルと一緒にあのグレードラゴンたちを、山の中腹から追い払うって。できれば数も減らしたいって』
エリスからアコル様の予定を聞いた私は、急いで学院に取って返した。
そして学院に戻った私は、直ぐにサナへ領の冒険者ギルドに緊急事態を知らせ、【魔獣討伐専門部隊】へ出動要請を出した。
3
お気に入りに追加
319
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる