キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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現実と理想

198ー2 束の間の平穏ー2

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◇◇ 従者エイト ◇◇

 夕方から激しく降り始めた雨で、食堂まで辿り着いた時にはすっかり制服が濡れてしまった。
 ラリエスはすかさずマジックバッグからタオルを取り出し、アコル様に差し出している。

 ちょっと離れた場所で、タオルを手に持って待ち構えていた数人の女子が、悔しそうにタオルを握り締めているけど無視だ。
 今や憧れの存在となった覇王様を狙う女子は多いが、彼女らの最大のライバル? になっているのがラリエスだった。

 確かちょと前までは、ルフナ王子を抜いて一番女子に人気があったはずなのに、今ではライバルって何だよ? まあ確かに、ラリエスは覇王様の世話を焼き過ぎだと思う。

 いつもの執行部の席に座って夕食を食べ始めると、同じマギ領出身のチェルシー先輩が、早く3年になって魔法部に転学したいと珍しく愚痴った。
 覇王軍に入っているチェルシー先輩は、貴族部女子の中で浮いているらしい。

「貴族の女性が覇王軍で魔獣を討伐するなんて、信じられませんわ」とか「女性としてどこか欠陥があるのでは?」とかって嫌味を言われるらしい。
 本当にそう思っている女子もいそうだが、大多数は嫉妬や妬みからの気がする。


 エリザーテ先輩の話では、今、貴族部の女子学生の間で最大の話題となっているのが、誰が一番早く覇王様に名前を覚えて頂けるかという内容らしい。
 一種の遊び感覚らしいが、その割には目がギラギラしていて怖い。

「嫌だわ、平民が私の隣を歩くなんて……とか言っていた女たちが、今更何を言っているのかしら?」

ボンテンク先輩の妹カイヤさんは、いつも通りの辛口発言だ。

「まあまあカイヤさん、あの方たちは、夢を見るのがお仕事ですもの。
 勘違いとか自惚れが特技で、身分とお金以外には興味が持てない可哀相な人たちよ」

にっこり笑って毒を吐く俺の姉ミレーヌは、今日もアコル様の対面に座っていて、頭に花が咲いている女子たちから睨まれている。

 俺もまあ、アコル様にあんな女たちを近付けさせたりしないけど、最近は手紙だとかプレゼントなんかを、勝手に覇王様の執務室の前に置いていく女子が増えてきた。

 見付けたら直ぐに、怖い顔をしたモンブラン商会から来た秘書のお姉さま二人が、学院長の秘書に届けているらしい。


 それが縁で、学院長の秘書アークスさん37歳(マリード領の伯爵家子息)が、モンブラン商会から来ているシャルロットさん25歳に一目惚れしたらしく、猛アタックをかけている。

 シャルロットさんはマギ領の男爵家の長女だから、マギ領の領主の子息である俺に、仲立ちを頼んできた。
 覇王様の秘書だから、凄く気を使っているようだけど、アコル様自身は、シャルロットさんの意思に任せると寛大だ。

「そうねえ、私は暫く覇王様の秘書を続けたいから、それを受け入れてくださるのなら前向きに考えるわ」って、シャルロットさんは答えている。

 王立高学院特別部隊の顧問でもあるマリード侯爵家のハシム殿は、「やっとアークスが結婚する。めでたいことだ。直ぐに正式な申し込みをさせよう」と、大乗り気で仲人を買って出た。

 ただアークスさんの家は今回のミル山の噴火で、マリード領の中ではかなり火山灰が積もり、農作物が大きな被害を受けていた。
 だから伯爵家らしい支度金が払えないと、シャルロットさんに謝罪したそうだ。

「あら、私は覇王講座に出席して、つい最近、妖精と契約しましたの。しかも私の可愛いラテは、植物の育成が大好きな女の子だから、お役に立てるのではないかしら」と、シャルロットさんは余裕の笑顔で言ったとか。

 見た目10代のシャルロットさんは、バリバリの武闘派で剣術もできる。そして妖精のラテは、現在高学院の薬草園で大活躍をしている。

 何と言っても覇王様の秘書だ。妖精とも契約しているような優良物件……いや、お宝に近い女性なんて、絶対他に居ない。

 だから、このままマリード領にお嫁に出してもいいものかと、マギ公爵である父上は悩んだらしい。
 本音を言えば、マギ領の貴族に嫁いで欲しいに決まっている。

 結局、「結婚式は、魔獣の動きが鈍くなる1月中旬にしましょう」とアコル様が嬉しそうに仰ったので、父上は諦めて二人の結婚に同意した。 

 
 さて、来週から就職試験が始まる。
 アコル様は、アエラボ商会とドバイン運送に優秀な商学部の学生を引っ張るため、他の商会より条件を良くしている。
 
 試験会場であるアエラボ商会に、誰が就職試験を受けに来るのか俺も楽しみだ。
 ドバイン運送の出資者にもなっている俺としては、頑張って働いてくれそうな下級貴族家の者がいいと思う。

 筆記試験に合格し、最終面接まで辿り着いた合格者に、アコル様はご自分が商会主として面談し、合否を告げられる予定だ。
 願わくば、その日に覇王軍の出動要請が出されませんようにと祈ろう。
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