キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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覇王の改革

196ー1 商会主アコル(10)ー1

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 今回のマリード領行きは、俺の興したドバイン運送の支店を作るための旅だったのに、ミル山の噴火ですっかり予定とは違う行程になってしまった。
 手続きを急がねばならない。

 でもまあ最低限の根回しはしてある。
 ドバイン運送の出資者でもあるマリード侯爵家が、支店の開設に全面協力してくれることになっているのだ。

 物件を決めたら、マリード支店で働いてくれる人物との面接が待っている。
 残念ながら俺は、この国の貴族のことを良く知らない。
 だから従業員は信用できる者を紹介してもらうしか手立てがない。

 商業ギルドに求人を出しても、大勢の人間と面接する時間が取れないし、その人物の背後関係も分からない。
 大事なドバイン運送を任せるからには、変な紐付きの貴族や配下では困る。

 そもそも覇王である俺が表立って動くと、大変なことになる。
 そこで今回は、全面的にマリード侯爵家に丸投げ・・・いや、協力をお願いした。

 ドバイン運送の出資者であるなら、そのくらいの協力は当然なのだと商業ギルド本部のギルマスが言っていた。


 商業ギルドマリード支部の建物は、オレンジに近い明るい色のレンガで造られており、重厚感はないけどギルドの出入り口に植えてある色とりどりに咲く花は美しく、つい、種が欲しいななんて思ってしまった。

 出入りする商人たちの服装も、王都とは違いラフな感じだ。
 俺たちも商人風の服装だが、一緒に居るマリード侯爵家のウラル殿は、如何にもお貴族様ですって感じだから、ギルド内に居た人たちが緊張していく。

「こんにちは、店舗物件を斡旋して欲しいんですけど」と、俺は笑顔で受付の女性にギルドカードを提示した。

「はい、店舗物件ですね。店の場所や大きさのご希望はありますか?」と女性は笑顔で対応しながら、提示したギルドカードを見て、えっ?と驚いた顔をした。

 そして「ギルマスを呼んでまいります。少々お待ちください」と言って、慌てて二階に駆け上がっていった。

 ……シルバーカードだとギルマス対応になるのか……成る程。

 窓から通る風が心地よい応接室に通された俺は、改めてアエラボ商会とドバイン運送の代表者ドバインだと名乗った。

 シルバーカードを持参した俺が、とても商会主には見えなかった様子のギルマスは、カードと俺の顔を何度か見て首を捻るが、領主の子息が同行している時点で、きっと何処かの高位貴族だと思われたに違いない。

「ドバイン運送の本店は王都です。
 支店の開設はマリード領が初めてで、主な取引先はお隣のニルギリ公国になる予定です。
 それから・・・私は平民ですよギルマス」

なんだか妙な汗をかきながら緊張している様子のギルマスに、俺は笑って平民だと言った。

 平民だと名乗った俺に、ウラル殿が微妙な顔をしていたけど、俺は今でも王子であると認めていないから、覇王という身分以外は、学生か平民だと名乗っている。


「アエラボ商会様、運送業ならできるだけ大きな倉庫が必要なのでは?」と、俺の希望を聞いたギルマスが不思議そうに質問してきた。

「いえ、ここだけの話、ドバイン運送はマジックバッグを使って商品を運ぶので、大きな倉庫も荷馬車も必要ないんです」と、俺は微笑んだ。

「えっ、マジックバッグ?」と呟いたギルマスは、何か重要なことを思い出してしまった……って感じで息を呑むと、恐る恐るウラル殿に確認するような視線を向けた。

 ……そういえば、昨夜は覇王様が来たーって騒ぎになってたんだ。

「アコル様、いくら商会の名前で動かれても、マジックバッグで運送業ができる人物は、この国……いえ、この大陸中を探してもお一人しかいらっしゃらないでしょう。

 当然ギルマスも、秘密を洩らすような愚か者ではないでしょうし、後から情報が洩れて騒ぎになるより、始めから身分を明かされた方が、ギルマスも張り切ってくれると思いますよ」

ウラル殿がちょっと困ったような表情で、見かねたようにアドバイスしてきた。

「そ、それではやはり」と目を見開いたギルマスは、慌ててドアの前まで下がって最上級の礼をとった。

「ギルマス、俺は覇王という役目を負ってはいるけど、モンブラン商会の推薦で王立高学院に入学した、平民の学生であり商人です。
 まあ、ブラックカード持ちの冒険者もしていますが、俺の本業は商人で、夢は大陸中で商売をする大商人なんです」

 そこから俺は、これから先のドバイン運送の未来を熱く熱く語り、この場に居るメンバーに俺の夢を共有させた。

 大陸中の国と交易し、マジックバッグによって流通に大革命を起こす夢をだ。

「さすがですアコル様。何処までもお供します」と、ボンテンクが興奮気味に誓ってくる。

「アコル様、どうか私にも出資させてください」とウラル殿が身を乗り出すと、「わ、私にもぜひ!」とギルマスも両手を組んで懇願してくる。

「そうですね。ギルマスは立場上、自分の名前を使って国内の商会に出資できないでしょう?
 ですから、どうでしょう、これから隣国ニルギリ公国のマーガレット商会に出資されては。ウラル殿もどうですか?」

「ニルギリ公国のマーガレット商会ですと!」と、ギルマスは驚いて立ち上がり、困惑した表情で眉を寄せる。

「確かにマーガレット商会は老舗ですが、最近は良い噂を聞きませんが・・・」と、ウラル殿は座ったまま渋い顔をする。
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