上 下
363 / 709
覇王の改革

195ー2 商会主アコル(9)ー2

しおりを挟む
 マリードの町は、小高い丘の上に領主屋敷があり、その屋敷を囲むように円形に広がっている。

 イメージ的には領都サーシムに似ているが、強い魔獣に襲われる可能性が低いので、町を囲む壁の高さは3メートルと低いが頑丈だ。

 入場門に到着すると、タルトさんが馬車で待っていてくれたので、宿まで歩かなくて済んだ。
 全員疲労困憊だったので、冒険者ギルドに行くのは明日にして、宿で入浴し食事をとったら、倒れるように眠りについた。


 翌朝目覚めると、門番から報告を受けたらしいマリード侯爵の次男が、側近と冒険者ギルドのギルマスを伴い面会を待っていた。

 ……成る程、覇王専用馬車の効力か・・・

 今ではすっかり覇王や覇王軍のことが国内中で周知され、馬車や隊服の紋章は門番である警備隊が必ずチェックしている。

 そんな中、タルトさんが隠していた覇王専用馬車の紋章を出して町に入ったので、「覇王様が来られたー!」って、昨晩は大騒ぎになったらしい。


「おはようございます覇王様。ウラルと申します。
 昨日兄のハシム(ノエル様の父親)から連絡があり、指示通りに急いで高ランク冒険者を集め、今朝早くミルダの町に向かわせました」

王立高学院特別部隊の顧問でもあり、一般軍大臣でもあるハシム殿の弟ウラル殿が、俺の部屋に来て挨拶をする。
 年齢は30代前半だろうか、マリード侯爵によく似ている。

「マリード支部の高ランク冒険者たちは、運良く昨日の夕方、王都の覇王講座から戻ってきました。
 どの顔も自信に満ちており、確実に強くなったと言ってました。
 必ずや、覇王様の期待に応えてミルダの町を守るでしょう」

冒険者ギルドマリード支部のギルマスは、胸を張って報告してくれる。
 覇王講座を受講したサブギルマスが現地に向かったので、ミルダ支部の冒険者と協力して、魔獣討伐に全力を尽くすと約束してくれた。

「火山噴火とそれに伴う魔獣の被害に対応するため、昨日領内の貴族に緊急招集をかけました。
 しかし、詳しい被害報告が届いていないので、ミル山の噴火状況と、確認できている被害情報を教えて頂けませんでしょうか」

ウラル殿の要請を聞き、状況説明のため俺たちは宿の食堂に向かった。
 護衛であるタルトさんが高級宿を取ってくれたようで、朝食は食堂ではなく別室に用意されていた。

 時間がもったいないので、朝食をとりながら昨日の出来事を説明していく。


「えっ、ニルギリ公国側はそんな大惨事になっているのですか?」

「はいウラル殿。ミル山の中間から噴き出た溶岩はなんとかなりそうですが、東側の被害はまだ続くでしょう。
 とりあえず、マリード領の東側から逃げ出した100頭の魔獣は、サーシム領内で覇王軍の指揮官であるマサルーノと光のドラゴンが討伐しました」

 俺は簡単な地図を描いて被害状況を説明し、この機会に、覇王軍の指揮官である二人の優秀さと、特務部ながら冒険者を指揮できるヤーロン先輩を自慢することにした。

「なんと! 100頭もの大群を光のドラゴンと、たったお一人で?」と、ウラル殿が驚いて叫んだ。

「私はマリード領の貴族ですから、自領のために尽くすのは当然です」と、マサルーノ先輩はちょっと誇らしそうだ。

「それからギルマス、ニルギリ公国のレギル火山に飛来したグレードラゴンを、もう一人の指揮官であるボンテンクが倒しました。

 後で持って行きますので解体をお願いします。
 ウラル殿、グレードラゴンの素材代金の一部は、マリード領の被災者のためにお使いください」

「「はい?」」

ギルマスとウラル殿は理解できなかったのか、俺たちを異質なものでも見るような顔をして、ついでに首を傾げて困惑している。

 説明するより見てもらった方が早いので、朝食後は直ぐに冒険者ギルドへ向かった。



 ギルマスの執務室にはマリード領の財務担当者も駆け付けて、これから考えられる被害や対策を具体的に話し合っていく。

 ウラル殿には魔獣の大群に襲われて大きな被害を受けた村の、救済活動を急いでもらうよう指示を出した。

 マリード領は、日頃から救済活動の訓練をしており、救済品も用意してあるので、担当の役人が迅速に対応を進めているとウラル殿は胸を張った。

 ……さすが王立高学院特別部隊を率いている、ノエル様のご実家だ。頼もしい。


 話し合いが終わって、解体場でグレードラゴンとビッグベアーの変異種を含む、食用になる魔獣10頭をマジックバッグから取り出した。

 冒険者とギルド職員は全員、何度も目を擦りながら幻ではないのかと確認している。
 その姿にちょっと笑えたが、こんな凶悪な上位種が居たのだと思い至ったギルマスの顔色は悪い。

 そうそう、今回の討伐で、ボンテンクとマサルーノ先輩の冒険者ランクは、ASランクに上がった。
 上級魔獣を倒したヤーロン先輩も、Aランクに上がった。

 そして何時もの如く俺はギルマスとウラル殿を手招きし、目の前の全ての魔獣が収納できる、時間経過が遅いマジックバッグを破格の金貨200枚で売った。

 いつもなら冒険者ギルドに売るところだが、買取価格だけで破産しそうな気がする。
 ドラゴン素材の売却代金の半分はマリード領に寄付するので、今回は冒険者ギルドマリード支部と、領主にお金を出し合って買ってもらうことにした。

 まあドラゴン素材は貴重だし、オークションに出品すれば、金貨400枚以上になるのは間違いないので、覇王軍が半分を取っても、金貨200枚は被災者救済に充てられる。

 ……俺はどんな時も商人だし、商機は見逃さない。でも、ドラゴンが入る大きさだから、正規料金なら金貨500枚だ。むしろ大盤振る舞いである。


 冒険者ギルドでの仕事を終えた俺たちは、ウラル殿を連れて本来の目的地である商業ギルドマリード支部に向かうことにした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

~まるまる 町ごと ほのぼの 異世界生活~

クラゲ散歩
ファンタジー
よく 1人か2人で 異世界に召喚や転生者とか 本やゲームにあるけど、実際どうなのよ・・・ それに 町ごとってあり? みんな仲良く 町ごと クリーン国に転移してきた話。 夢の中 白猫?の人物も出てきます。 。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...