上 下
351 / 709
覇王の改革

189ー2 商会主アコル(3)ー2

しおりを挟む
 頼めば簡単に自分の国を助けてくれる……とは思っていないだろうが、こちらの事情はギルマスも説明していたはずだ。
 それなのに当然という顔をされても困る。

「では、貴方ではなくマリード領主に掛け合う」と言ってバロン王子が席を立つ。

「無駄だよ。現在コルランドル王国は、魔獣討伐に関して全ての権限を【覇王軍】が持っている。
 マリード侯爵もそれに従っている」

簡単に隣国の冒険者や領主を動かそうとする王子に、俺は冷たく現実を突きつけた。

 ここは土下座してでも助けてくれと頼む場面だ。
 でもまあ、それは平民として育った俺の感覚であり、それをするのは本来臣下や側近の仕事だ。そう考えると、領主の子息には期待できないだろう。

「覇王軍メンバーが2人、そしてAランク冒険者が1人では不服だとでも?
 我ら覇王軍は、既に12回以上魔獣討伐に出動している。

 離れた領地で同時に魔獣の氾濫が起こった場合、2人以上の覇王軍メンバーで向かうというのが基本方針だ。
 そして、知っているとは思うが、覇王軍が救援に向かう時は有料だ」

覇王に直接救援に向かって貰える被災地が、どれだけ幸運なのかも知らず、甘い考え方をしている王子に向かって、ボンテンクがコルランドル王国の普通を教える。

 まあ、魔獣の襲撃で危機的状況にあり、助けを求める領地があれば、助けないという選択肢はないので、領都マリードの冒険者ギルドから応援を頼むしかないな。

「エクレア、学院長に事情を話して、執務室の通信機でマリード領の冒険者ギルドに連絡し、高ランク冒険者の応援を頼んでくれる?」

『ええ、いいわよ。人数はどうする?』と、突然姿を現したエクレアが返事をする。

「そうだなあ、出せるだけ出して貰って、サーシム領の冒険者ギルドにも、ミル山の魔獣が向かう可能性があると伝えておいて。
 それからロルフ、ミル山が大規模噴火したから、覇王軍は隣国に救援に向かうと国王に伝えておいて」

『了解アコル』と、七色の光を身に纏ったエクレアは、キラキラ輝くような笑顔で了承し姿を消した。

『了解した主』と、同じく突然姿を現した新しい契約妖精のロルフは、今日は1メートルの背丈だけど、見た感じから賢者っぽいので、可愛いとかキラキラではない。

 ある意味妖精っぽくないロルフは、威厳のある声で応えて姿を消した。
 ロルフは現在、王宮担当として国王や大臣たちに俺の指示を伝えてくれている。

「妖精・・・」と呟いたニルギリ公国の4人は、何かに思い至ったようで、慌てて席を立ちドアの前まで下がり最上級の礼をとった。

「大変失礼しました覇王様。どうか命だけは・・・」と声を震わせるのは領主の子息であるエドガーだ。

 いや、俺は今まで誰も不敬罪で処刑なんかしてないよ。
 せいぜい強引に覇王講座を受講させたくらいで、王妃が死んだのも俺が不敬罪に処した訳ではない。

 でもここで正式に名乗ると【覇気】が発動してしまう。
 隣国の王子に尻もちをつかせるのも面倒だ。

「座れ、急ぎなのだろう? で、サブギルマス以外の冒険者ランクは?」

「は、はい、わ、私はCBランクです」と、体を震わせながらバロン王子。

「わ、私はBラ……ランクです」とエドガーが答え、近衛騎士は冒険者ではないと青い顔をして答えた。

 ……おかしい、覇気を放っていないはずだが・・・

 俺が首を捻っていると、「アコル様、少々覇気が漏れております」とボンテンクが教えてくれた。

 とても急いではいるが、仕方ないのでお茶にしよう。
 救援に対する請求額も決めなきゃいけないし。
 そういえば防護頭巾がまだ完成してなかった。
 余分があれば、この4人の分も頂いておくとしよう。

 護衛のタルトさんが淹れてくれたお茶を飲んでいたら、ミルダの町のギルマスとマサルーノ先輩、ヤーロン先輩が、段取りができたと報告にやって来た。

「マサルーノ、指揮を任せる。ヤーロン、4つ目の変異種が出たら無理に戦うな。
 ギルマス、冒険者の主な仕事は住民の避難誘導だ。噴火が続くようならミルダの町の領主と相談し、住民の避難も視野にいれろ。いいか、命大事に!だぞ」

「はい、命大事に!」とマサルーノ先輩とヤーロン先輩の声が揃う。

「了解しました! 決して無駄死にさせません!」とギルマスも引き締まった顔で了解し頭を下げた。

 ちょうどその時「頭巾が完成した!」と言って、サブギルマスが10枚ほどを抱えてやって来たので、俺たちは直ぐに出発することにした。
 

 外に出ると、覇王専用馬車の上にも小さな噴石が少し積もっていて、アレクシス領主の家紋入り馬車は、所々へこんでいたりヒビが入っていた。

 俺はポケットに入れておいた魔法陣の紙を取り出し、馬車の戸口に押し当てて魔力を流した。

「新しい防御魔法ですかアコル様?」

「そうだよ。これ1枚で馬車全体をカバーできると思う。
 魔力量が100は必要だから、マサルーノに3枚渡しておく。

 できるだけ馬車で移動し、再び噴火が起こったら、急いで全員が入れるかまくらを作って退避して欲しい。
 土魔法が得意なマサルーノじゃなきゃできない仕事だ」

 自分はマリード領に残らなければならないのかと、がっかりというか不満そうにしていたマサルーノ先輩に、何故ボンテンクとアレクシス領に行くことを決めたのか、その理由をさらりと盛り込んで指示を出す。

「了解しました。ヤーロンと一緒にマリード領を守ります」と、マサルーノ先輩は納得したのか、笑顔で魔法陣を書いた用紙を受け取った。

「アコル様、調達した食料は分けますか?」

「いや、こっちは俺の持っているモノを使うから、ヤーロンの采配で使ってくれ。
 冒険者たちを頼む。魔法適性とランクで上手く組み分けし、リーダーを指名しろ」

「了解しました。アコル様もご無理されませんよう」

ヤーロン先輩も笑顔で応えて、俺とボンテンク、タルトさん用の頭巾を手渡してくれた。

 できれば覇王軍メンバーは全員連れて行きたいところだが、今のミルダの町に居る冒険者だけでは、上級魔獣は倒せない。苦渋の決断だがこれがベストだと考えよう。

 バロン王子の乗る馬車にも防御魔法を施し、御者をする近衛騎士のロートさんが頭巾を被ったのを確認して、俺たちは隣国に向けて出発した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

マイナー神は異世界で信仰されたい!

もののふ
ファンタジー
八百万の神の国、日本。 この国では、人々の信仰と共に様々な神が生まれる。 当然、中にはマイナーな神様も。 そんなマイナー神である『クリスマスのプレゼントの靴下』の神は、同じマイナー神である『泥団子』の神と親友である。 ある時、この二柱の神はまさかの異世界転移を経験してしまう。 しかし、元々人間の生活が大好きだった二人は、一念発起。 神だからニッチなチートもあるし、せっかくだから異世界で信仰を集めて成り上がろうぜ! そんな事を考えた二人は、異世界転移のテンプレを目指す。 はたして二人は、異世界で無事信仰を集める事は出来るのか。 作者は、他サイトにて他作品を、最低一日おきに更新するという加圧トレーニングを敢行しているため、更新が不定期になります。 この作品は、「小説家になろう」さんでも掲載しています。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...