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覇王の改革

186ー1 覇王と仲間たち(6)ー1

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 ◇◇ 第二王子ログドル ◇◇

 第五王子リーマスから覇王講座の受講を勧められた私は、勇気を出して弟のレイトル(第四王子)と一緒に王立高学院へと向かった。

 久し振りの高学院に少しだけ心が弾む。
 各領地の高位貴族や領主一族と机を並べるのかと思うと気が重いが、前向きに考えて頑張ろう。

 覇王講座開始前に集められた体育館で、私たちは驚きの情報を聞いた。

 叔父であるモーマット学院長によると、覇王様は【覇気】というものを無意識に放たれるそうで、悪意がある者は倒れ伏し、疑う者は腰を抜かし頭を上げられず、信じ従う者でも跪いてしまうのだという。

 見るからにヘイズ侯爵派の上級役人たちは、覇王様のことを《平民あがりの王子》とか《自称覇王》だとか《虚言好きな第七王子》などと陰口を叩き、覇王講座に参加させられたことに対し不平不満を漏らしている。

 中でも酷いのがデミル領や一般軍の役人たちで、国王が謁見さえ許していない者を王子だとは認められないと、完全に見下す物言いをしていた。
 それでも覇王講座を開講しているのだから、国王は第七王子を覇王だと認めているのだろうと考える者の方が多いはずだ。

 そして迎えた第一回目の魔法攻撃講座で、私は初めて弟でもある覇王様にお会いし、体が震えた。

 覇王様が名乗られた瞬間、ヘイズ侯爵派や覇王様をバカにしていた役人たちが、一斉に地面に倒れ伏し動けなくなった。頭を上げられない者も多数いる。

 感動と恐怖と歓喜が入り混じり、自分でも表現するのが難しい……恐らく畏怖の念だと思うのだが、底知れぬ力とオーラに魅了された。

 恐怖で戸惑う受講者たちに構うことなく、覇王様はご自分で討伐された魔獣をマジックバッグから取り出された。
 こともなさげに取り出されたアイススネークの変異種は、どう見ても10メートルを超えていて完全に化け物だった。

 覇気ですっかり恐れをなした者たちは、変異種を見て再び恐怖で顔を引きつらせた。
 私も変異種のあまりの大きさと異様さに絶句してしまった。

 そして次に参加した妖精学講座では、領主や領主夫人まで居て驚いた。

 講師として堂々と皆の前に立つリーマスを見て、とても嬉しい気持ちと羨ましい気持ちが入り混じり、早く自分も妖精と契約したいと強く思った。

 危機管理指導講座では、講師である女子学生をバカにしていた役人たちが、逆に無能扱いされ成績を貼り出されて恥をかかされていた。

 ……覇王講座・・・なんて素晴らしいのだろう!
 ……本当に完全実力主義で、王子だろうが領主だろうが容赦しないなんて・・・

 極め付けが攻撃魔法の訓練だった。
 これまで学んできた魔法や魔法陣は全く役に立たず、プライドや固定観念を捨てなければ訓練について行くことさえできない有り様だった。

 特に酷かったのが一般魔法省で働いていた魔術師たちで、「貴族部の女子学生如きに指導される必要などない」と豪語したのに、魔法攻撃対決で全く勝てなかった。

「女子学生の足元にも及ばないとは、本当に情けない!」と、講師をしていたマキアート教授に呆れられていた。

 学生の中でも群を抜いていたのが、王立高学院特別部隊のメンバーであるルフナやマギ公爵家のエイト君、ワイコリーム公爵家のラリエス君で、王宮で働く魔法師よりも遥かに優れていた。

 ルフナや従兄のトーブルの話では、全て覇王様の指導で上達したのだという。
 私と弟のレイトルは彼等の姿に奮起し、必ずA級一般魔法師の資格を取ろうと誓いあった。

 攻撃魔法を練習する日々の中、毎日が充実して、生きていることが楽しくなった。
 そんな時、ライバンの森とリドミウムの森から魔獣の氾濫が始まってしまった。

 弟のレイトルは、覇王様の命令でサーシム領に魔獣討伐行ってしまう。
 次のサーシム領主になることが決まっているレイトルに、覇王様はいろいろな経験を積ませるおつもりなのだろう。

 とても13歳とは思えない思考とカリスマ性、そして圧倒的な強さに私は心酔していく。

 ようやくBランク冒険者と同等の攻撃魔法が放てるようになった頃、ヘイズ侯爵から王立高学院特別部隊に救済と救援要請が届いた。

 私も一応王族の端くれ、皆が頑張っているのに遊んでいることなどできない。
 学院長と王立高学院特別部隊の顧問であるハシム殿に、覇王軍としては無理だから、王立高学院特別部隊の一員として、一緒にヘイズ領へ行かせて欲しいとお願いしてみた。

 渋る学院長に「医療班として経験して貰うくらいならいいのでは?」とリーマスが後押ししてくれ、ハシム殿も賛成してくれた。
 急いで荷物を準備し、リーマスのマジックバックに収納してもらった。

 ……私も頑張ったら、マジックバッグを購入させて頂けるだろうか?

 覇王軍を指揮するのはマギ公爵家のエイト君で、王立高学院特別部隊を指揮するのは姉のミレーヌさんだ。
 学生なのに堂々と皆を率いて指示を出す姿に、凄いと感心しながら自分が恥ずかしくなった。

 こうして学生が命懸けで戦っているのに、私はこれまで何をしていたのだろう……何もさせて貰えないと嘆くばかりで、この国の危機を全く見ていなかった。

 そしてライバンの森が近付いた時、ヘイズ領に向かって溢れた魔獣が、王都に押し戻されてくるという信じられない報告が、魔獣討伐専門部隊を率いるワイコリーム公爵に届けられた。

 いったいどうするのだろうと様子を窺っていると、ワイコリーム公爵が覇王軍と王立高学院特別部隊に、国務大臣として魔獣討伐を依頼していた。

 本当に200頭を超える魔獣が王都を襲ったら、大変なことになるだろう。
 ヘイズ侯爵の行動は許し難いが、厳しい現実を考えたら戦うしかない。

 今回私は医療班の助手として参加している。
 だから作戦会議にも参加できないし、最前線で魔獣と戦うこともできない。もどかしいが私には経験がない。

 夜になり、学生や魔獣討伐専門部隊のメンバーは、訓練通りにかまくらを作り、自分たちの食事を準備する。手際の良さに感心してしまう。

 食事が終わった頃に、マギ公爵が側近を連れ駆け付けてきたが、準備が不十分だと娘のミレーヌさんに叱られていた。
 王宮で働く者は、私を含め役に立たない。

 翌朝、とうとう魔獣の大群と対峙した。
 覇王軍メンバーが遠距離攻撃を放ち、魔獣討伐専門部隊もそれに続く。
 見事な連携と大規模攻撃魔法に「凄い!」と、私は感嘆の声を漏らす。

 緊張しながらケガ人を待っていると、少しずつケガ人がやって来る。だが大したケガではない。
 時々前衛を抜けて魔獣が近付いてきたが、私が出るまでもなく後衛を担当していたミレーヌさんが撃退した。

 強い! 妖精と契約するとこれ程強い攻撃ができるのだ。

 ……本物の戦闘は凄い! 本当に命懸けだ。 
 ……巨大な魔獣に怯むことなく攻撃できる学生を、心から尊敬する。
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