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杵築しゅん

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覇王の改革

185ー1 覇王と仲間たち(5)ー1

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 ◇◇ 第三側室 フィナンシェ ◇◇

 厚顔無恥な貴族部の教授たちに向かって、つい笑いが・・・

「フフフ、驚きましたわ。
 わたくしがこの学院に在学していた頃は、貴族部にも女性教授がいたはずですが、今はいらっしゃらないのね。
 ああ、あの教授はヘイズ侯爵派ではなかったわね。

 わたくしが卒業してから貴族部は、追放された王子派に変えられてしまったのね。
 フフ、でも、あの頃も貴族部は、勉強嫌いで魔法の練習もしない噂好きな無能が多かったわ」

 どうやらこの学院の教授は、私が卒業してからすっかりヘイズ侯爵派の色に染まったようね。

 覇王様が入学されてからは劣勢……いえ、風前の灯火だとルフナが言っていたけれど、過去の栄華が忘れられず、己の立場が分かっていないのね。

「なんだと!」と、3人の教授は剣呑な視線を私に向けます。

 ……これは、煽れるだけ煽った方が楽しそうだわ。

「貴族らしい派手な服を着ていれば高位貴族なのかしら?
 それでは明日から、伯爵家並の衣装を着て来ようかしら? そうすれば、アナタ方はわたくしを高位貴族らしく敬うかも知れないわね。

 今の貴族部の学生に、貴族としての品位を教えるのは骨が折れそうだわ。
 随分と間違った教育をされているようだから」

困ったわ……と呟きながら、右頬に右手を当て首を傾げて、これ見よがしな溜息を吐く。

「貴族としての品位だと? 女の分際……いや、女性の身で教授になろうとするなら、それなりの教養が必要だが、当然貴女は貴族部の卒業生なのだろうな?」

「ええっと、お母さまが王族の出身で、下級貴族であるリベルノ男爵、わたくしは魔法部の卒業生ですわ。
 我が家に生まれた女性は、代々魔法部に入学しますの。
 もちろん男性も魔法部ですわ。来年入学する予定の姪も、魔法部入学を目指していますの」

 貴族であるなら、私の家が代々魔法部に入学できる魔力量を持つ家柄だと分かったはず。
 当然伯爵家以上の高位貴族だと普通は考えるわよね。

 そもそも、王族の出身と言ってもいろいろだわ。
 男爵家に嫁ぐ女性なら、王の姪が伯爵家に嫁いで、そこで生まれた令嬢が格下の子爵家に嫁ぎ、その娘が男爵家に嫁いだってくらいかしら? 祖母だってもう王族じゃないと思うのだけれど?

 わざわざ下級貴族だと念を押して差し上げたのは正解だったわ。
 なんとも悔しそうに歪められた顔を見て、ますます楽しくなってきちゃった。
 
 ……さあ、どんな反応をしてくださるのかしら。

「代々魔法部? し、しかし貴女は貴族部の教授になるのだろう? 魔法部の卒業生が貴族部の学生に指導ができるとは思えないが」

悔しそうに口を噤んだリベルノ教授に代わり、同じ男爵であるヨーダミーテ教授が反論してきたわ。

「まあ、まるで魔法部よりも貴族部の方が優秀みたいに聞こえましてよ。
 確か新しく王妃になられたマギ公爵家出身のミルフィーユ様は、魔法部の出身でしたわ。

 この国の最上位の女性である王妃様が、貴族部出身で国王を毒殺しようとした元王妃よりも劣るとでも?
 怖いわ~。そんなこと、とてもミルフィーユ様にご報告できないわ」

「な、王妃・・・」と、途轍もなく高位な女性の名を出されて、3人は急に顔色が悪くなってしまったわね。

「ええ、わたくし、王宮で仕事をしていますの。
 私が教授になるとお伝えしたら、王妃様は笑顔で頑張ってねと応援してくださいました。

 王宮に戻った時には、高学院の様子をお伝えすることになっていましてよ。
 わたくしの話を楽しみに待っていらっしゃるから、今日の様子も、しっかりとお伝えするわ」

「まさか王宮で働く侍女?」とか「王妃の関係ならマギ領の出身だろう」と、3人は急に後ろを向いて囁き合うけれど、声が大きくてまる聞こえね。

「分かりました学院長。新しく赴任された教授を認めましょう。教えられる教科について、明日までに私に報告してください」

これまで貴族部の部長教授だったヨーダミーテ教授は、当然のように私に報告せよと指示を出したけれど、それって違うわよね。

「あら嫌だわヨーダミーテ教授。
 貴族部の全教師の担当教科を書いて、明日までに新しい部長教授である私に報告してくださいね。

 それに……王族でもある学院長が決定されたことに、いち教授に過ぎないアナタ方の了承など必要なくてよ。
 学生間の身分差はなくなりましたが、教師間の身分差は弁えて頂かないとねえ」

これぞ側室、いえ、これぞ王族という微笑みで止めを刺して差し上げました。

 ……勝ったわ。完全勝利ね。


 そして翌日、全学生を集めた学生集会で、貴族部の新部長教授として私は学院長から紹介を受けました。

 昨日と同じように地味目な服装で登場した私は、納得できない顔をして睨んでくる貴族部の教授たちに向かって、余裕の微笑みを向けておきます。

 さあ、いよいよ自分の正体を明かす時が来たわって、つい嬉しくて黒く微笑んだ瞬間、思わぬ伏兵によって自分の正体を明かされてしまいました。

 実は私、高学院で教授として働くことを、息子のルフナに内緒にしていました。

 ついでにルフナも驚かせちゃえって思っていたら、「母上、何をされているのです?」って、ちょっと呆れたような声をルフナがあげてしまったのです。

 ……なんということでしょう! ルフナったら母の楽しみを奪うなんて……もうもう。

 でもまあ、学生も教授たちも「ええぇぇーっ!」て盛大に驚いてくれたから許すわ。

 この学院で働く教授や講師は世代が違うし、私は公式の場に顔を出さなかったから、私のことを知らない者が殆どで、その驚きっぷりに嬉しくなっちゃった。

 まさか側室が王宮から教授として赴任してくるなんて、前代未聞ですもの。

「貴族部の部長教授として赴任したフィナンシェ・レイム・コルランドルです。
 私は上級貴族部の学生に【建国記】を教えます。

 他には貴族としての正しいマナー、王族や領主に対する言葉遣い、貴族として当然の嗜みでもある魔法を使った領地経営なども教えます。
 レイム領式教育法でビシビシと指導しますので、学生も貴族部の教師も、泣きながらでも付いてきてくださいね」

私はできるだけゆっくりと、そしてはっきりとした口調で就任の挨拶をします。
 そして仕上げに、淑女として美しく微笑んでおくわ。
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