キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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覇王と国王

180ー2 王宮の闇(9)ー2

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 10分後、ワインを飲んだ王妃は、国王と同じように苦しみだし、即刻廃妃となり宮廷医に手当されることなく牢へと引き摺られていった。
 マロウ王子は最後まで抵抗し、ワインを飲もうとしなかった。

「父上はこの私まで疑っておられるのですか! 私は何も知りませんでした。母上が、母上が勝手にしたことです。私は陥れられたのです!」

マロウ王子は責任は王妃にあると叫びながら、王宮警備隊の尋問場へと連行されていった。

 マロウは身分を平民に落とされ王宮から永久追放されるが、王は処刑という決断はしなかった。

 ……まあ、王子として贅沢してきた者が、平民として生きていくのは無理だろう。
 
 ……王の下したその温情は、いつか王の首を絞めるだろう。

 俺はフーッと息を吐き、騒ぎが収まったところで覇気を意識して引っ込めた。
 司会進行役の宰相が、椅子に座らないと会議が始められない。


「それでは、ヘイズ領の新しい領主を決めたいと思います」

サナへ侯爵が仕切り直して会議を再開する。

「王様、ヘイズ侯爵の処分も決まっていないのに、新しい領主を決めるのですか?」

不満そうな顔をして、デミル公爵が早速口を挟んだ。

「フッ、自領の民を意図的に見殺しにするデミル公爵は、他領の民の命など、どうでもいいようだな。
 次に領主の座を追われるのが誰になるか、それも考慮してヘイズ領の新しい領主を決める必要がありそうだ」

「な、なんだと!」

俺の嫌味が気に障ったのか、デミル公爵は俺を睨み付けた。

 先程の会議中はずっと、俺を平民風情と侮っていたデミル公爵は、頭の切り替えができていなかった。相変わらずの反応で、俺はつい笑ってしまった。

「黙れデミル公爵! 覇王様に向かって不敬が過ぎるぞ」と、直ぐに国王が叱咤する。

「ああ、そう言えば、デミル公爵は国王が俺を覇王だと認めなかったから、マジックバッグを買わなかったと言っていたな。
 じゃあ今度は、買うってことだよな!

 あれから少し値上がりして、金貨330枚になっている。
 もっと真面目に学ぶ貴族を講座に参加させないと、また最下位という恥をさらすことになるぞ!」

俺は余裕の笑みを浮かべながら、先程とは言葉遣いも態度も変え、完全に上から見下す。

 そしてニヤリと右口角を上げ、ほんの少しだけデミル公爵に向け覇気を放つ。
 すると驚いたようにビクリと肩を震わせ、悔しそうにしながらも堅く口を閉ざした。


「トーマス王子が適任だろう。何も役職に就いていないし、これまで被災地で救済活動の指揮を執っていたのだ」

予想通り、王弟シーブルがトーマス王子を厄介払いにかかる。

「指揮を執っていた?」と、不満気な声を上げたのはリーマス王子だ。

「私はシーブル殿を推薦したい。これまで軍で副大臣や大臣を歴任されてきた実績がある。
 色々と問題の多かったヘイズ領の貴族を黙らせる力があるのは、領主以外ではシーブル殿以外で思いつく者は居ない。

 それに、トーマス王子は大臣経験もない。
 狡猾な高位貴族の上に立ち、指揮が執れるとは思わないですよ、私はね」

シーブルの意見に対し、直ぐに反論したのはワイコリーム公爵だった。

 俺の意を酌んで、シーブルを持ち上げトーマス王子を落とし、他に適任者は居ないと皆に思わせていく。

「確かに、魔獣の氾濫にも備え、数の多いヘイズ領の貴族を纏めるのは、王族であり大臣経験があるシーブル殿が適任だろう」と、マリード侯爵も賛成する。

「いやいや、将来王を目指すトーマス王子であれば、経験を積むことも必要では?」

「嫌だなあ、経験を積む?
 ヘイズ領の視察に行かせれば、俺の持たせた魔獣の肉を被災者に配るだけで、領都に滞在したにも拘わらず、帰り道は手ぶらで被災地に向かうような王子だぞ?

 王立高学院特別部隊と共に救済活動をしたのに、救済品を集めようともしないなんて、領民を見殺しにする未来しか見えないだろう?

 トーマス王子には、サナへ侯爵、デミル公爵、サーシム侯爵、レイム公爵と一緒に、覇王講座で学び直して貰わなくちゃ、この国の民は半分以上死ぬことになる。

 俺はさあ、完・全・実・力・主・義なんだよ。

 無能に領地を任せたら、覇王軍や王立高学院特別部隊が命を懸ける回数が増えるじゃないか。
 俺は民を助ける気がない領主がいる場所に、行く気などない!」

今度はこれぞ魔王という凄みを表情に出し、王子だろうが領主だろうが構わず、無能が誰なのか名前まで挙げて覇王の意向を伝える。

 無能と言われたトーマス王子は、唇をかみしめながら下を向く。
 講座を受講しろと名指しされた領主たちも、全く譲る気などない俺の様子に反論してこない。

 そもそも国王が俺に反論なんてしないのだから、嫌だ、そんな講座になど出ないと言えば、お前は民を救う気がないのかと叱咤されることになる。

「アルファス国王には、大至急でA級一般魔法師の資格を取ってもらう。
 なに、これまで公開されている【上級魔法と覇王の遺言】の中には、冒険者でも使える攻撃魔法がたくさんある。

 5つばかり覚えれば直ぐだ。
 国王は、いや王族は、先頭に立って魔獣討伐をする義務がある。
 王族は全員、初代覇王様の子孫としての責務を果たせ!」

「はい。すっかり健康になりましたので、今日から訓練を開始いたします」

ちょっと面食らってはいたが、国王は胸を張って攻撃魔法の訓練開始を約束する。

 これまで寝たり起きたりだった国王しか見ていなかった者たちは、本当に健康になったのだと驚いた。


 結局、ヘイズ領の新領主には王弟シーブルが就任することになった。

「期限は3年。3年後には、ルフナ王子も卒業している。
 シーブル殿を含め、誰が次期国王に相応しい働きをしたのか分かるだろう。

 アルファス国王は元気になったが、いつまでも後継者が決まっていないのも問題だ。
 3年後が楽しみだな。そう思わないかワイコリーム公爵?」

俺は今日一番の極上の笑みで、ワイコリーム公爵に視線を向けた。

「はい覇王様。私も魔獣の大氾濫に打ち勝ち、次期国王が誰に決まるのかを、ぜひ見てみたいと思います」 
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