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覇王と国王

176ー1 王宮の闇(5)ー1

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 俺を第七王子と呼ぶ王弟シーブルは、今回も国王暗殺を導いた張本人だが、実行したのは王妃と第一王子マロウだ。
 だから、自分が罰せられることはないと思っているのだろう。

 俺もそう思う。この男はただ毒を用意させただけで、その毒も自分から王妃に渡したわけではなく、ワートン公爵の部下が、毒の使い道も知らず販売しただけだ。

 これまでも自分の手を一切汚すことなく、上手くまわりの人間をそそのかしてきたのだ。

 第七王子である俺の暗殺も、国王の前回の暗殺も、王妃とヘイズ侯爵をそそのかして実行させた。
 魔法省大臣であるマリード侯爵暗殺は、第一王子マロウをそそのかした。
 
 ……でも結局、俺も国王もマリード侯爵も死んでない。

 トーマス王子を領主にするために画策した、デミル公爵失脚計画は思い通りにいかなかった。
 でも今回のヘイズ侯爵の失脚は上手くいくに違いない。

 もしも国王が助かっても、トーマス王子さえ領主にしてしまえば、あとはゆっくり役立たずの能無しや邪魔な存在を排除していけばいいと思っているだろう。

 王妃と第一王子マロウは、今回の件で処刑か王宮追放に追い込める。
 国王は命が助かったとしても、前のように起き上がることも困難になる毒を使ったはずだ。

 だから病弱な王に代わり堂々と政務を行い、誰にも邪魔はさせない。

 次の敵となるルフナ王子は、デミル領の領主にするか、魔獣討伐中に不幸な事故で死ぬか、高学院を卒業するまで時間があるから、それまでに王宮内を掌握すればいい。

 覇王である俺のことは、覇王と認めないか、次期レイム公爵にすると俺をそそのかすか、邪魔なら殺せば問題ないとでも考え、準備を進めている可能性が高い。

 ……直接この男に会って、俺はそう確信した。
 ……それが分かっている俺は、どうするのが正しいのだろう?

 ……ここで政治に口を出せば、嫌でも責任を負うことになり、時間が制限され全てが中途半端になってしまう。
 ……やはり、俺は俺のすべきことを最優先するしかない。

 まあ、手足となって働いていた義父ワートン公爵は暫く使えないし、ヘイズ侯爵派は完全に崩壊したので、隠れ蓑を失ったシーブルが単独でできることは、息子であるトーブル先輩を使って俺を暗殺するくらいだろう。
 
 ……でも、全ての元凶であるシーブルを、ヘイズ領の領主にしてしまえば問題の大半は解決する。


「覇王様を、格下の第七王子と呼ぶ意図は何だ?」

俺が何も言わず思案している姿を見て、マギ公爵が王弟シーブルに厳しい視線を向け問い質した。

「フッ、今のところ国王は、ここに居る者を王子だと承認していないし、覇王であると公式に認めてもいない。
 自らを覇王だと名乗り、ワイコリーム公爵が後ろ盾になっているだけの人間だ。

 王様は第七王子と会おうとされず、覇王であると宣言されなかったことから考えると、自分の子供だと確信が持てなかった可能性が高い。

 もちろん王様が第七王子であり覇王だと認めれば、私も礼を尽くすつもりだ。
 国王が回復され覇王だと承認されるか、次期国王となる者が承認するまでは、魔術書を持っている王子の可能性が高い平民に過ぎない」

シーブルは声を荒げることもなく、薄ら笑いを浮かべて冷静に答えた。

「その通りですシーブル殿。
 勝手に覇王講座を開き、魔獣討伐を指揮しているようだが、私は王様から王子だとも覇王だとも紹介されていない。
 だからマジックバッグを買わなかった。それに王様は、王宮内に住むことさえ認められてはいない」

マジックバッグを買わなかった理由を、俺が覇王だと承認されていなかったからだと言い訳を織り交ぜて、デミル公爵は王弟シーブルに同意して頷く。

「それは困りましたね。確かにお二人の仰る通りです。私は国王に覇王だと承認されていない。
 しかもあの様子では国王の回復は絶望的だ。

 そうなると、私が覇王として発言するためには、新たに国王となる者の承認が必要だということか・・・」

俺は困ったなという顔をして腕を組み、下を向いて考えるフリをする。

 覇王より格下の国王に、何故承認される必要があるんだ? と言うのは簡単だ。
 でもここはキャラ交換して、聞いていたであろう噂とは違う、ちょっと気弱で自信なさげな王子もどきを演じる方が楽しそうだ。

 言いたいことを全て吐き出させておけば、後々がっつり脅す時に役に立つ。

「そもそも第七王子は、赤ん坊の時に死亡していると、前の侍女長が懺悔し自殺している。
 第七王子は死亡したとして王様も決着をつけられたはずだ。

 持っている魔術書が本物だと、誰が確定したんだ?
 何と書いてあるのか誰にも見えない魔術書なのだろう?」

不安気な俺の様子を見ながら、シーブルは正論らしきものをぶつけてくる。
 前々から反論する内容を検討していたようで、言い淀むこともなく、俺を覇王だと認めていた者たちに視線を向け問う。

「もしもアコル様がお持ちの魔術書が偽物なら、古代魔法や古代魔法陣の知識が得られるとは思えない。
 他の王子にも王族にも作れないマジックバッグを作れることも含めて、私は覇王様だと断言できる。

 最も重要なことは、妖精王様がアコル様を覇王であると認められたことだ。
 そして、妖精王様は覇王であるアコル様に【覇気】を授けられた」
 
俺の様子がいつもとは明らかに違うので、ワイコリーム公爵は当たり障りのない内容で反論する。

「なんだ妖精王って? それもワイコリーム公爵だけが言っていることだ」

「デミル公爵、私も妖精王様にお会いした。間違いなく妖精王様はアコル様を今代の覇王だと言われていた」

学院長も俺の様子を探るように見ながら、自分も妖精王に会ったと証言する。
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