キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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覇王と国王

171ー2 王族として(4)ー2

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 冒険者として旅に出てから今日まで、どんな王になりたいのか考えてきた。
 考えて考えて、民を守れる王になりたいと思った。
 何をすべきかという問いには、まだ答えが出ていなかった。
 
 ……そうか、私はいつも思考するだけで行動していなかった。

 自分で考えて行動し、自分の目で見て答えを出さなきゃダメなんだ。

 王になる者は、事前に予想し最善の策を練った上で、自ら行動し、部下を迅速に動かせるようにならなきゃダメなんだ。
 王宮で報告を待つだけの王では、何の役にも立たない!

 国王も大臣たちも、今回ヘイズ領に対し、魔獣に襲われたら自分で何とかするだろうと考えたはずだ。

 マジックバッグを買わなかったのはヘイズ侯爵だ。責任は全てヘイズ侯爵にある。だから自分たちには関係ない・・・そう思ったのだろう。

 だから被害状況を調べさせなかったし、ヘイズ侯爵から【覇王軍】と【王立高学院特別部隊】に出動要請が出てからやっと腰を上げた。
 
 ……それって、領民の命がどうなっているのか、関心が無かったということだ。

 ……気にしていたかもしれないが、急いで守ろうとか、守るための政策や方法を、具体的に考えていなかったことになる。

 ……しかも、腰を上げたのは【学生】だ。
 ……なんて無責任なんだろう。それを覇王様は気付かせてくれたのだ。



 領都の安全を確認した我々は、怒りで体を震わせながら領主屋敷に向かった。

 ヘイズ侯爵の屋敷は、4メートルくらいの城壁でぐるりと囲まれており、城壁の中に住めるのは領主一族だけだったと記憶している。

 この城壁の中に領民を避難させていれば、多くの領民が亡くなることも大ケガをすることもなかっただろう。
 きっちりと閉められている城門を睨み付け、門の上に居た門番に領主の依頼でやって来たと告げ開けさせた。

 魔獣の襲来に怯えた者たちは、領主屋敷の3階から4階に閉じこもっているらしい。
 私とレイム公爵は、王族権限を使い警備隊員と領軍の兵士を指揮下に置いた。

 屋敷内に居た貴族や役人には、逆らえば反逆罪に問うと脅し、ヘイズ侯爵は爵位を剝奪される予定だが、一緒に処罰されたいなら剣を抜いても構わないと、レイム公爵が更に脅した。

 誰もかれも貴族の身分は失いたくないようで、あっさりと指示に従う。

 ……ここでもヘイズ侯爵は、皆から嫌われていたようだ。

「平民になりたくなければ、領主一族を直ぐに捕らえよ!」と私は国王の代理として、大声で役人たちに命じた。

 第一王子マロウと次期王座を争っている私と、王弟であるレイム公爵が乗り込んできたことで、誰も私が王の代理であることを疑わなかった。
 屋敷で働いていた者は真っ青になり、後ろ暗いと思った者は、こそこそと隅に寄っていく。

「お前たちどういうつもりだ! この縄を解け! 無礼者! お前たちは直ぐに処刑してやる! 俺は領主の嫡男だぞ!」

最初に引きずられて来たのは、ヘイズ侯爵の長男だった。
 職務を果たしているだけの者に向かって、処刑してやると権力を振りかざす姿を見て、これがヘイズ領の日常なのだと認めざるを得ない。

「何をしている! 私に逆らった者は全員爵位を剝奪するぞ! 誰のお陰て貴族でいられると思っているんだ、この無能が!」

聞くに堪えない言葉の羅列に、これが領主なのかと思うと、情けないというより怒りの感情しかない。

 自分の無能を棚に上げ、よくも言えたものだ。
 わーわーと汚い言葉で喚きながら、領主と嫡男が私の前へと連れてこられた。
 当然私を睨みつけ、王子の分際で無礼だろうと怒りで肩を震わせる。

「王子の分際? フン、たかが侯爵の分際で何を偉そうに。
 この国は、いつから王子より侯爵が偉くなったんだ?
 どうやらヘイズ侯爵は、貴族としての最低限の知識さえ持ち合わせていないようだ」

側近の後ろに居たレイム公爵の存在に気付いていなかったのか、王弟の声を聞いたヘイズ侯爵は、濁った瞳をこれ以上開けない程に開いて口を閉じた。

「どうしたヘイズ侯爵、公爵であり王弟である私に、何故礼をとっていない? この無礼者が!」

レイム公爵は大声で叱咤し、縄でぐるぐる巻きにされているヘイズ侯爵の頬を、パーンという大きな音を響かせて叩いた。

 自分こそが最高権力者だと思っていたヘイズ侯爵の嫡男は、絶対権力者である父親がぶたれたことにショックを受けたようで、急に真っ青になっていく。

 ヘイズ侯爵に手を上げたことで、この場で最も権力があり地位が高いのが誰なのか、一瞬で決定した。
   
「領民を魔獣から守ることもせず、勝手に村を焼き、領民は住む家を失くした。
 魔獣の襲撃を伝えず、避難させなかったことで、二千人以上の民を見殺しにし、救済さえしなかった。

 それだけでも爵位剥奪に異議を唱える大臣はいないが、魔獣の大群を意図的に押し戻し、王都を襲撃させようと企んだことは、完全に反逆罪だ。

 また、冒険者ギルドのギルドマスターを不当に投獄した。
 領民の避難を領主の指示で禁止したことは、領主としてあり得ない。
 王族である私もトーマス王子も、お前を領主失格と判断した。

 お前を処刑するか、爵位剥奪とするか、決めるのは国王だが、爵位剥奪の上で処刑される可能性が高いだろう」

これこそが王族という威厳を示しながら、私と話し合って決めた処罰内容を、レイム公爵ははっきりと宣告した。

 憎しみ、憤り、ありとあらゆる怒りの感情を口から吐き出す前に、私は副指揮官に命じてヘイズ侯爵に猿轡をさせた。

 よく回る舌も尊大な態度も、口を塞がれ縛られれば諦めるかと思いきや、今に見ていろ!と言わんばかりの視線を向け、反省する態度など全く見せなかった。

 ヘイズ侯爵と嫡男、その夫人や親族を全て捕らえて、私は軍の荷馬車に放り込むよう命令する。
 ヨイデの町に到着したら、街の悲惨な状況がよく見えるよう、荷馬車の幌は外すことにしよう。

 財産隠しや罪の隠ぺいを阻止するため、レイム公爵と側近1人が領主屋敷に残ることになった。
 冒険者ギルドのギルマスも、直ぐに釈放されるだろう。

 きょろきょろ見回し、護送されるメンバーの中に次男カルタスが居ないことに気付いたヘイズ侯爵は、ニヤリと不敵に笑った。

「ああ、カルタスは、魔獣に襲われ街の広場で亡くなっていた。真面目に魔法を勉強しなかったから、自分は強いと勘違いしたのだろう」

 姿の見えない息子に何かを期待していたようなので、私は憐みの視線を向け、カルタスの死を告げた。  
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