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戦いの始まり

164ー2 王都の危機(5)ー2

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 ラリエスの報告を聞いた俺たちは、直ぐ馬車に乗り込んだ。
 二日間に渡って200頭もの魔獣を討伐し、満身創痍の状態では、魔力も体力も残っているとはとても思えない。

 仲間が居る場所までは馬車で10分足らずだが、魔獣が全速力で突進すれば間に合わない。

「どうか間に合ってくれ!」と、トーマス王子が祈るように両手を強く握る。

「一番油断している時に……」と、赤のダイキリさんも顔をしかめる。

「無能なヘイズ侯爵、許せん!」と、ボンテンクの怒りが増す。

 ……僅か10分がこれ程まで長く感じるとは・・・

 5分が経過したしたところで、再びラリエスが様子を確認すると、魔獣の群はまだ動いていなかった。

 ほっと安堵したのも束の間、群れを率いている感じの5メートルを超える変異種が、少しずつ移動を始めたと言う。

「到着後直ぐに、俺が一人で前に出る。
 もしも変異種が後方に残ったら、ラリエスとボンテンク、トーマス王子とダイキリさんは、ペアを組んで討伐してください。
 目が4つあったら魔法を使うので戦うことを禁じます」

馬車の窓から仲間たちの姿が目視できるようになったところで、俺は4人に指示を出し、御者台に移動することにした。

「承知しました」と、ラリエスとボンテンクは、やる気満々で頷く。

「いや、待て! いくら覇王様でも100頭だぞ!」と、ダイキリさんは眉を寄せて注意する。

 トーマス王子はどうしたらいいのか分からず、直ぐに返事ができない。

「大丈夫です!」と、ラリエスとボンテンクが、自信満々に、そして力強く宣言する。


 
「全員退避しろ! 覇王様が出られる!」

御者をしているタルトさんが、馬車に取り付けられた警鐘を鳴らし、魔獣の群を呆然と立って見ている仲間に向かって叫ぶ。

 大声で「道を開けろー!」と再び叫び、馬に鞭をあて疾走する。

 恐らく、これ以上戦えないと絶望していただろう仲間たちの視線が、声のする御者台に向かって一斉に注がれる。

「あとは任せろ!」

俺は御者台のタルトさんの隣から、絶望と恐怖に支配されそうになっていたであろう仲間に向かって、笑いながら大声で叫んだ。

「アコル様だ!」とか「覇王様が助けに来てくださった!」と声を上げる仲間たちを馬車で追い越し、御者台から飛び降りると、迫りくる魔獣の群に向かって俺は全力疾走していく。

 馬車の中から降りた4人は、俺の後方50メートルの所で控えている。

「ほほう、これだけの群を率いている変異種は、やはり普通の個体ではないということか。今度は油断しない」

群を率いている異形の変異種を睨みながら、俺は右手に魔力を集めながら剣を抜く。
 そして、ずらりと横に並んで移動している魔獣の群を見て、俺はニヤリと笑う。

 この陣形は数を見せつけるのには効果的だけど、俺の攻撃には最適なんだよなと呟いて、魔獣から100メートルの距離になったところで足を止める。

「誓約の魔力を捧げし我に力を! 薙ぎ払え、山斬りの一陣」

俺は全適性がないと使えない魔法陣を発動していく。
 目の前に現れた金色の魔法陣が、キュイーンと音をたてながら高速で回転を始める。

 鏡のように曇りのないミスリルの剣を、魔法陣の中にゆっくりと差し込み、ゆっくりと抜く。
 剣は金色の光を放ち眩しく輝いている。

 先頭を走る巨大な変異種が、俺という獲物を見てニヤリと笑った。
 この変異種は、足がビッグベアーのものに似ていて6本あるけど、2足歩行はできないようだ。

 胴体はシルバーウルフのようだけど、ふわふわしてない固そうな毛並みなのが残念だ。
 首から上はロックドラゴンに似ていて目は4つあった。

 ……ありがとう。魔法を使うまでもない弱い人間だと思ってくれて。

「山を切り裂く一陣の剣、一刀両断、横斬り!」

 俺は変異種を睨んだまま、50メートルの眼前に迫った魔獣の群に向かって、左から右へと剣を振り抜いた。

 剣先から銀色の光の斬撃が放たれ、魔獣の群を真一文字に薙ぎ払う。
 今日は中級以上の大型の魔獣が多いから、斬撃の高さは地面から1.5メートルの位置にした。

 この高さなら、殆どの魔獣が胴体か首を斬られることになる。
 素材はかなり勿体ないけど、止めを刺す人材が少ないから仕方ない。

 魔獣の群が、一斉に前のめりに転がる……のではなく、ダーン!と大音響で上半身が少し前に飛んで落ちた。

 ……う~ん、・・・血抜きのため暫くこのままでいいや。
 ……生き残った変異種は1頭か。

 こんな場所に居るはずがないアースドラゴンの変異種は、群より50メートル後方に居た。目が4つないから普通の変異種だろう。
 残念ながら斬撃が届かなかったようだ。

「トーマス王子、ダイキリさん、出番です」

俺はくるりと後ろを振り向いて、二人に仕事を振った。
 何が起こったのか分からないって顔をしている二人に、「急げ!」と檄を飛ばすと、正気に戻った二人が変異種に向かって走りだす。

「ラリエスとボンテンクは、生き残りがないか確認を!」
「はっ、承知しました!」

凄く満足そうな表情のラリエスは、弾んだ声で応える。
 俺が授けたミスリルの槍を取り出し構えていたボンテンクは、鼻歌でも歌い出しそうな笑顔で、槍を頭上でクルリと回した。

 ……間に合って良かった。

 フーッと深く息を吐き、胸を撫で下ろす。

 元の色に戻ったミスリルの剣を鞘に戻し、マジックバッグの中に収納すると、「アコル様ー」と友の声が聞こえてくる。

 大きく手を振りながら走ってくるエイトやマサルーノ先輩、信頼する仲間たちの姿を見付けて、俺も元気よく手を振った。 
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