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指導者たち

142ー1 魔獣討伐専門部隊(1)ー1

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 王都の北門を抜けて20分馬車を走らせると、長閑な田舎の風景が広がってきた。
 この辺りはジャガイモ畑や麦畑で、王都の食糧倉庫としての役割を果たしているそうだ。

 東に視線を向けると、王家が所有している小高い丘が見える。
 希少な薬草を栽培していたようだが、現在は手入れもされておらず草木が伸び放題になっている。

 王家の怠慢は、魔力量が減っただけではなく、薬草栽培や医療技術、魔術具製作技術も後退させている。
 昔の魔術具に頼り、技術革新という言葉は忘れ去られている気がする。

 魔法という便利なものも、有効に使いこなせなければ意味がない。
 魔獣の大氾濫に備えて、せめて武器の開発でもしてくれたら……なんて考えると溜息しか出ない。

「アコル様、どうかされましたか?」と、ラリエスが俺の溜め息に気付き声を掛けてきた。

「どうしてここまで、技術開発は衰退したのだろうかと考えたら溜息が出た。
 学院内の魔術具の多くは、300年~500年前に作られたものばかりだ。魔獣に有効な武器も開発されてない」

「アコル様、王立高学院ができる前は、魔術学校と技術学校というものがあったそうです。

 しかし、古代の遺物である魔術具を超えるようなモノは作れなかったらしく、魔法を使わない建築技術・染色技術・土木技術・ガラス・陶器・製紙・印刷技術などは発展しました。

 魔法を使う技術が衰退したのは、魔力量の減少が大きく関係していると思われます」

外科医のモスナート教授は、昔は技術学校があったらしいと教えてくれた。
 高度な魔法は貴族だけが使うものだと決めたのに、貴族の多くはものづくりに興味がなかった。

「昔の戦争だって、魔法や魔法陣を使った戦い方が主流だったようだから、武器で戦うのは平民くらいという認識だよね。
 確かに魔獣を倒す武器があれば、魔法が使えない兵士や平民だって戦うことができるだろう。
 技術の衰退……改めて考えると情けないな」

魔獣に襲われても戦う術がない平民は、逃げるしかないのが現実だが、そうなった責任は貴族にあるんだと、自領の町が魔獣に襲われてようやく思い至ったと、トゥーリス先輩は溜息を吐きながら言う。

「時間が足りない。魔獣と戦う術を学ぶ時間、人材を育てる時間、武器を開発する時間、危険な場所を調査する時間。・・・そして圧倒的に戦える人材が足りない」

「はいアコル様。魔獣の大氾濫はもう始まってしまいました。ですが、アコル様は最大限の努力をされています。
 足りないものばかりでも、ちゃんと前進していると思います。
 アコル様がドラゴンと戦うことに専念できるよう、我々も精一杯頑張ります」

平民ながらBランク冒険者であり【覇王軍】のメンバーに選ばれたヤーロン先輩は、焦っている俺を慰めるように励ますように前進していると言ってくれる。
 
 ……どうしても焦ってしまう。魔獣と戦う準備なんて、まだ半分もできていない。だから、助けられる民の数は半分以下だ。

 ライバンの森に向かう道中、俺たちは武器や罠について意見を出し合った。

 ラリエス君は図書館で罠の本を読んだことがあるようで、なかなか面白い意見を出してくれた。
 モスナート教授も、毒を使った餌の罠で魔獣を弱らせるアイデアを出してくれる。


 王都を出て3時間が経過した頃、先発した【魔獣討伐専門部隊】の軍が所有している数台の馬車に追いついた。

 この馬車に乗っていたのは後衛を担当する軍の者たちで、攻撃魔法も使えるが、主な仕事は救護や基地作り、倒した魔獣の処理だった。

 ワイコリーム公爵を含む攻撃魔法を得意とする上官組20人は、馬に乗って先行しているらしい。
 馬車の速さが違うので、俺たちは前に出て先を急ぐことにした。

 そして30分後、信じられない光景が目に飛び込んで来た。

 街道沿いにある村が、壊滅していたのだ。
 家の数は20軒くらいだが、どの家も半壊から全壊しており、生き残ったと思われる人たちが呆然と立ち尽くしていた。

「なんてことだ……既に襲撃されていたとは」とラリエスが目を見張る。

「これ、ビッグホーンが? えぇーっ!?」とヤーロン先輩も驚く。

「いったいどれだけの数が襲ったのでしょう?」とトゥーリス先輩が疑問を口にしながら、停車させた馬車のドアを急いで開けた。

「大丈夫かー! 私は医者だ。けが人は何人くらいだー?」とモスナート教授が馬車から降りて叫びながら走り出したので、俺もその後に続く。

 立ち尽くしていた村の人たちの視線が、一斉に教授に向けられた。
 近付くと、ビッグホーンのものとみられる無数の足跡が、村の中心から東側の広大な畑に向かって移動しているのが分かった。

「けが人は数人だけで大ケガではないです。
 軍の偉い人たちがやって来て、間もなくビッグホーンの大群が押し寄せてくるから、西の林に逃げろと命令したので、私たちは何も持たずに逃げ出しました。

 そしたら、そしたら、あっという間にビッグホーンの群がやって来て、村が……」

村の代表者と思われる男性が、それはあっという間の出来事だったと説明した。

 命からがら林の中に逃げ込んだ村人45人は、一直線に村に向かうビッグホーンの群の方向を、懸命に変えさせようと火魔法で攻撃を仕掛けている魔術師たちを呆然と見ていたそうだ。

 けれどビッグホーンの群は、先頭を走っていた5メートル近い化け物のようなビッグホーンに先導され、火魔法で体を攻撃されても止まることなく村を横断していったとか。

「ビッグホーンの数はどのくらいでしたか?」
「はい、70……いや、80は居た気がします」

俺の質問に答えた代表者に、他の者も同意するように頷いている。

 あり得ない数だ。ビッグホーンの群は多くても30頭くらいだったはずだ。
 それに、変異種が先導していた? いったい何故、正気を失くしたように走り続けているんだろう?

「それで、魔術師の一行はビッグホーンの群を追って行ったのでしょうか?」

ビッグホーンの足跡の中に、馬の足跡を見付けて俺は質問する。

「はい。東の先の崖に追い込むと言ってました。でも、崖の前に大きな岩がたくさん転がっている場所があるんで、上手くいくかどうか・・・」

いくらビッグホーンでも、大岩を飛び越えたり突進するとは思えないと言う。

 他の村人たちも、戻ってきたらどうしようと不安そうだ。
 南の畑から戻ってない村人も10人くらい居るそうで、大丈夫だろうかと心配する。
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