上 下
242 / 709
指導者たち

135ー1 講座の開始(3)ー1

しおりを挟む
 ギルマスの向かい側に座り直し、個人的な金策をすることにした。

 ブラックカード三人衆に頼んだミスリルの剣が、予想以上に高かった。
 あれは個人的な支出だから、【王立高学院特別部隊】や【覇王軍】の予算からは出せない。 

「解体料と乾燥料は無料にしておいたから、今度こそ冒険者ギルドにデカいマジックバッグを売ってくれよ。本部からも頼まれてる」

本部用の金貨300枚は既に預かっているから、【王立高学院特別部隊】のギルドカードに入金しておいたと、ギルマスが報告する。

「了解です。支部には特別に、時間経過が遅くなる大型のモノを金貨250枚でお譲りしましょう。
 本部には、領主たちと同じ機能の時間が経過する物を金貨300枚で売ります。それでいいですよね?」

「ああ、悪いな」と、ギルマスが珍しく嬉しそうだ。

「それで、個人的な話になりますが、時間が経過しないマジックバッグ……大きさはこの執務室の倍くらいの物を、ギルマスとダルトンさんと、龍山支部のギルマスに、特別価格の金貨50枚で売ることが可能ですが、どうします?」

「はあ?」とギルマスが聞き直してくる。

「古代魔法陣を使った国宝級のマジックバッグを、金貨50枚で売ります。
 討伐した魔獣が、結構入りますよ。時間がほぼ経過しないので、素材を無駄にしません」

「この部屋の倍の広さで金貨50枚?……要る! 買うに決まってる。ダルトンも龍山支部のドアーズも買うだろう。本当にいいのか?」

嘘じゃないだろうなと、疑るような視線を俺に向け、顔を近付けてギルマスが確認してくる。

「これまでお世話になったお礼です。それに、戦いはこれからが本番です。
 食用になる魔獣は、ばんばんマジックバッグに詰めてください。救済用の肉や毛皮になりますから」

 これからはギルマスやダルトンさんまで、現場に出張る事態になるだろう。
 倒した魔獣の回収は、冒険者にとって最も重要な仕事であり、稼ぎは多い方がいいに決まってる。

 マジックバッグの素材には余裕があるから、買ってくれると俺も嬉しい。


 ***** 

 冒険者ギルドを出た俺は、フード付きのマントを着て【薬種 命の輝き】に向かう。
 余程のことがない限り俺だと気付かれることはないだろう。

 俺の家族は、少し前に中級地区のモンブラン商会の近くに引っ越したから、今、店の2階にはシフォンさんと兄のタルトさんが暮らしている。

 うちの店に就職したシフォンさんに格安で貸そうかと訊いたら、冒険者ギルドに近くて便利だからと、BAランク冒険者のタルトさんが喜んで借りてくれた。うちは部屋が3つあるし結構広かった。

「ちょっとアコル君、覇王様だなんて聞いてないわよ」と、店番をしていたシフォンさんが、店の中に入ってフードをとった俺を見て文句を言う。

 ……良かった。シフォンさんはいつも通りだ。

「すみません。ほら、平民として育ったから、仰々しいのは苦手なんです」

「あっ、ごめんなさい。つい、いつもの口調で喋っちゃったわ。
 パリージアさんは、支店に打ち合わせに行ってるけど急用?」

「いえいえ、今日はお隣に用があって寄ったんです。
 そう言えば、面倒な親族を追い払うのに、商業ギルドのギルマスや、学院長に手を回していただき、ありがとうございました」

 母さんの実家がお金を要求してくるのを、シフォンさんが解決してくれたのだ。

「私の兄は文部省の高官だし、ギルマスは親戚なのよ。貴族には、貴族の遣り方で対抗するのが一番なの。まあお陰で、久し振りに同期生にも会えたわ」

大したことじゃないわって、シフォンさんは笑って言う。本当に有り難い。

 シフォンさんによると、覇王関連で来店した者はまだ居ないらしい。
 ご近所さんも目を光らせてくれていて、怪しい人物を寄り付かせないとか。


 *****

「こんにちは。店主はいらっしゃいますか?」と、俺は隣の仕立て屋の店に入って声を掛けた。

 フードをとった俺を見て、店のお姉さんたちがびっくりして、慌てて階段を駆け上がっていく。

「は、はは、覇王様が来られました!」って声が下まで聴こえてきて、店中の人がバタバタと走り回る足音がする。

「これはようこそアコル様。只者ではないと思っておりましたが、まさかの覇王様とは……顔役全員が腰を抜かしそうになりましたぞ。さあ、奥へどうぞ」

店主であるご老人は、顎髭を触りながら嬉しそうに俺を出迎えてくれる。

「ああ、今日は仕事の依頼に来たんです。
 商業ギルドから【王立高学院特別部隊】の隊服の入札の話が出ていると思いますが、こちらの店も参加されますか?」

「勿論ですわ! もう、全力で仕上げにかかっています」

店長である若女将が、お茶を出しながら嬉しそうに答えてくれた。
 集まって来たお針子さんたちも、うんうんと力強く頷いてくれる。

「ありがとうございます。実は、隊服とは別に面倒な刺繡を背中に入れたものを注文したいのですが、お願いすることは出来るでしょうか?」

 俺はマジックバッグから服のデザイン画を取り出し、背中に入れる予定の刺繡の絵も見せる。

「これはもしかして魔法陣かな?」と、デザイン画を覗き込んだ店主が問う。

「はいそうです。後ろから魔獣に襲われた時、魔力を流せば 防御魔法が発動します。難しいでしょうか?」

「いいえ、出来ます! ねえみんな、出来るわよね?」

「はい! 死ぬ気で、いえ、全力でやればできます店長!」と、お針子リーダーのご婦人が、メラメラと闘志を燃やして即答する。

「これも入札かな?」

「いいえ店主、これは正式な依頼です。
 私を含めた【覇王軍】に属する学生の数は13人です。男性が11人で女性が2人、予備として男性用を2人分作っていただきたい。

 これから直ぐに使う可能性があるので、暖かい素材でお願いします。
 予算として金貨50枚を用意しました。足らなければ遠慮なく言ってください」

俺はギルマスから受け取った金貨50枚を、そのまま店主に手渡して依頼した。

「キャーッ! やったわ!」とか「頑張ります!」と、女性陣の弾んだ声が店内に響いて、皆さんのやる気が伝わって来た。これなら任せても大丈夫そうだ。

 納品日が隊服の人気投票日になるので、かなり無理させることになるけど、店主が大丈夫だと請け負ってくれたので、安心して高学院に戻ることにした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

~まるまる 町ごと ほのぼの 異世界生活~

クラゲ散歩
ファンタジー
よく 1人か2人で 異世界に召喚や転生者とか 本やゲームにあるけど、実際どうなのよ・・・ それに 町ごとってあり? みんな仲良く 町ごと クリーン国に転移してきた話。 夢の中 白猫?の人物も出てきます。 。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...