キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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魔王と覇王

129ー1 覇王、始動する(4)ー1

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 予想していたとはいえ、意外に倒れ伏している者が多い。

 この【覇気】という能力は、自分の意思とは関係なく発動するし、俺が倒れろとか腰を抜かせと命じている訳ではない。
 視線を向けただけで、相手が勝手に体勢を崩すので、俺にはどうしようもないのだ。

 ……ああ、それでも腰を抜かしている者の多くは、元の姿勢に戻せているようだ。ただ驚いただけかもしれない。

 さて、覇王としての挨拶をしなくちゃいけない。
 ワイコリーム公爵が、最初が肝心ですって念を押したから、ここは覇王らしく、いや、俺らしくいこう。
 まあ、元々 【魔王】として君臨してたから、生意気で不敬な態度は変わらないしな。

「そのままの姿勢で構わない。
 俺は、自分が今代の覇王であると、入学前から知っていた。
 だから入学後は様々な改革を行い、救済活動の必要性を教え、魔獣の大氾濫に備え【妖精学講座】を開いた。

 魔法攻撃の重要性を説き、貴族としての在り方を考え直すよう導いた。
 執行部を中心に、【王立高学院特別部隊】のメンバーは、救済活動の重要性を知っているし、今後自分は何をすべきかを考え始めている。

 残念ながら、貴族として民を守るという最も大切なことを、理解していない学生や教師が居ることは分かっている。
 だが、それを恥ずべきことだと気付かないままでは、必ず後悔するだろう」

 今度は、意識して【覇気】を放つ。
 すると、倒れ伏した者や尻もちをついたままの者が、ガタガタと震え始めた。
 俺の体は発光し、七色のオーラみたいなものが体を包んでいく。

 ……エクレアと一緒だ。これが本当の【覇気】?
 ……妖精王様の加護を頂き、全適性の魔力を放つと【覇気】になるんだ。

 恐怖で顔も上げられず震えている者たちは、俺が覇王だと知っても性根は変わらないだろう。
 平民のくせにと見下してきた俺に、従う気にはならないはずだ。

 ……だが、身分でしか人を判断できない人間には、俺は容赦しない。

 身分が大事なら、こちらは覇王として接するまでだ。
 学友や仲間や教え子としてではなく、あちらには覇王に対する接し方しか許さない。

「今、倒れ伏している者は、今後俺のことを、アコルの名で呼ぶことを禁じる。
 覇王という呼び名以外の選択肢を与えない。

 もしも第七王子と呼ぶものがいたら不敬罪に問う。
 その者は、覇王である俺を、王子と同等の身分だと侮っているのだから」

 これぞ覇王の微笑み……っていうのかどうかは分からないけど、俺は口角をニヤリと上げ、瞳は対抗するなら来いよ!と挑戦的に軽~く睨んでおく。
 残念ながら、倒れたり腰を抜かしている者は、頭を上げられないから俺の顔は見れないけど。

「学生の本分は勉学である。しかし、ここは王立高学院だ。
 国民の血税で運営され、学ばせてもらっている以上、国難である魔獣の大氾濫が起こった時には、国民に対し勉学以外の責務も果たすことは、至極当然のことだと心得よ!

 全教師は、最低でも魔法障壁で己の身を守ることを義務とする。
 貴族であるならできて当然、出来なければ出来るまで学べ。
 ここは学院だ。言い訳は許さない。

 魔獣の大氾濫に備え、魔法部と特務部は、Bランク冒険者と同等の攻撃魔法を2つ以上習得することを卒業の条件に加える。
 貴族部と商学部は、C級魔術師の資格取得を卒業の条件とする。

 魔力量がどうしても60を超えない学生は、薬草栽培、食料調達、王都民の誘導、ケガ人の救護、瓦礫の撤去、炊き出し等、救済活動を行うことを義務付ける。

 やりたくないとか、どうして民を救う必要があるんだ……とか考えている者は、血税を使った学びの権利を放棄したとみなし、王立高学院を去ることを認める。

 また、自領が心配で戻りたいという者には、1年間の休学を認める。
 学院を去る者は一週間以内に、自主退学届け又は休学届を提出し、10日以内に寮を退去せよ!」

 選ばせてやろう。
 覇王と共に戦うか、逃げるかを。
 王立高学院の卒業資格が欲しければ、誰一人として遊ばせる気はない。

 それだけ伝えたところで俺は体育館を出ることにした。俺が出て行かないと、倒れたり腰を抜かしている者が復活できない気がする。
 後方に控えている学院長に目配せし、俺と目を合わせられる者に向かって軽く手を上げ、今度は極上の笑顔を向けて退場した。



 ◇◇ 側近ラリエス ◇◇

 アコル様が退出された途端、恐怖で震えていた学生や教師たちが、体を起こせるようになった。顔色は悪いが座ることは出来るようだ。

【覇気】を放たれたアコル様は、お体が虹色に輝いておられ、もう人ならざる存在になってしまわれたと言っても過言ではないだろう。

 物心ついた時からの夢が叶って、私は胸がいっぱいだ。
 自分が唯一勝てないと認めた友が覇王様だった。
「やはりそうだったんだ!」と、嬉しくて涙が溢れた。

 それにしても、倒れていた教師が多すぎる。
 当然私は、その教師の名前を全て覚えたし、貴族部と魔法部の学生の名前はメモしておいた。
 もしも学院に残るようなら、要注意人物として対処せねばならない。
  
「全員座れ! 起き上がれない者が居たら誰か起こしてやれ。
 今、覇王様が仰られた通り、自主退学や休学を希望する者は、一週間以内に届け出を提出するように。

 残念だが、自主退学する者に学費の返還はされない。
 また1年間休学する者は、復学する際、寮の個室に入れる保証などないことを承知して欲しい。

 学院長として、倒れ伏した者、腰を抜かした者に対し、ペナルティーを課すことはない。覇王様からの処罰もないだろう。
 だが、これから学院に残る者は、覇王様と一緒に魔獣やドラゴンと戦うか、民を守るための活動をすることになる。さぼれるとは決して思わないことだ」

 今日は倒れることなく跪いていた学院長が、厳しい視線を向けながら、現実を学生や教師に突き付けた。
 元々学院長はアコル様に好意的だったし、アコル様の要望を叶えようと動かれていた。誰よりも早くアコル様の特異性を認めておられた。

 それなのにアコル様の【覇気】は、学院長を平伏させた。
 凄くショックだったと思う。でもきっと、覇王様のブレーンとして、何かが足りなかったのだろう。

「王族としての誇りや矜持なんて、覇王様の思考の前では何の役にも立たなかった」と、つい先程話した時に学院長は仰っていた。

 だが、王位継承争いに全く関係ない学院長とは違い、トーマス王子は王族としてのプライドが勝ち過ぎて、自分の何がいけないのか理解できていないと思う。
 親友でもあるルフナ王子でさえ、覇王様という存在を理解していなかった。
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