キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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魔王と覇王

122ー2 金策と独立組織(1)ー2

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「ちょ、ちょっと待ってもらっていいですか? 確認しますが、本当に覇王様が現れたのですか?」

サブギルマスらしくない言い回しで、俺じゃなくてエイト君の方を向いて確認する。

「はい? 先程から組織の代表だと名乗っておられましたし、資金はご自分で用意されるとお話しされていましたよ。えっ?」

なんでそんな質問をするの?ってエイト君は首を捻り、ボンテンク先輩に視線を向け、まさか分かっていないのか?って顔で確認する。


「アコル様。この者たちが不敬罪に問われないよう、きちんとお名乗りください」

ボンテンク先輩は、誰が覇王なのか理解できていない様子の二人を見て立ち上がり、俺の前で跪き頭を下げてお願いしてきた。

「「 はあ? 」」と驚きの声を上げた二人は、直ぐに両手で自分の口を塞ぎ、信じられないけど本当に? って顔をして、急いでドアの前まで下がり、「失礼しました」と跪いて謝罪した。

「いや、話の流れで分かってもらえたかと期待したけど、やっぱり無理でしたね。
 どうぞお座りください。ボンテンク先輩も座って。

 自分が【今代の覇王】だと知ったのは昨年の春だったかな。
 覇王として自分がすべきこと、自分に出来ることを考え、俺は【王立高学院特別部隊】を作って学生を鍛えたり、高学院を改革したり、ポーションを作ったり、救済活動をしてきた。

 だが残念なことに王族や領主の多くは、魔獣の大氾濫に対し何の備えもしておらず、民を救う気概もなかった。
 ドラゴンに王都が襲撃されても、サナへ領やデミル領が襲撃されても、王宮の人たちは、ドラゴンや魔獣の変異種を倒すことより、次期国王争いや派閥争いを優先している。

 ガッカリを通り越して、怒りを覚えるよね。
 だから俺は、そんな連中を無視して、覇王として君臨することにした。

 俺の母親は前のレイム公爵の娘で、父親は現国王だけど、レイム公爵家も王家も、俺が産まれて直ぐに捨てられたことに気付きもせず、レイム公爵なんて、俺が産まれていたことを最近知ったくらいだ。

 そんな親や親族を、俺は認めるつもりはないけど、対立する気もない。
 覇王とは、国王を従える立場だけど、そんな常識さえ、あの人たちには通用しないだろう。

 俺は君臨するけど、統治する気はない。
 そこを理解して、今後の活動を支援して欲しい。
 すべては魔獣の大氾濫に勝つため、そして一人でも多くの民を救うために」

 まだ跪いたままのギルマスとサブギルマスは、俺の話を聞き終わってから、「承知しました」と答えて、ようやく椅子まで戻って座った。
 まだ頭の中が混乱しているようだけど、俺はサクサクと話を進めていく。

 登録名も認めてもらい、活動に必要な馬車の手配も頼んだ。
 保証金は必要ないと断られたが無理矢理収めて、扱いは国と同等、または緊急性がある場合、国より対応を優先するという約束を貰った。
 ギルドカードの色は、とりあえず大商会と同じゴールドになった。



 ひと段落して、出されたお茶をのんびり飲んでいると、ギルマスに面会したいと要求する男が、職員が止めるのを無視し、強引に応接室へと入って来た。
 高学院の制服を着た俺たち三人を見て、その男は商人らしく値踏みするような視線を向けながら言った。

「ギルマス、私は面会予約をしていたはずだが?」と。

 自分が待たされたことに腹を立てたのか、恰幅の良いその初老の男は、最高級の生地を使った仕立ての良い服を着て、指には大きな宝石を輝かせ、不機嫌そうな顔をしてギルマスの返事を待つ。

「これはフロランタン商会長。お待たせしてすみません。ただ、こちらも重要なお客様でして、もう暫くお待ちいただくか、日程の変更をお願いしたいのですが」

答えたのはギルマスではなく、不機嫌な顔をしたサブギルマスだった。
 途端に怒りを滲ませた初老の男は、自分よりも学生を優先させたのが気に入らないのか、サブギルマスを睨み付けた。

 ……う~ん、商人としてその態度はどうなんだろう? この国でトップを競っている大商会の商会長だとしても、この場に居る誰よりも自分が偉いと思い込むのはいただけないな。

「フロランタン商会? それはちょうど良かった。エイト君、ほら、新しい隊服の件、見積りをお願いしたら?」

「あ、ああ、そうですね。はじめまして。私は【王立高学院特別部隊】の発注担当になった、エイト・アルベルト・マギといいます。
 この度【王立高学院特別部隊】は、隊服を作ることになりました。その件でご相談したいと思うのですが、よろしいでしょうか?」

エイト君は、覇王の御前で失礼な態度をとっている男に腹を立てながらも、感情を表に出すことなく、これぞ公爵家の子息という微笑みを浮かべて、フロランタン商会の商会長に商談を持ち掛けた。

「・・・マギ? これはマギ公爵家のエイト様。フロランタン商会のディルと申します。孫のイバレンが商学部の同期生だったと思います。
【王立高学院特別部隊】の隊服ですか? それは高学院の学院長が発注されるのでしょうか?」

マギ公爵家の名を聞き、少しは態度が柔和になったが、それでもまだ上から目線のままだ。

「ディル商会長、【王立高学院特別部隊】は独立した組織になったそうです。
 前々から、自分の商会も【王立高学院特別部隊】の仕事がしたいと仰っていましたよね。
 
 今日もその件でいらしたのでしょう?
 モンブラン商会だけが名を売るのは許せないとか……いえ、損を覚悟で協力したい……というお話でしたね、失礼しました」

どうやらギルマスもサブギルマスも、ディル商会長にはいろいろと思うところがあるようで、会話の中に嫌味が混ざっている。

「【王立高学院特別部隊】は、独立したばかりで貧乏だから、大商会であるフロランタン商会が後援してくれるなら、これ以上に心強いことはないと思わないかエイト君?
 モンブラン商会ばかりに損をさせるのは申し訳ないし」

「そうですねボンテンク先輩。ワイコリーム公爵家のラリエス君もルフナ王子も、きっと喜ぶでしょう」

 俺は昨夜従者の2人に、【王立高学院特別部隊】の隊服を作りたいと思うんだけど、どうだろうかと相談していた。
 それは是非作ろう!って話で盛り上がり、男女のデザイン画まで描いていた。

 良い素材で動きやすく、かつ格好良い隊服を、どうやったら安く作れるかで頭を悩ませた結果、織物、衣料品を一手に扱うフロランタン商会と、上手く商談をして格安で作ってもらおうという案が出ていたのだ。

 この出会いはもしや、神の御導きかもしれない。
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