キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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貴族たちの願望

116ー2 来訪者ー2

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「アコルの件を、国務大臣として訊ねたいと?」

「はいレイム公爵。ワイコリーム公爵家にとって、最も重要な任務ですから」

 ……ワイコリーム公爵にとって重要な任務?

 妙な緊張感が3人の中に生まれる。
 もしかして、ワイコリーム公爵は、アコルをレイム公爵家の後継とすることに反対なのだろうか? 

「アコルの親? 質問の意図するところが分からないが、どうせ王様に報告する時は、詳細を国務大臣にも提出することになるので、教えても構わないが」

兄上は探るような視線をワイコリーム公爵に向けながら、教えても良いと返事した。

 するとワイコリーム公爵は、突然床に跪き、祈るように、いや、本当に両手を胸の前で組んで「どうか神よ」と祈りながら目を瞑った。

 ……いったいこれは・・・アコルの何が、名門ワイコリーム公爵をこのような行動に駆り立てているのだろう?

「アコルを直系としたのは、アコルの母親が先代の娘だったからだ」

ワイコリーム公爵のあまりに真摯な行動に驚きながら、兄上ははっきり母親だと答えた。

「・・・ああ……神よ感謝します」

ワイコリーム公爵はそう呟くと、ハーッと深く息を吐きだし頭を下げた。
 あまりの様子に、私も兄上も状況が分からず、暫く声を掛けることもできない。

 余程何かを思い詰めていたのだろうということは察したが、国務大臣であり名門公爵家の主が、人前で声を出さずに泣いている様は、自分まで胸が苦しくなるような気がしてしまう。

「アコルの母親は、アコルを産んで間もなく亡くなり、育てると約束した母親の養父母は、養育費を着服しアコルを孤児院の前に捨てた。
 それはサーシム領の孤児院で、何者かが孤児院に付け火し、孤児院は全焼し生き残った者は居なかった。そうではありませんか?」

顔を上げ立ち上がったワイコリーム公爵は、確認するようにゆっくりと、そして瞳に力を込めてはっきりとした口調で兄上に確認する。

「その通りだ。ワイコリーム公爵は、その話を誰から聞いたのだろうか?」

「レイム公爵、実はその養父母、アコルの父親の家からも養育費を着服していたのです」

ワイコリーム公爵は、今度は憎しみを込めたかのような厳しい口調で、驚きの真実を語った。

「アコルの父親?」と思わず私は口にした。

「アコルの父親はワイコリーム公爵家の関係者だったのか?」と兄上は緊張した表情で訊き返した。
 子供の親権は父親側にあるのだ。
 どうやらワイコリーム公爵家は、アコルの父親に心当たりがあるようだ。

「いいえ、そうではありません。ですが、ワイコリーム公爵家が総力を挙げてお探ししていたお子様です。
 養父母は、私が捕らえ牢に閉じ込めてあります」

「ワイコリーム公爵家が総力を挙げて探す? えっ?……いや、そんなはず」

兄上は凄く衝撃を受けたように目を大きく開け、椅子から立ち上がってワイコリーム公爵をじっと見詰める。

「どういうことなのですか兄上? ワイコリーム公爵、アコルの父親は誰なのですか?」

自分だけ答えが分からない焦燥感で、思わず立ち上がり大声で問い質してしまった。

「学院長、いえ、王弟モーマット様、アコル君は、私が5年間探し続けていた第七王子様だったのです。
 アコル君こそが、覇王様が遺言書で予言された、覇王となるためにお生まれになった王子だったのです」

「な、何だって! 第七王子は死んだと聞いていたが・・・」

 ……第七王子! アコルが? 覇王となる王子だって!?

「あとは、アコル君が【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書を持っているかどうか、直接会って確認するだけです」

 ようやく笑顔を見せたワイコリーム公爵は、椅子に座ってゆっくりとお茶を飲み始めた。
 私と兄上は、呆然としながら椅子に座った。


 魔術書?・・・そうだ、アコルは閲覧禁止書庫に入った時、魔術書の本を選んで読んでいた。
 アコルが本当に第七王子で、【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書を持っていたら、古代魔法や古代魔法陣を使える謎が一気に解決する。

 ……バケモノみたいに多い魔力量も、王族であり覇王候補であれば納得できる。

「アコルは、自分が王子だと知っているのだろうか?」

「恐らくご存じだと思いますレイム公爵。
 アコル様は、息子のラリエスに、自分の知識は託されたものであり、他にも託された者はたくさん居ると言っていたそうですから。
 ラリエスは、初めてリドミウムの森でアコル君に会った時から、並外れた魔力量を持っていた彼を、第七王子だと思っていたようです」

ワイコリーム公爵は、ようやくここまで辿り着きましたと言って微笑んだ。

「兄上、アコルは閲覧禁止書庫で、魔術書に関する本を読んでいました。きっとアコルは、魔術書が何処の貴族家のモノなのか調べたのだと思います。
 あの時、自分が王子であると知ったはずです」

 頭の中でもやもやと考えていたアコルに関する疑問や不審が、一瞬で吹っ飛んだ。

 あの独特の思考も、王族や上位貴族を恐れない態度も、常に住民のために行動しようとする行いも、圧倒的な魔力量と魔法を操る能力も、覇王として示されていたと思えば納得する。

 私は秘書のアークスを呼んで、疲れた脳を癒すため、茶菓子を追加するよう指示を出した。
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