205 / 709
貴族たちの願望
116ー2 来訪者ー2
しおりを挟む
「アコルの件を、国務大臣として訊ねたいと?」
「はいレイム公爵。ワイコリーム公爵家にとって、最も重要な任務ですから」
……ワイコリーム公爵家にとって重要な任務?
妙な緊張感が3人の中に生まれる。
もしかして、ワイコリーム公爵は、アコルをレイム公爵家の後継とすることに反対なのだろうか?
「アコルの親? 質問の意図するところが分からないが、どうせ王様に報告する時は、詳細を国務大臣にも提出することになるので、教えても構わないが」
兄上は探るような視線をワイコリーム公爵に向けながら、教えても良いと返事した。
するとワイコリーム公爵は、突然床に跪き、祈るように、いや、本当に両手を胸の前で組んで「どうか神よ」と祈りながら目を瞑った。
……いったいこれは・・・アコルの何が、名門ワイコリーム公爵をこのような行動に駆り立てているのだろう?
「アコルを直系としたのは、アコルの母親が先代の娘だったからだ」
ワイコリーム公爵のあまりに真摯な行動に驚きながら、兄上ははっきり母親だと答えた。
「・・・ああ……神よ感謝します」
ワイコリーム公爵はそう呟くと、ハーッと深く息を吐きだし頭を下げた。
あまりの様子に、私も兄上も状況が分からず、暫く声を掛けることもできない。
余程何かを思い詰めていたのだろうということは察したが、国務大臣であり名門公爵家の主が、人前で声を出さずに泣いている様は、自分まで胸が苦しくなるような気がしてしまう。
「アコルの母親は、アコルを産んで間もなく亡くなり、育てると約束した母親の養父母は、養育費を着服しアコルを孤児院の前に捨てた。
それはサーシム領の孤児院で、何者かが孤児院に付け火し、孤児院は全焼し生き残った者は居なかった。そうではありませんか?」
顔を上げ立ち上がったワイコリーム公爵は、確認するようにゆっくりと、そして瞳に力を込めてはっきりとした口調で兄上に確認する。
「その通りだ。ワイコリーム公爵は、その話を誰から聞いたのだろうか?」
「レイム公爵、実はその養父母、アコルの父親の家からも養育費を着服していたのです」
ワイコリーム公爵は、今度は憎しみを込めたかのような厳しい口調で、驚きの真実を語った。
「アコルの父親?」と思わず私は口にした。
「アコルの父親はワイコリーム公爵家の関係者だったのか?」と兄上は緊張した表情で訊き返した。
子供の親権は父親側にあるのだ。
どうやらワイコリーム公爵家は、アコルの父親に心当たりがあるようだ。
「いいえ、そうではありません。ですが、ワイコリーム公爵家が総力を挙げてお探ししていたお子様です。
養父母は、私が捕らえ牢に閉じ込めてあります」
「ワイコリーム公爵家が総力を挙げて探す? えっ?……いや、そんなはず」
兄上は凄く衝撃を受けたように目を大きく開け、椅子から立ち上がってワイコリーム公爵をじっと見詰める。
「どういうことなのですか兄上? ワイコリーム公爵、アコルの父親は誰なのですか?」
自分だけ答えが分からない焦燥感で、思わず立ち上がり大声で問い質してしまった。
「学院長、いえ、王弟モーマット様、アコル君は、私が5年間探し続けていた第七王子様だったのです。
アコル君こそが、覇王様が遺言書で予言された、覇王となるためにお生まれになった王子だったのです」
「な、何だって! 第七王子は死んだと聞いていたが・・・」
……第七王子! アコルが? 覇王となる王子だって!?
「あとは、アコル君が【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書を持っているかどうか、直接会って確認するだけです」
ようやく笑顔を見せたワイコリーム公爵は、椅子に座ってゆっくりとお茶を飲み始めた。
私と兄上は、呆然としながら椅子に座った。
魔術書?・・・そうだ、アコルは閲覧禁止書庫に入った時、魔術書の本を選んで読んでいた。
アコルが本当に第七王子で、【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書を持っていたら、古代魔法や古代魔法陣を使える謎が一気に解決する。
……バケモノみたいに多い魔力量も、王族であり覇王候補であれば納得できる。
「アコルは、自分が王子だと知っているのだろうか?」
「恐らくご存じだと思いますレイム公爵。
アコル様は、息子のラリエスに、自分の知識は託されたものであり、他にも託された者はたくさん居ると言っていたそうですから。
ラリエスは、初めてリドミウムの森でアコル君に会った時から、並外れた魔力量を持っていた彼を、第七王子だと思っていたようです」
ワイコリーム公爵は、ようやくここまで辿り着きましたと言って微笑んだ。
「兄上、アコルは閲覧禁止書庫で、魔術書に関する本を読んでいました。きっとアコルは、魔術書が何処の貴族家のモノなのか調べたのだと思います。
あの時、自分が王子であると知ったはずです」
頭の中でもやもやと考えていたアコルに関する疑問や不審が、一瞬で吹っ飛んだ。
あの独特の思考も、王族や上位貴族を恐れない態度も、常に住民のために行動しようとする行いも、圧倒的な魔力量と魔法を操る能力も、覇王として示されていたと思えば納得する。
私は秘書のアークスを呼んで、疲れた脳を癒すため、茶菓子を追加するよう指示を出した。
「はいレイム公爵。ワイコリーム公爵家にとって、最も重要な任務ですから」
……ワイコリーム公爵家にとって重要な任務?
妙な緊張感が3人の中に生まれる。
もしかして、ワイコリーム公爵は、アコルをレイム公爵家の後継とすることに反対なのだろうか?
「アコルの親? 質問の意図するところが分からないが、どうせ王様に報告する時は、詳細を国務大臣にも提出することになるので、教えても構わないが」
兄上は探るような視線をワイコリーム公爵に向けながら、教えても良いと返事した。
するとワイコリーム公爵は、突然床に跪き、祈るように、いや、本当に両手を胸の前で組んで「どうか神よ」と祈りながら目を瞑った。
……いったいこれは・・・アコルの何が、名門ワイコリーム公爵をこのような行動に駆り立てているのだろう?
「アコルを直系としたのは、アコルの母親が先代の娘だったからだ」
ワイコリーム公爵のあまりに真摯な行動に驚きながら、兄上ははっきり母親だと答えた。
「・・・ああ……神よ感謝します」
ワイコリーム公爵はそう呟くと、ハーッと深く息を吐きだし頭を下げた。
あまりの様子に、私も兄上も状況が分からず、暫く声を掛けることもできない。
余程何かを思い詰めていたのだろうということは察したが、国務大臣であり名門公爵家の主が、人前で声を出さずに泣いている様は、自分まで胸が苦しくなるような気がしてしまう。
「アコルの母親は、アコルを産んで間もなく亡くなり、育てると約束した母親の養父母は、養育費を着服しアコルを孤児院の前に捨てた。
それはサーシム領の孤児院で、何者かが孤児院に付け火し、孤児院は全焼し生き残った者は居なかった。そうではありませんか?」
顔を上げ立ち上がったワイコリーム公爵は、確認するようにゆっくりと、そして瞳に力を込めてはっきりとした口調で兄上に確認する。
「その通りだ。ワイコリーム公爵は、その話を誰から聞いたのだろうか?」
「レイム公爵、実はその養父母、アコルの父親の家からも養育費を着服していたのです」
ワイコリーム公爵は、今度は憎しみを込めたかのような厳しい口調で、驚きの真実を語った。
「アコルの父親?」と思わず私は口にした。
「アコルの父親はワイコリーム公爵家の関係者だったのか?」と兄上は緊張した表情で訊き返した。
子供の親権は父親側にあるのだ。
どうやらワイコリーム公爵家は、アコルの父親に心当たりがあるようだ。
「いいえ、そうではありません。ですが、ワイコリーム公爵家が総力を挙げてお探ししていたお子様です。
養父母は、私が捕らえ牢に閉じ込めてあります」
「ワイコリーム公爵家が総力を挙げて探す? えっ?……いや、そんなはず」
兄上は凄く衝撃を受けたように目を大きく開け、椅子から立ち上がってワイコリーム公爵をじっと見詰める。
「どういうことなのですか兄上? ワイコリーム公爵、アコルの父親は誰なのですか?」
自分だけ答えが分からない焦燥感で、思わず立ち上がり大声で問い質してしまった。
「学院長、いえ、王弟モーマット様、アコル君は、私が5年間探し続けていた第七王子様だったのです。
アコル君こそが、覇王様が遺言書で予言された、覇王となるためにお生まれになった王子だったのです」
「な、何だって! 第七王子は死んだと聞いていたが・・・」
……第七王子! アコルが? 覇王となる王子だって!?
「あとは、アコル君が【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書を持っているかどうか、直接会って確認するだけです」
ようやく笑顔を見せたワイコリーム公爵は、椅子に座ってゆっくりとお茶を飲み始めた。
私と兄上は、呆然としながら椅子に座った。
魔術書?・・・そうだ、アコルは閲覧禁止書庫に入った時、魔術書の本を選んで読んでいた。
アコルが本当に第七王子で、【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書を持っていたら、古代魔法や古代魔法陣を使える謎が一気に解決する。
……バケモノみたいに多い魔力量も、王族であり覇王候補であれば納得できる。
「アコルは、自分が王子だと知っているのだろうか?」
「恐らくご存じだと思いますレイム公爵。
アコル様は、息子のラリエスに、自分の知識は託されたものであり、他にも託された者はたくさん居ると言っていたそうですから。
ラリエスは、初めてリドミウムの森でアコル君に会った時から、並外れた魔力量を持っていた彼を、第七王子だと思っていたようです」
ワイコリーム公爵は、ようやくここまで辿り着きましたと言って微笑んだ。
「兄上、アコルは閲覧禁止書庫で、魔術書に関する本を読んでいました。きっとアコルは、魔術書が何処の貴族家のモノなのか調べたのだと思います。
あの時、自分が王子であると知ったはずです」
頭の中でもやもやと考えていたアコルに関する疑問や不審が、一瞬で吹っ飛んだ。
あの独特の思考も、王族や上位貴族を恐れない態度も、常に住民のために行動しようとする行いも、圧倒的な魔力量と魔法を操る能力も、覇王として示されていたと思えば納得する。
私は秘書のアークスを呼んで、疲れた脳を癒すため、茶菓子を追加するよう指示を出した。
6
お気に入りに追加
319
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる