キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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貴族たちの願望

110ー1 冬季休暇中の高学院ー1

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 二週間ぶりに戻った高学院内を、歩いている学生の数は少ない。
 戻っているのは、単位を落とし再試験を受ける者や、来月行われる魔術師資格試験を受ける準備のため、魔法の練習をしたくて早めに戻ってきた学生くらいだ。

 遠い領地から来ている学生は、往復するだけでも二週間必要だから、講義が始まる15日ギリギリに戻ってくるだろう。
 しかも今回サナへ領へ行った【王立高学院特別部隊】に所属する学生は、20日までに戻ってくれば良いことになっている。


 最初に向かうのは商学部の職員室だ。
 商学部の部長教授であり、商学部1年担当のカモン教授と面会し、自分のこれからの計画に協力して貰わなくちゃいけない。

「おはようございますカモン教授。実はお願いがありまして」と、俺は爽やかな優等生の顔で微笑みながら話し掛けた。

「お帰りアコル君。サナへ領の救済活動はどうだったかな?」

カモン教授は俺のお願いという言葉にちょっと引きながら、近くに座っているヨサップ教授とノボルト教授に目配せをする。

 前回ここに来たのはレブラクトの町がドラゴンに襲撃された直後で、冒険者ギルドに行くための外出許可を貰うためだった。
 あの時に俺は、この3人の教授にブラックカード持ちの冒険者であり、契約妖精がいることを教えていた。

「カモン教授、ここでの立ち話もあれなんで、会議室に移動しましょう」と、ノボルト教授が室内にチラリと視線を向け提案してきた。

「そうです。アコル君の話は心臓に悪いので、ぜひ座って聞きたいと思います」とヨサップ教授が賛同する。2人の教授も話を聞きたいらしい。
 

「サナへ領で何かあったかな?」

「はい、それはもう・・・いろいろありましたカモン教授。
 商学部の学生として考えれば意味不明で怒り心頭と言ったところですが、【王立高学院特別部隊】として考えれば、学ぶことの多い良い経験となりました」

会議室に移動した俺は、いつものように手際よくマジックバッグの中からお茶セットとポットを取り出し、頭をスッキリさせる効果のハーブティーを淹れながら答えた。

 当然、俺のマジックバッグの機能というか性能を初めて見た3人の教授の目は、大きく見開かれたままで口も半開きになっている。

「本日のティーカップは、モンブラン商会の今年の新作です。
 お茶は私が興した店【薬種 命の輝き】の商品で、頭をスッキリさせる効果のあるハーブティーです。お好みでお砂糖をどうぞ」

俺は特別サービスで、新作の白磁のカップでおもてなしする。
 これからするお願いの内容を考えたら、お茶の接待は必要なことだ。

 このカップの風景画は、俺が冒険者として旅をしていた時に採取した、特殊な石を使って描かれており、色は白に青一色だが非常に美しい仕上がりになっている。

 予想外の美しさに焼き上がり、出来上がった試作品を、窯元が慌てて本店と俺に届けてきたのだ。
 会頭は新シリーズとして売り出したいと張り切っている。

「なんと美しい。こんな高価なカップで飲むのは緊張しますな」

「いや本当にそうですノボルト教授。売値を訊いてもいいかねアコル君?」

「はいカモン教授。このシリーズはまだ王宮にも販売されておりません。この青を出す原料が非常に希少なため、価格は一客金貨5枚くらいでしょう」

俺がにっこりと笑って値段を言うと、教授たちは一斉に動きを止め息も止めた。

「ご安心ください。これは試作品です。買ったモノではありません。折角ですから熱いうちにお飲みください」

今日の俺は商人モードだ。だから肩もこらない。追加でクッキーを出して美味しいですよと一口食べて見せる。

 恐る恐る3人がハーブティーを飲み始めたところで、俺はサナへ領の救済活動の実態を、モンブラン商会と同様に収支報告書を見せながら話していく。
 商人としての立場と、学生としての立場の両方の視点で話し、俺やエイト君が襲撃されたことや、それに伴う処罰等の情報は伏せておく。

 まだ受け取っていない学生に配った帰りの旅費の立替金や、学生が自腹で払った食費や宿代などは、これから集計する予定だと付け加える。
 もちろん商業ギルド本部で受け取った納品書と請求書も添付する。

 なんたって教材にする予定だから、資料はきちんと揃えておかねばならない。

「う、う~ん、それはもう災難に近い出来事だったな。側近が最低だし、財務担当が同行しないなんて有り得ない」

「そうですカモン教授。全ての活動には資金が必要ですし、それを管理したり助言する人材の必要性と重要性を、理解してない貴族や領主が多いんです」

「全くですヨサップ教授。私はサナへ領の財務担当者に同情します。
 いろいろとやらかした後で、処理や後始末だけを押し付け責任を取らない。そんな上司の下で働く担当者の苦労を思うと腹が立ちます」

 なんだか教授たちの怒りのスイッチを押してしまったようだ。
 3人とも高学院で働く前は、王宮の財務部や他部署で10年以上働いた経験のあるエリートだから、その時の苦労を思い出したのかもしれない。

 ……ああ、同じ感覚の人と話すと救われるなぁ。

 俺はお茶のおかわりを注ぎながら、次のステップ、いや、本題へと話を進めることにする。

「それでですね、執行部の皆とも話したのですが、今後【王立高学院特別部隊】が出動要請を受ける場合、こちらから、一定の条件を付けた方がいいだろうということになりました」

「一定の条件?」と3人の声が揃う。

「はい、そもそも救済活動とは何なのか、何が必要で何をしなければならないのかを領主も知りません。
 そういう基本的なことを、各領主の側近や担当者に学んでいたただきたいのです。

【王立高学院特別部隊】が救済活動や魔獣討伐に専念できるよう、準備を整えていただこうと考えています。
 準備の出来ていない領地には救済に行かない……または、経費前払いの有料にしたいと思っています」

 俺は昨夜書き上げた【王立高学院特別部隊に、救援または救済活動を要請するための危機管理指導講座のご案内(案)】と表紙に書かれた提案書を、マジックバッグから取り出しテーブルの上に置いた。

「主導するのは商学部になります。
 もしも賛同いただけるのであれば、商学部の講義の一環として、今回の救済活動の決算書を、危機管理指導講座の教科書として学生に作成させてください。
 そうして学んでおけば、今後全ての領や王宮の財務部で、必要な人材となるのは間違いありません」

商学部にとって利となる部分を強調し、少しでも興味を持ってもらえるよう、提案書の内容を説明していく。

 う~んと唸ったり、成る程と感心したり、ここはどうだろう?と疑問点を上げたり、違う意見を出したりしながら、いつの間にか真剣に提案書のことを皆で議論してくれる。有難いことだ。
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