キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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貴族たちの願望

103ー1 交錯する思惑 マギ公爵領(2)ー1

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 俺と姉貴は、これまで通りの考え方しかできていないクルト兄さんに、今回のサナへ領で行った救済活動での様々な話を聞かせた。
 最も大事なのは事前準備であり、住民と役人の意識改革であり、生き残るために何をすべきかという点について、主に姉貴が話していく。

 俺だとついクルト兄さんに甘くなり、「まあ、知らなかったんだから、これから頑張ればいいんじゃない」みたいなことを言ってしまう。

 しかし姉貴なら「知らなかったで済む立場ではありませんわよね、お兄様」と、凍るような視線を向けてビビらせ、完全に逃げ道を塞ぐことができる。

 執行部では部長という立場からか、ノエル様の方が目立っているけど、辛辣さにかけては姉貴も負けてはいない。
 しかも、笑顔で脅すという恐ろしい技を使う。

「それにしても、王立高学院特別部隊を率いているリーダーは1年生なんだろう?
 他にも適任者がたくさん居るような気がするんだけど、ルフナ王子じゃなくていいのか? 他にも領主の子息だって居るだろう?」

度々登場するアコルという平民の1年生に、クルト兄さんは眉を寄せる。
 まあ、これが普通の貴族の反応だろうな・・・

「救済活動も王立高学院特別部隊も妖精学講座も、全てアコルの発案なんだよ。
 発案者だからこそのリーダーだし、それだけの実力を示している。

 だから、アコルを押しのけてリーダーをやりたがる学生は……たぶん居ない。
 特に資金と人脈とマジックバッグという3点でいうと、代われる者なんてこの国には居ないよ」

「ええ、エイトの言う通りね。
 彼はSランク冒険者であり、大商団を率いる店主であり、後ろには大商会であるモンブラン商会がついているの。

 彼の本当に凄いところは、身分差による不敬罪を全く恐れていないところだわ。
 トーマス王子とサナへ侯爵様に、平気で威圧を放てるんだから」

俺も姉貴も、自慢するように競うようにアコルのことを話していく。

 やり過ぎだと思う部分もあるけど、それでも自分を曲げないアコルを尊敬すらしている訳だから、執行部のメンバーなんか、ルフナ王子とリーマス王子も含めて、アコルのすることにワクワクして目が離せない。

 発想力も行動力も、平民として育ったからこその価値観も新鮮で感慨深い。

「お前たちがそれ程に認めている学生ならいいが、実力よりも身分を尊ぶ貴族は、残念ながら従えないだろうね。
 サナへ侯爵の側近だってそうだったんだろう。

 正しいか間違っているかではなく、誰が指揮を執るかで、貴族は身の振り方を決める。
 だからこそ、これからはトーマス王子かルフナ王子が前に出た方がいいと私は思う」

クルト兄さんは公爵家の後継者として、貴族らしい考え方を懸念し、この国の全てを巻き込んで先に進むなら、リーダーを変えるべきだろうと言う。
 そうしないと、消される可能性だってあるんじゃないかと付け加えた。

 ……知ってるよ。既に王様とレイム公爵から殺されかけたから。

 俺と姉貴は、アコルがレイム公爵家の後継という立場を受け入れれば、問題ないだろうと考えている。
 でもその件は、まだ表には出せないことだ。
 とりあえず今のマギ公爵領で出来ることを話し合い、住民を避難させることを優先に策を練ることにした。



 翌日は、トラジャ君と一緒に魔法攻撃の練習をする。
 アコルに教えてもらったドラゴントルネードを、より進化させる予定だ。

 これまでは風魔法を使い、小型の竜巻を作り出して目標物を巻き上げて落とすという攻撃だったけど、アコルは魔力量が上がれば風に火魔法を加えて、ドラゴンファイヤートルネードに出来ると言っていた。

 トラジャ君に魔力を分けてもらったから、一気に魔力量が100まで上がったけど、なかなか上手く炎が渦を巻いてくれない。

『エイト、先に炎を出してから渦を巻かせるんじゃなくて、これまで通りに風魔法で上手く渦を作ったところに、炎を下から追加するのはどうだ?』

「成る程、うん、やってみるよトラジャ君!」

 トラジャ君のアドバイスに従って、これまで通りに渦を作ってから炎を追加してみた。
 下からというのが難しいけど、目の高さからなら炎を追加することが出来た。でも、それじゃあ渦の下部に魔獣がいたら全身を焼くことは出来ない。

 午前中かけて練習をしていたら、クルト兄さんと屋敷の警備隊長がやって来て、攻撃が強すぎて演習場の回りの木々が焼けてしまうので、屋敷内で練習するのは止めて欲しいとお願いされてしまった。

「エイト、お前いつの間にそんな攻撃魔法を使えるようになったんだ? 凄いじゃないか。お前まだ、B級魔術師試験さえ受けてないだろう?」

クルト兄さんは感心したように言うけど、これが王立高学院特別部隊のレベルだと教えると、信じられないと絶句していた。

 クルト兄さんも警備隊長もA級作業魔法師の資格を持っているけど、これまでの魔術師資格は作業用であって、強力な攻撃魔法や攻撃特化の魔法陣は使えない。

「これは、Sランク冒険者のアコルに教えてもらった攻撃だよ。
 もっと風を強くして炎を高温に出来たら、魔獣の変異種だって倒せるかもしれない。

 魔法陣を合わせれば、もっともっと強い攻撃になるかもしれない。
 でも、この程度では、上位種を倒すのがやっとだ」

「エイト様、それ程の強い攻撃でも、変異種は倒せないのですか?」

「そうだよ警備隊長。もっと早く、もっと強く攻撃できなきゃ俺が死ぬ」

 これまでの常識しか知らない警備隊長は、少し前の高学院の教授や魔法省で働く魔法師たちと同じで、A級作業魔法師なら簡単に魔獣と戦えると勘違いしていた。
 どうやらクルト兄さんも同じみたいで、魔法師を過大評価している。

 ……このまま誤った常識で魔獣と対戦したら、マギ領の魔術師や魔法師は死んでしまう。

 ここは冒険者登録させて、中級魔獣くらいから経験を積ませなきゃ、いざという時に冒険者の足手まといになるし無駄死にするな。

「クルト兄さん、魔獣の大氾濫に備え、我が領で働くのB級作業魔術師以上の者に、一般魔術師の資格を取らせてください。
 そうでないと、魔法省のA級魔法師のように、自分は強いと勘違いして無駄死にしてしまいます。
 もう魔法省には、魔獣と戦える魔術師も魔法師も残っていませんよ」

「「なんだと!」」と、クルト兄さんと警備隊長の声が揃った。
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