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貴族たちの願望
100ー2 交錯する思惑 レイム公爵領(1)ー2
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そんなこんなを考えながら歩いていたら、いつの間にか屋敷に到着していた。
「旦那様、ボンテンク様がサナへ領よりお戻りになられました」
「ボンテンクが? レイム領に戻ると言っていたはずだが……」
家令のホルスが執務室の前で声を掛けると、中から父の声が返ってきた。幸運にもレイム領には戻っていなかったようだ。
俺は父の執務室に入ると、早速サナへ領での救済活動の様子や、デミル領のことを報告した。
当然デミル公爵が被災者を見捨てた話に驚き激怒したが、サナへ侯爵とトーマス王子についても渋い顔をした。
「サナへ侯爵は何故、自領の財務担当官を同行しなかったのだろうか?
救済に行った学生にお金のことで指摘を受けるとは・・・完全に側近の失態だ。
それにしても、領主に向かってお金のことで意見するとは、命知らずな学生が居たものだ」
父は首を捻りながら、レイム領だったらそんな失態は考えられないと言って、領主に意見した学生が居たことを驚いている。
「その意見した学生は平民ですが、執行部のリーダーであり実質的に【王立高学院特別部隊】を率いています。しかも13歳の1年生です」
「平民? 平民がリーダーなのか? それにお前も従っているのか?」
「はい父上。彼は開校以来の最高得点で入学し、ブラックカードを持たされたSランク冒険者であり、昨年商業ギルドに登録し、僅か1年で店を大商団にした規格外の学生です」
俺はにっこりと笑い、ルフナ王子もリーマス王子も、彼をリーダーとして認めており、学院長も彼の意見を学院に取り入れていますと付け加えた。
「13歳でSランク冒険者だと? 1年で大商団? あり得んな。なんの冗談だボンテンク」
「冗談ではありません。彼は私の目の前で体長5メートルを超えるスノーウルフの変異種を、3分で倒しましたよ。
そして寒さに凍え飢えて死にかけている被災者に、自腹で炊き出しを行い、寝床を土魔法で造り、救済として仕事を与え、自分の店から日当を払い、格安で商品を売っていました。
貴族の子息として育った私では、とても真似できません」
俺はアコルのことを話しながら、なんだか嬉しくなってきた。
自分と実力が近ければ悔しいとか嫉妬したかもしれない。だが、全てにおいて超越しているのだ。
そんな凄い学生が仲間で、もしかしたら、いや、きっと主になる。
「その学生は平民ではないだろう。Sランク冒険者が平民であるはずがない」
「その通りです。彼は七色の羽根の女の子の妖精と契約し、学院で妖精学講座を開いています」
「なんだと! 七色の羽根の妖精と契約しているだと!?」
「はい、彼は捨て子だったらしいです父上」
父は暫く無言で微動だにせず、何かを思い出したのか「いや、そんなはず」と言って首を振った。
「しかし、懸命にサナへ領の被災者に尽くしたのに、彼は平民というだけで、サナへ侯爵の側近と副役場長に生意気だと疎まれ、手下に襲撃され剣で斬られました」
「なんだと! 救済に来た恩人を襲撃しただと! 妖精と契約している者を襲撃したというのか?」
父は椅子から立ち上がると、信じられないというより、明らかに怒りの形相で叫んだ。
レイム領において妖精と契約できる者は、特別な存在だったのだ。
「はい。サナへ侯爵の三男トゥーリス君が、被害者の学生アコル君に、補償と日当などの支払いを迫ると、もう一人の側近は、斬られた学生は平民なのだから金貨1枚で充分だと言い、サナへ侯爵も自分で金貨1枚を払うと言いました。
側近は日当の支払いは必要ないと言い、トゥーリス君は激怒していました」
気の毒なトゥーリス君を思い出し、俺はつい溜息を吐いてしまう。
「そして斬られたアコル君が席を離れている間に、彼の契約妖精エクレアちゃんが現れ、ある衝撃の事実を我々の前で語りました。
トーマス王子もサナへ侯爵も、王都を出る時レイム公爵から、アコルが先のレイム公爵の孫であり、次期レイム公爵候補だと聞いていたのに、金貨1枚なのかと……その場に居た妖精たちを従えて問い質したのです」
「レイム公爵の孫・・・」と、意外にも父上は小さな声で呟き、怒りからなのかどうか分からないが、両手を強く握り締めプルプルと震わせる。
「はい父上、【王立高学院特別部隊】を率い、Sランク冒険者であり、大商団主であるアコル君は、間違いなくレイム公爵家の直系でした。
しかし、まだレイム公爵様は、そのことをアコル君に告げていません。
この冬期休暇中に屋敷に呼ばれる予定だったそうで、その場に居た学生には箝口令が敷かれました」
その後俺は、モカの町で起こった様々なことを包み隠さず父に報告し、レイム公爵領の貴族として、サナへ侯爵とトーマス王子の態度が許せないと、自分の想いをぶちまけた。
サナへ侯爵はレイム公爵派であると思っていたけど、それは現レイム公爵が王の弟だからであり、レイム公爵家を重要視されていた訳ではなかったと、今回思い知ることになってショックだったことも伝えた。
「レイム公爵領の貴族は、トーマス王子を次期国王に推し、男子の生まれていないレイム公爵家の後継に、レイム公爵家の血筋であるルフナ王子をと考える者が多いと聞いています。
しかし私は、ルフナ王子こそが次期国王に相応しいと思うようになりました。
アコル君がレイム公爵家の後継となるなら、ルフナ王子をレイム公爵家の後継に据える必要がなくなります」
モカの町から帰る道中、アコルがレイム公爵家の領主になったらと想像し、これ以上の人材は見付けられないと思ったことも伝えた。
「それで、本来であればレイム公爵家の後継として、それなりの対応を受けるはずの自分が、不当な扱いを受け傷付けられたことに対し、アコル君……だったかな、彼はどう決着をつけたのだ?」
予想外にも父は、トーマス王子やサナへ侯爵の不当な対応に目を向けるのではなく、アコルがどう決着をつけたのかの方が気になったみたいだ。
「彼は自分が襲われると予想し、モカの町のために自分を犠牲にし斬られ、不正を働いていた副役場長と住民管理部長とサナへ侯爵の側近を捕らえさせました。
サナへ侯爵と我ら執行部が出した結論は、処刑や爵位剥奪と、治療に使ったポーション代金として金貨8枚、補償料として金貨2枚でした。
しかしアコル君は、平民であり被害者である自分の得になってないと一蹴しました。
処刑するなんて愚か者のすることだと言い切り、死ぬまで町のために労働させ、労働の対価として得るはずのお金を、自分とモカの町の損失に充てると言いました。
ああ、そういえば、彼は最後まで貴族としての身分を一度も使いませんでした」
「旦那様、ボンテンク様がサナへ領よりお戻りになられました」
「ボンテンクが? レイム領に戻ると言っていたはずだが……」
家令のホルスが執務室の前で声を掛けると、中から父の声が返ってきた。幸運にもレイム領には戻っていなかったようだ。
俺は父の執務室に入ると、早速サナへ領での救済活動の様子や、デミル領のことを報告した。
当然デミル公爵が被災者を見捨てた話に驚き激怒したが、サナへ侯爵とトーマス王子についても渋い顔をした。
「サナへ侯爵は何故、自領の財務担当官を同行しなかったのだろうか?
救済に行った学生にお金のことで指摘を受けるとは・・・完全に側近の失態だ。
それにしても、領主に向かってお金のことで意見するとは、命知らずな学生が居たものだ」
父は首を捻りながら、レイム領だったらそんな失態は考えられないと言って、領主に意見した学生が居たことを驚いている。
「その意見した学生は平民ですが、執行部のリーダーであり実質的に【王立高学院特別部隊】を率いています。しかも13歳の1年生です」
「平民? 平民がリーダーなのか? それにお前も従っているのか?」
「はい父上。彼は開校以来の最高得点で入学し、ブラックカードを持たされたSランク冒険者であり、昨年商業ギルドに登録し、僅か1年で店を大商団にした規格外の学生です」
俺はにっこりと笑い、ルフナ王子もリーマス王子も、彼をリーダーとして認めており、学院長も彼の意見を学院に取り入れていますと付け加えた。
「13歳でSランク冒険者だと? 1年で大商団? あり得んな。なんの冗談だボンテンク」
「冗談ではありません。彼は私の目の前で体長5メートルを超えるスノーウルフの変異種を、3分で倒しましたよ。
そして寒さに凍え飢えて死にかけている被災者に、自腹で炊き出しを行い、寝床を土魔法で造り、救済として仕事を与え、自分の店から日当を払い、格安で商品を売っていました。
貴族の子息として育った私では、とても真似できません」
俺はアコルのことを話しながら、なんだか嬉しくなってきた。
自分と実力が近ければ悔しいとか嫉妬したかもしれない。だが、全てにおいて超越しているのだ。
そんな凄い学生が仲間で、もしかしたら、いや、きっと主になる。
「その学生は平民ではないだろう。Sランク冒険者が平民であるはずがない」
「その通りです。彼は七色の羽根の女の子の妖精と契約し、学院で妖精学講座を開いています」
「なんだと! 七色の羽根の妖精と契約しているだと!?」
「はい、彼は捨て子だったらしいです父上」
父は暫く無言で微動だにせず、何かを思い出したのか「いや、そんなはず」と言って首を振った。
「しかし、懸命にサナへ領の被災者に尽くしたのに、彼は平民というだけで、サナへ侯爵の側近と副役場長に生意気だと疎まれ、手下に襲撃され剣で斬られました」
「なんだと! 救済に来た恩人を襲撃しただと! 妖精と契約している者を襲撃したというのか?」
父は椅子から立ち上がると、信じられないというより、明らかに怒りの形相で叫んだ。
レイム領において妖精と契約できる者は、特別な存在だったのだ。
「はい。サナへ侯爵の三男トゥーリス君が、被害者の学生アコル君に、補償と日当などの支払いを迫ると、もう一人の側近は、斬られた学生は平民なのだから金貨1枚で充分だと言い、サナへ侯爵も自分で金貨1枚を払うと言いました。
側近は日当の支払いは必要ないと言い、トゥーリス君は激怒していました」
気の毒なトゥーリス君を思い出し、俺はつい溜息を吐いてしまう。
「そして斬られたアコル君が席を離れている間に、彼の契約妖精エクレアちゃんが現れ、ある衝撃の事実を我々の前で語りました。
トーマス王子もサナへ侯爵も、王都を出る時レイム公爵から、アコルが先のレイム公爵の孫であり、次期レイム公爵候補だと聞いていたのに、金貨1枚なのかと……その場に居た妖精たちを従えて問い質したのです」
「レイム公爵の孫・・・」と、意外にも父上は小さな声で呟き、怒りからなのかどうか分からないが、両手を強く握り締めプルプルと震わせる。
「はい父上、【王立高学院特別部隊】を率い、Sランク冒険者であり、大商団主であるアコル君は、間違いなくレイム公爵家の直系でした。
しかし、まだレイム公爵様は、そのことをアコル君に告げていません。
この冬期休暇中に屋敷に呼ばれる予定だったそうで、その場に居た学生には箝口令が敷かれました」
その後俺は、モカの町で起こった様々なことを包み隠さず父に報告し、レイム公爵領の貴族として、サナへ侯爵とトーマス王子の態度が許せないと、自分の想いをぶちまけた。
サナへ侯爵はレイム公爵派であると思っていたけど、それは現レイム公爵が王の弟だからであり、レイム公爵家を重要視されていた訳ではなかったと、今回思い知ることになってショックだったことも伝えた。
「レイム公爵領の貴族は、トーマス王子を次期国王に推し、男子の生まれていないレイム公爵家の後継に、レイム公爵家の血筋であるルフナ王子をと考える者が多いと聞いています。
しかし私は、ルフナ王子こそが次期国王に相応しいと思うようになりました。
アコル君がレイム公爵家の後継となるなら、ルフナ王子をレイム公爵家の後継に据える必要がなくなります」
モカの町から帰る道中、アコルがレイム公爵家の領主になったらと想像し、これ以上の人材は見付けられないと思ったことも伝えた。
「それで、本来であればレイム公爵家の後継として、それなりの対応を受けるはずの自分が、不当な扱いを受け傷付けられたことに対し、アコル君……だったかな、彼はどう決着をつけたのだ?」
予想外にも父は、トーマス王子やサナへ侯爵の不当な対応に目を向けるのではなく、アコルがどう決着をつけたのかの方が気になったみたいだ。
「彼は自分が襲われると予想し、モカの町のために自分を犠牲にし斬られ、不正を働いていた副役場長と住民管理部長とサナへ侯爵の側近を捕らえさせました。
サナへ侯爵と我ら執行部が出した結論は、処刑や爵位剥奪と、治療に使ったポーション代金として金貨8枚、補償料として金貨2枚でした。
しかしアコル君は、平民であり被害者である自分の得になってないと一蹴しました。
処刑するなんて愚か者のすることだと言い切り、死ぬまで町のために労働させ、労働の対価として得るはずのお金を、自分とモカの町の損失に充てると言いました。
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