146 / 709
商人魔王
87ー1 モカの町(1)ー1
しおりを挟む
モカの町は人口8,000人で、町としたら大きくもなく小さくもなく、デミル領との境に位置する宿場町的な町であり、セイロン山の麓から続く野菜畑や薬草栽培、果樹園などの農業が有名で、薬種問屋の多くは、デミル領やマリード領との取引をしていた。
馬車の先行隊は、午前中にはモカの町に到着していたようで、医療チームと女子が町の中心である役場前に救護所の開設をして、貴族部や商学部の男子が被害状況の把握に奔走していたらしい。
魔法部と特務部の男子は、道を塞いでいた瓦礫を撤去したりして、なんとか馬車が往来できるよう尽力していたようだ。
把握できている被害状況は、セイロン山に近い西部の被害が大きく、ドラゴンの炎に焼かれた家は約100軒、火災やレッドウルフの襲撃で亡くなった人の数は、まだきちんと把握できていなかった。
町の中心部の被害は、逃げ込んだレッドウルフの変異種? を追ってきたドラゴンによる、高い建物の倒壊で死傷者が数十人出ていた。
レッドウルフの変異種らしきモノは、ドラゴンが倒し口にくわえてセイロン山に戻っていったそうだ。
幸運にも町の東部や北部はほぼ被害が無かったので、極度の物資不足は免れ、町に在った内科と外科の医院は無傷だった。
だが不運なこともあった。
モカの町の領主であるシラミド男爵は、24日から隣のデミル領に仕事で出掛けて留守をしており、未だに帰ってきていなかった。
その為、突然の災害に対応して指揮を執る者がおらず、シラミド男爵の夫人や屋敷の者では指示も出せず、モカの町は混乱していた。
「薬草がない?」
「ええアコル君、先に立ち寄ったデミル公爵や軍が、無理矢理奪うようにして買い取ったそうよ。
薬種問屋の多くの店主は、モカの町も被害が大きいから少ししか売れないと断ったんだけど、軍の高官に痛い目に遭わされたり、軍に逆らうのかと恐喝され逆らうことが出来なかったらしいわ」
執行部部長でもあるノエル様は、王立高学院特別部隊が設置した救護所の前で、到着したばかりの俺たち荷馬車組を迎えながら状況を説明してくれた。
「それで、急遽サナへ領の役人が領都まで薬草を買いに向かったんだが、裂傷や打撲に効く薬草が不足していてケガ人の手当が出来ていない」
救護所の責任者になっていたリーマス王子は、救護所に集まったケガ人を見ながら悔しさを滲ませ、無力な自分が情けないと言って唇を噛んだ。
「無いものは仕方ないですね。こういう事態を考えて、本来なら途中の町や領都で薬草を買うべきでした。
もしかして・・・いえ、まさか支援物資まで買っていないということはないですよね?」
「それが、モカの町はそれなりに大きいので、現地で買えばいい……と、サナへ侯爵と領都の役人が……いや、でも、我々王立高学院特別部隊は、前回の救済活動での経験を活かし、執行部が協議して腐らない干し肉とか毛布なんかは買ったぞ。
でも、王様から出た支援金は、先に領都へと戻られたサナへ侯爵様がお持ちだったので、兄上、いや、王立高学院特別部隊の責任者であるトーマス王子が出してくれた、金貨10枚(100万円)で買えるだけの物は買ったんだアコル」
俺が怖い顔をしていたせいか、ルフナ王子は言い訳するように支援物資は買うには買ったが、全く足りていなかったと言って下を向いた。
食料品は安いが、毛布や調理器具などは高額だ。金貨10枚ではどうしようもない。
時刻は午後6時半で、皆はシラミド男爵屋敷に向かったトーマス王子とサナへ侯爵の子息トゥーリス先輩の帰りを待っていた。
「全員集まってくれ! シラミド男爵の屋敷で受け入れて貰えた人数は30人だ。女子と医療チームは男爵屋敷に泊まる。
残りは街道に近い宿に15人分の部屋を取った。残りは悪いが馬車で泊まってくれ。
執行部は至急班分けをするように。明日は町の世話役や商店に頼んで泊まれるようにする」
戻ってきたトーマス王子はそう指示を出した。
これだけの人数が泊まれる場所を探すのは難しいだろうが、それは予想できたことだ。
またきっと、平民や下級貴族は馬車で寝るんだろうな。でもまあ、荷馬車よりはましだ。
学生の数は49人、医療チームが6人、御者や冒険者の数は20人くらい。
トーマス王子やサナへ侯爵は、男爵屋敷の客室に泊まるはずだし、同行してきた役人や御者は役場に泊まるらしい。
で、結局俺たち荷馬車組は、そのまま荷馬車でお泊りだ。
いや、女子3人を含む全員が荷馬車でいいと志願したんだけど。
何故かって、待機していた学生たちは、夕食の準備をしていなかったのだ。
今夜は自分の携帯食で済ませるようにとトーマス王子が言ったので、荷馬車組は俺と行動を共にすることを選んだ。
明らかに俺のマジックバッグの中の食料に期待している。
そして、荷馬車といえど、毛皮の敷物を完備しているので、凍えることもないと身をもって経験しているのだから、12人と御者2人も笑顔だ。
明日の朝8時に救護所の前に全員が集合し、其々の仕事を執行部が班分けをし実行していくことになった。
荷馬車組の学生全員が、俺の(モンブラン商会の)大型の荷馬車に乗り、いろいろ話しながら被害の大きかったセイロン山に近い西部で夕食をとることにした。
「きっと、見捨てられてる人たちが居るはず」
「そうねミレッテ、家を焼失した人は集会所や宿に居るはずだってルフナ王子やトゥーリス先輩は言ってたけど、確認した訳じゃなさそうだったし、全員が集会所に入れるとは思えないわ」
「そうだなスフレさん。俺たちはいろいろ経験したから、皆より現実を知っている。
杞憂であればいいが、きっと飢えて凍えている被災者は居る。そうだろうアコル? だから西に向かうんだろう?」
マジックバッグの中からパンを出し、皆に配っている俺に向かってボンテンク先輩が問う。
皆もパンを受け取りながら確認するように俺を見る。
「そうですね。とりあえずパンで小腹を満たし、到着したら直ぐに炊き出しできるよう準備に掛かりましょう。
俺とボンテンク先輩は野宿している人が居ないかどうか確認します。
もしも子供や女性が居たら、小型の荷馬車2台を譲り、俺たちはこの馬車で休みましょう」
荷馬車でゆっくり走ること20分。西に行くほど焼け焦げた匂いが鼻を突く。
馬車の先行隊は、午前中にはモカの町に到着していたようで、医療チームと女子が町の中心である役場前に救護所の開設をして、貴族部や商学部の男子が被害状況の把握に奔走していたらしい。
魔法部と特務部の男子は、道を塞いでいた瓦礫を撤去したりして、なんとか馬車が往来できるよう尽力していたようだ。
把握できている被害状況は、セイロン山に近い西部の被害が大きく、ドラゴンの炎に焼かれた家は約100軒、火災やレッドウルフの襲撃で亡くなった人の数は、まだきちんと把握できていなかった。
町の中心部の被害は、逃げ込んだレッドウルフの変異種? を追ってきたドラゴンによる、高い建物の倒壊で死傷者が数十人出ていた。
レッドウルフの変異種らしきモノは、ドラゴンが倒し口にくわえてセイロン山に戻っていったそうだ。
幸運にも町の東部や北部はほぼ被害が無かったので、極度の物資不足は免れ、町に在った内科と外科の医院は無傷だった。
だが不運なこともあった。
モカの町の領主であるシラミド男爵は、24日から隣のデミル領に仕事で出掛けて留守をしており、未だに帰ってきていなかった。
その為、突然の災害に対応して指揮を執る者がおらず、シラミド男爵の夫人や屋敷の者では指示も出せず、モカの町は混乱していた。
「薬草がない?」
「ええアコル君、先に立ち寄ったデミル公爵や軍が、無理矢理奪うようにして買い取ったそうよ。
薬種問屋の多くの店主は、モカの町も被害が大きいから少ししか売れないと断ったんだけど、軍の高官に痛い目に遭わされたり、軍に逆らうのかと恐喝され逆らうことが出来なかったらしいわ」
執行部部長でもあるノエル様は、王立高学院特別部隊が設置した救護所の前で、到着したばかりの俺たち荷馬車組を迎えながら状況を説明してくれた。
「それで、急遽サナへ領の役人が領都まで薬草を買いに向かったんだが、裂傷や打撲に効く薬草が不足していてケガ人の手当が出来ていない」
救護所の責任者になっていたリーマス王子は、救護所に集まったケガ人を見ながら悔しさを滲ませ、無力な自分が情けないと言って唇を噛んだ。
「無いものは仕方ないですね。こういう事態を考えて、本来なら途中の町や領都で薬草を買うべきでした。
もしかして・・・いえ、まさか支援物資まで買っていないということはないですよね?」
「それが、モカの町はそれなりに大きいので、現地で買えばいい……と、サナへ侯爵と領都の役人が……いや、でも、我々王立高学院特別部隊は、前回の救済活動での経験を活かし、執行部が協議して腐らない干し肉とか毛布なんかは買ったぞ。
でも、王様から出た支援金は、先に領都へと戻られたサナへ侯爵様がお持ちだったので、兄上、いや、王立高学院特別部隊の責任者であるトーマス王子が出してくれた、金貨10枚(100万円)で買えるだけの物は買ったんだアコル」
俺が怖い顔をしていたせいか、ルフナ王子は言い訳するように支援物資は買うには買ったが、全く足りていなかったと言って下を向いた。
食料品は安いが、毛布や調理器具などは高額だ。金貨10枚ではどうしようもない。
時刻は午後6時半で、皆はシラミド男爵屋敷に向かったトーマス王子とサナへ侯爵の子息トゥーリス先輩の帰りを待っていた。
「全員集まってくれ! シラミド男爵の屋敷で受け入れて貰えた人数は30人だ。女子と医療チームは男爵屋敷に泊まる。
残りは街道に近い宿に15人分の部屋を取った。残りは悪いが馬車で泊まってくれ。
執行部は至急班分けをするように。明日は町の世話役や商店に頼んで泊まれるようにする」
戻ってきたトーマス王子はそう指示を出した。
これだけの人数が泊まれる場所を探すのは難しいだろうが、それは予想できたことだ。
またきっと、平民や下級貴族は馬車で寝るんだろうな。でもまあ、荷馬車よりはましだ。
学生の数は49人、医療チームが6人、御者や冒険者の数は20人くらい。
トーマス王子やサナへ侯爵は、男爵屋敷の客室に泊まるはずだし、同行してきた役人や御者は役場に泊まるらしい。
で、結局俺たち荷馬車組は、そのまま荷馬車でお泊りだ。
いや、女子3人を含む全員が荷馬車でいいと志願したんだけど。
何故かって、待機していた学生たちは、夕食の準備をしていなかったのだ。
今夜は自分の携帯食で済ませるようにとトーマス王子が言ったので、荷馬車組は俺と行動を共にすることを選んだ。
明らかに俺のマジックバッグの中の食料に期待している。
そして、荷馬車といえど、毛皮の敷物を完備しているので、凍えることもないと身をもって経験しているのだから、12人と御者2人も笑顔だ。
明日の朝8時に救護所の前に全員が集合し、其々の仕事を執行部が班分けをし実行していくことになった。
荷馬車組の学生全員が、俺の(モンブラン商会の)大型の荷馬車に乗り、いろいろ話しながら被害の大きかったセイロン山に近い西部で夕食をとることにした。
「きっと、見捨てられてる人たちが居るはず」
「そうねミレッテ、家を焼失した人は集会所や宿に居るはずだってルフナ王子やトゥーリス先輩は言ってたけど、確認した訳じゃなさそうだったし、全員が集会所に入れるとは思えないわ」
「そうだなスフレさん。俺たちはいろいろ経験したから、皆より現実を知っている。
杞憂であればいいが、きっと飢えて凍えている被災者は居る。そうだろうアコル? だから西に向かうんだろう?」
マジックバッグの中からパンを出し、皆に配っている俺に向かってボンテンク先輩が問う。
皆もパンを受け取りながら確認するように俺を見る。
「そうですね。とりあえずパンで小腹を満たし、到着したら直ぐに炊き出しできるよう準備に掛かりましょう。
俺とボンテンク先輩は野宿している人が居ないかどうか確認します。
もしも子供や女性が居たら、小型の荷馬車2台を譲り、俺たちはこの馬車で休みましょう」
荷馬車でゆっくり走ること20分。西に行くほど焼け焦げた匂いが鼻を突く。
4
お気に入りに追加
319
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる