上 下
144 / 709
魔王の改革

86ー1 ココア村の被災者たちー1

しおりを挟む
 出発前に村長の家に行くと、一昨日ココア村から逃げてきた住民と、被災者を寝泊まりさせている善意の住民たちが、食料を援助して欲しいと集まっていた。

 どこの町や村でも、この時期は冬籠りの準備を終え、新年を祝うために出稼ぎに行っていた家族が帰ってくる。
 冬期休暇のために帰ってくる家族の分の食料はあるが、突然やって来た避難民の食料まで蓄えている家なんかない。

 下手をすると共倒れになってしまう。
 特に、雪が降れば狩りをすることもできず、肉は町まで行かないと手に入らない。

 手に入っても干し肉だ。野菜は土や雪に埋めて保存しているものの、余裕なんて有りはしない。助けたいけど自分たちも食べなければならないのだ。

「本当にすまない。俺たちは、ドラゴンに家を焼かれて、家から持ち出せたのは僅かな金と食料と衣類だけなんだ。
 金は食料を分けて貰うために、ここに到着するまでに無くなってしまった。

 分かってる。この村にだって余裕はないって・・・だけど、火を噴くドラゴンに襲われ、親を亡くした子供や、なんとか生き残った女性の分だけでも、何か分けては貰えないだろうか・・・」

ココア村から逃げてきた住民の代表者と思われる30代の男性が、地面に膝をついて頭を下げてお願いしている。

 後ろで申し訳なさそうに立っているココア村の人々は、疲れ果てた顔をして泣きながら一緒に頭を下げている。
 子供や女性の中には、防寒着を着ておらず震えている者も居た。

「スフレさん、チェルシーさん、ミレッテさん、炊き出しの準備をお願いします。この方たちは、我々【王立高学院特別部隊】が救援に向かう予定地の被災者の方々です」

 炊き出しという言葉を聞いて、その場にいた半数が俺たちの方を振り返った。
 俺たちには、この窮状を放って旅立つことなんて出来なかった。

 目的地はモカの町だが、サナへ侯爵がココア村とは連絡が取れなかったと言っていた。
 だから、目の前でお腹を空かせて凍えている人々は、救済すべき人たちなのだ。

「村長さん、我々はサナへ侯爵と王様から依頼を受け、モカの町とココア村に救済活動に向かう【王立高学院特別部隊】です。
 本隊は、サナへ侯爵様や第三王子トーマス様と一緒に、馬車でモカの町に向かっています。

 我々は荷馬車で向かう別動隊です。僅かではありますが、肉の提供は出来ます。
 それと、今からココア村の皆さんに炊き出しを行いたいと思います」

 俺の話を聞いたココア村の人々の顔が喜色に変わり、子供たちから「肉だー!」と歓声が上がった。

 何度か予行演習をしてきたので、メンバーは素早くカマドを作り始め、俺は50人分と思われる量の野菜と肉を用意すると言って荷馬車に戻った。
 こんな場所でマジックバッグを使うことは出来ない。救済品は多くないし、目的地にはまだ到着していないのだ。

 土魔法が使えないゲイルとダンを連れ小型の荷馬車に乗りこみ、必要量をマジックバッグから取り出し、元々積んであったかのように演出する。

 肉はミルクナの町で仕留め解体してあるスノーウルフを2頭分だけ出す。
 それと、ミルクナの町の住民の皆さんから頂いた古着や、毛皮の切れ端(平民は切れ端を縫い合わせて使う)も取り出す。

 調理道具は村長さんの家から借りたり、商業ギルドに仕入れてもらった物も少しだけ出した。
 女性陣が頑張って炊き出しの準備を始めたので、俺や男子学生は他の救済活動をする。

 この村には古くなった空き家が2軒あり、ココア村の被災者たちの大半は、隙間風が吹き込むその2軒で、肩を寄せ合いながら生き延びていた。
 その2軒に、古着や毛皮の切れ端を置き、代表者から必要な人に分けてもらう。

 親戚の家にお世話になっている被災者も10人くらい居たけど、その人たちは肩身が狭くても何とかなるだろう。

 最低限生きるのに必要な物さえ揃わないけど、責任をもって救済するのはサナへ侯爵の仕事だ。
 俺たちは急場を凌げる救済をするしかない。

「それじゃあマサルーノ先輩、せっかくレーズンくんが契約してくれたんですから、頑張って土魔法で隙間を塞いでください。
 他のメンバーは薪を集めてください。俺はケガ人の手当をします」

 そうこうしているうちに、ココア村の女性たちも炊き出しを手伝い、肉入りのスープが出来上がった。
 食器も10セットくらいしか救済品として出せないので、子供や女性から順に食べていく。

 その間に男性陣は、マサルーノ先輩たちと借りた家の穴や隙間を補修する。
 被災者だって、ケガ人じゃない限り働いてもらわなくてはならない。全て自分たちの為なのだから。

 俺は村の集会所……のような建物で、ケガ人の手当を始めた。
 ケガの多くは火傷や打撲で、幸運にも重傷者は居なかった。

 俺はココア村の代表者の男性の、打撲で腫れた患部に湿布を当てながら、ドラゴンや魔獣に襲われた様子をゆっくりと聴きだしていく。
 ぽつぽつと話し始めたココア村の代表者は、重傷者を連れて逃げることができず、見捨ててしまったのだと泣きながら話し始めた。

 最初の異変は、村にレッドウルフの群がなだれ込んできたことだった。

 その目的は住民を食べることではなく、何かから逃げているようで、あっという間に村を通り過ぎていった。
 ああ良かったと安堵したのもつかの間、次に現れたのが凶暴な人食い熊で、群れではなかったが3頭が住民を襲い始めた。

 皆が逃げまどっていると、今度はセイロン山から金色のドラゴンが飛来してきて、口から炎を吹き出し、次々と家を焼いていった。

 ドラゴンは人食い熊を追っていたようで、火を噴きながら3頭を仕留めると、今度はレッドウルフを追いかけるようにして、モカの町の方へ飛んでいった。

 ココア村の住民たちは、ドラゴンの炎や人食い熊に襲われ、村の家が殆ど燃えたので、生き残ったのは150人足らずだった。

 再びドラゴンや魔獣に襲われては全滅してしまうと判断し、残りたいと希望した者と、重傷者やお年寄りを村外れの焼けなかった家に移し、置いて逃げるしかなかったのだと懺悔し自分を責めながら話してくれた。

 その中には、ココア村の村長である父親も含まれていた。

 ……金色のドラゴン・・・間違いなく変異種だろう。空から火を吹くとは、なんて凶悪なんだろう。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

~まるまる 町ごと ほのぼの 異世界生活~

クラゲ散歩
ファンタジー
よく 1人か2人で 異世界に召喚や転生者とか 本やゲームにあるけど、実際どうなのよ・・・ それに 町ごとってあり? みんな仲良く 町ごと クリーン国に転移してきた話。 夢の中 白猫?の人物も出てきます。 。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

処理中です...