上 下
137 / 709
魔王の改革

82ー2 サナヘ領へ(3)ー2

しおりを挟む
「恐るべしSランク冒険者・・・確かにSランク冒険者なら金持ちだよな。いや、でもギルマスは、アコルは自分でギルド会員として商売してるとも言ってたな」

変なところで納得した感じのゲイルは、今度はどんな商売をしてるんだって話題を変えてきた。

 そこから俺は、始めた商売は主に薬を扱う商売だけど、薬草や花の栽培をして王宮の花壇の管理をしていることや、冒険者として討伐した獲物の素材を商業ギルドにも卸していることなんかを教えた。

 年末で慌ただしい王都の中級地区を抜けると、下級地区はもっと賑やかだった。

 先発隊が待っている予定の下級地区の外門前の広場に到着すると、学生の食料調達をしてくれていたトーマス王子から、全員分の食料を一度に調達するのは難しいからと、学生一人につき小銀貨1枚(千円)が配られた。

 そして、各馬車毎に食事をして、宿泊予定の町まで団体行動ではなく、馬車毎で行動するよう指示が出された。

 どうやらトーマス王子も、計画にいろいろ無理があるって気付いたようだ。
 年末年始は物価も高くなるし治安も悪くなる。貴族の団体がウロウロするのは危険だし、馬車の速度が違うから全員が同じように動ける訳ではない。

 まあ、何事も勉強だよな。
 俺には叱ってくれる冒険者の先輩や、商会の先輩や上司もいる。
 失敗だってたくさんした。だから今がある。
 
 ……トーマス王子のためにも、今回は出来るだけ手出しはやめよう。

 平民や下級貴族の多くは、俺と同じように宿だって泊まれそうにないとか、食事もまともに食べられそうにないと分かっていたと思うけど、王子や高位貴族が多い執行部には意見できなかったんだろうな。

 馬車組の皆さんは、急いで次の宿泊地まで行って夕食を食べるらしいけど、荷馬車組は王都で買っておかないと、次の町に到着する時間には店は閉まっている可能性が高い。

 だから、急いで出発したそうな執行部のマサルーノ先輩とボンテンク先輩を説得して、駆け足で買い物を始めた。
 うちの荷馬車の仲間も、夕食や保存食を買い込むことにした。


 午後6時、辺りはすっかり暗くなってきたけど、王都ダージリンから次の町までは道路も整備され、所々に街灯もあるからなんとか馬を走らせて、午後9時前にようやく町に辿り着いた。

「すまない、宿がいっぱいで荷馬車組の部屋が取れなかった。集会所には護衛の冒険者や御者が泊まることになったので満員だ。女子3人はなんとか泊まれるが、どうするアコル?」

町の入り口で待っていたトゥーリス先輩(サナへ侯爵の三男)が、すまなそうな顔をして訊いてきた。
 隣にはサナへ侯爵家の護衛兼御者の人が一緒に居る。

 ……どうするアコルって訊かれてもなあ・・・

「分かりました。荷馬車組の男子学生は、全員俺の荷馬車で休みます。
 護衛も要りません。小型の荷馬車は御者の方に任せます」

 予想通りではあったが、これって平等じゃないよね。でも貴族社会では普通なのかもしれない。

 俺はいろいろ諦めて、女性3人を荷馬車から降ろし、トゥーリス先輩に宿まで連れて行ってもらうよう頼んだ。
 さすがに女学生とは雑魚寝するわけにはいかない。

「俺、野営って初めてだ」と、数人が疲れた顔をして不安気に呟く。

「俺もな。荷馬車の旅って予想以上に疲れた・・・」と、伯爵家の子息であるボンテンク先輩が思わず弱音を吐いた。

 町の中での野営だから、盗賊に襲われることも、魔獣に襲われることもない。
 だから、明日に備えて早めに寝ると決め、水の補給とトイレのため集会所の前に荷馬車を移動させた。

 荷馬車の中で寝るって寒くて風邪を引きそうだとか、お腹が空いて眠れないとか文句を言うので、俺は皆のために楽しい賞品付きのゲームをすることにした。

「これから俺の出す問題に、正解すると美味しいパンが1個ずつ出てくる。
 そして、俺の考えているサナへ領の住民救済計画に、協力してくれると約束した者には、敷布団替わりの毛皮を貸し与えるものとする。

 そして、明日は馬車組とは別の進路を選び、サナへ領への近道を行こうと思うが、一緒に行って御者を交替で努めてくれる者には・・・毎朝温かいスープと夕食はバーベキューをご馳走する。

 参加するかどうかは、問題に答えてパンを食べながら考えてくれ」

俺は疲れた顔の戦友たちに向かって、娯楽と安眠グッズの貸し出しの案内をした。

 荷馬車用の鉱石ランプを消して、マキアート教授の研究室からちゃっかり借りてきた魔石を使ったランプ2つに火をつけた。魔石を使ったランプは暖かい。

 そして、疑るような視線を向けている皆のために、マジックバッグから今日買ったパンを数個取り出し、ついでにボアウルフのふかふかした毛皮も取り出して、にっこりと微笑んで見せた。

「それは王都で売ってる高級パン!」と、ボンテンク先輩の目の色が変わる。

「それ、もしかしてボアウルフ? ええっ?」と、ゲイルは驚いたように毛皮を見る。

「アコルって、マジックバッグ持ってるんだ」と、ドーブ先輩は羨ましそうにマジックバッグを見る。

「腹減った。アコル、早く問題を出してくれ」と、マサルーノ先輩は平常運転だ。

 急に元気になった9人の男たちは、魔石ランプに手をかざして暖をとりながら、明るく照らされているパンと毛皮に目を釘付けにして、早く問題を出せと要求してきた。

「今から問題を10問出します。9回正解すれば全員がパンを食べられます。
 よく考えてから答えてください。正解は話し合ってもかまいません。

 それでは最初の問題です。これから向かうセイロン山に生息していると言われているドラゴンを3つ以上答えなさい」

「アースドラゴン、ロックドラゴン、飛竜!」

ボンテンク先輩が叫ぶように答えた。

 日頃はわりと無口だけど、マキアート教授の研究室の中でも食欲が群を抜いているボンテンク先輩は、俺がたまにミニキッチンでスープを作り始めると、いつも泣きそうな顔をして飛んできて、そっとカップと銅貨2枚(200円)を差し出してくる。

 それから正解、不正解もありながら、いよいよ最後の質問になった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

~まるまる 町ごと ほのぼの 異世界生活~

クラゲ散歩
ファンタジー
よく 1人か2人で 異世界に召喚や転生者とか 本やゲームにあるけど、実際どうなのよ・・・ それに 町ごとってあり? みんな仲良く 町ごと クリーン国に転移してきた話。 夢の中 白猫?の人物も出てきます。 。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...