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魔王の改革
81ー2 サナヘ領へ(2)ー2
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とりあえず、此処に来る前に商業ギルドで頼んだことを説明した。
「本当は、モンブラン商会のサナへ支店に協力して欲しかったんですけど、到着したころには冬季休暇で支店は閉まってますよね。
さすがに俺も新年まで働いて欲しいとは言えません。
俺は王立高学院特別部隊の学生として医療活動をする傍ら、モンブラン商会本店の出張販売店を開店したいと思います。
恐らく、ほぼ間違いなく、国は支援物資を用意していません。
駆け付けたところで、できることは限られてしまいます。
そこで、無料で配布する救援物資ではなく、有料で食料を提供したり、必要な物を販売したいと考えています。
資金は、商業ギルドにマジックバッグを売って金貨250枚用意しました。
ここらで、領主や王族の無能ぶりを、実感して頂こうかと・・・
魔獣の大氾濫が本格的に始まれば、無償で提供できる物資なんて集めることは不可能です。
だから、生きる為に必要な最低限の物を販売します。
それでも人々は、きっと有難いと思うことでしょう。有料でもいいから食べたい眠りたい、凍え死にたくないと祈ると思います。
下手な商店や商団が被災地で店を出したら、権力者に搾取されるか飢えた住民に奪われるか、生きていられるかどうかも疑問です。
ですが、いくら領主でも、この国でトップを争う大商会であるモンブラン商会から、搾取することなんて出来ないでしょう。
モンブラン商会の看板は伊達じゃない!
王子や大臣の名前は知らなくても、大商会の名前を知らない貴族は居ないし、ガラス窓を取り付けた平民なら、モンブラン商会の名前を知っています。
今回は、俺にモンブラン商会の看板を背負わせていただきたいと思います。
モンブラン商会は被災地に逸早く駆けつけ、住む家を無くした住民に炊き出しを行い、必要な生活用品を市価の7割から半額で販売します。
モンブラン商会は、王都の商業ギルド本部と協力して活動します」
俺は勢いよく話して、会頭にモンブラン商会の看板を預けて欲しいとお願いした。
きっとこんなことは前代未聞だろう。
会頭も副会頭も、マルク人事部長もセージ部長も、何を言われたのか分からないという顔をして、じ~っと俺の顔を見ながら頭の中を整理している。
「商業ギルド本部を巻き込んだのか・・・確かにあのマジックバッグを出されたら、買わないという選択肢はないだろうな」
「そうですね会頭。王都だって安全じゃない。商業ギルドの倉庫には高級な商品が保管してある。倉庫内の商品の価値を考えたら絶対に買うでしょう」
副会頭も納得したように頷いた。
でも、被災者のために個人のお金をポンと金貨250枚出した俺の行動力と思考に驚き、スケールが大き過ぎてついていけないと唸った。
「こんな時だけど、うちの商会にも大きなマジックバッグが欲しいんだが」って、俺の頼みを聞く代わりに会頭から残っているマジックバッグを売るよう頼まれてしまった。
「あと、出張販売店として使用する幌付きの荷馬車を一台と、陳列棚、袋、かご、前回の救済活動で使った調理道具を貸してください。
それとは別に、燃料鉱石を出せる分だけ定価で売ってください。
今回定価で買った薬や燃料などは、サナへ侯爵に買い取っていただく所存です。勿論、輸送料分は上乗せして売らせていただきます」
俺はにっこりと笑って、定価で買って商会や傘下の店を儲けさせ、困った領主を助けるために恩を売ることにしましたと付け加えて、セージ部長に感心され、マルク部長にはドン引きされた。
今回は、俺個人で考えたら大損だ。
炊き出し用の食材は完全に俺の負担になるし、有料の料理だって儲ける訳にはいかない。料理を作ってくれる人にも給金を払わなくちゃいけない。
用意した品物が売れるかどうかも分からない。被害状況がはっきりしないから、少ないのか多いのかも分からない。
……まあいいや、俺のマジックバッグの中で眠らせるのは何の問題もない。
時間も無いので、必要な物をマジックバッグに収納し、モンブラン商会の簡易看板を即席で作ってもらい、荷馬車の前に設置した。
いつものメンバープラス商会員の皆さんに見送られ、俺は高学院へと2頭だての荷馬車を走らせる。
途中、パンを買いに寄る。中級地区のパン屋は高いけど、売れ残りを買い占めさせていただいた。
こんな時でも旅の楽しみは必要だと思う。美味しいは活力になる。
午後1時、荷馬車に乗って高学院に戻った俺は、出発の準備がどれだけできているのかを確認する。
今回の責任者は俺じゃないし、執行部が仕切っている訳でもない。
だから口を出さないと決めた。
ただ、もしも野営をするようなことになった最悪の場合を考えて、参加する学生は自分の毛布だけは持っていくように進言した。
貴族家の子供が泊まりで出掛ける場合、信じられないくらい荷物が多い。できるだけ最小限にしてもカバン二つは必要らしい。
小さなカバンの方は手に持つか、高位貴族家の学生にはマジックバッグに収納してもらう。
大きなカバンや余分な毛布等は、トーマス王子のマジックバッグに全て収納してもらう。
なんやかんや言っても、トーマス王子の(実際は学院長に貸した)マジックバッグは、学院長の執務室くらいの収納量があるから余裕だ。
で、馬車はどうなったのかと言うと、自分の家の馬車が出せる者(高位貴族)は出して貰い、その馬車にできるだけ相乗りし、他の学生は警備隊の馬車や、王宮の役人用の馬車に乗る。
馬車に乗れなかった平民や下級貴族の学生は、2台の小型の荷馬車に分かれて乗ることになったらしい。
それでも4人が乗れなかったようで、辻馬車を乗り継いで行くことになっていたけど、俺が荷馬車を持ってきたので、モンブラン商会の荷馬車に乗せることになった。
そして食料は、王都の下級地区で出来上がっている食料をトーマス王子が購入するようだ。
《人数分用意できたらいいね》
調理する人が居ないので、旅の間は立ち寄った町や村で食べたり購入したりするらしい。
《ふ~ん・・・》
医師や薬師は高学院の医療チームから数人、王宮から看護師が二人、強制参加させられるそうだ。
《これは仕方ないよな》
宿は、馬車で移動する学生が先行して部屋を確保する。荷馬車で向かう学生は、遅れて夜に到着し宿に泊まる予定らしい。
《泊まるところがあったらいいなぁ》
馬車と荷馬車では、走る速度が全く違う。
それでも今日あたりから、冬期休暇で故郷に帰る人が辻馬車を使うので、街道は混雑しているだろうから、それほど早くも走れないと思われる。
結局出発は、医療チームの準備や王宮から参加する看護師が揃う午後3時になった。
「本当は、モンブラン商会のサナへ支店に協力して欲しかったんですけど、到着したころには冬季休暇で支店は閉まってますよね。
さすがに俺も新年まで働いて欲しいとは言えません。
俺は王立高学院特別部隊の学生として医療活動をする傍ら、モンブラン商会本店の出張販売店を開店したいと思います。
恐らく、ほぼ間違いなく、国は支援物資を用意していません。
駆け付けたところで、できることは限られてしまいます。
そこで、無料で配布する救援物資ではなく、有料で食料を提供したり、必要な物を販売したいと考えています。
資金は、商業ギルドにマジックバッグを売って金貨250枚用意しました。
ここらで、領主や王族の無能ぶりを、実感して頂こうかと・・・
魔獣の大氾濫が本格的に始まれば、無償で提供できる物資なんて集めることは不可能です。
だから、生きる為に必要な最低限の物を販売します。
それでも人々は、きっと有難いと思うことでしょう。有料でもいいから食べたい眠りたい、凍え死にたくないと祈ると思います。
下手な商店や商団が被災地で店を出したら、権力者に搾取されるか飢えた住民に奪われるか、生きていられるかどうかも疑問です。
ですが、いくら領主でも、この国でトップを争う大商会であるモンブラン商会から、搾取することなんて出来ないでしょう。
モンブラン商会の看板は伊達じゃない!
王子や大臣の名前は知らなくても、大商会の名前を知らない貴族は居ないし、ガラス窓を取り付けた平民なら、モンブラン商会の名前を知っています。
今回は、俺にモンブラン商会の看板を背負わせていただきたいと思います。
モンブラン商会は被災地に逸早く駆けつけ、住む家を無くした住民に炊き出しを行い、必要な生活用品を市価の7割から半額で販売します。
モンブラン商会は、王都の商業ギルド本部と協力して活動します」
俺は勢いよく話して、会頭にモンブラン商会の看板を預けて欲しいとお願いした。
きっとこんなことは前代未聞だろう。
会頭も副会頭も、マルク人事部長もセージ部長も、何を言われたのか分からないという顔をして、じ~っと俺の顔を見ながら頭の中を整理している。
「商業ギルド本部を巻き込んだのか・・・確かにあのマジックバッグを出されたら、買わないという選択肢はないだろうな」
「そうですね会頭。王都だって安全じゃない。商業ギルドの倉庫には高級な商品が保管してある。倉庫内の商品の価値を考えたら絶対に買うでしょう」
副会頭も納得したように頷いた。
でも、被災者のために個人のお金をポンと金貨250枚出した俺の行動力と思考に驚き、スケールが大き過ぎてついていけないと唸った。
「こんな時だけど、うちの商会にも大きなマジックバッグが欲しいんだが」って、俺の頼みを聞く代わりに会頭から残っているマジックバッグを売るよう頼まれてしまった。
「あと、出張販売店として使用する幌付きの荷馬車を一台と、陳列棚、袋、かご、前回の救済活動で使った調理道具を貸してください。
それとは別に、燃料鉱石を出せる分だけ定価で売ってください。
今回定価で買った薬や燃料などは、サナへ侯爵に買い取っていただく所存です。勿論、輸送料分は上乗せして売らせていただきます」
俺はにっこりと笑って、定価で買って商会や傘下の店を儲けさせ、困った領主を助けるために恩を売ることにしましたと付け加えて、セージ部長に感心され、マルク部長にはドン引きされた。
今回は、俺個人で考えたら大損だ。
炊き出し用の食材は完全に俺の負担になるし、有料の料理だって儲ける訳にはいかない。料理を作ってくれる人にも給金を払わなくちゃいけない。
用意した品物が売れるかどうかも分からない。被害状況がはっきりしないから、少ないのか多いのかも分からない。
……まあいいや、俺のマジックバッグの中で眠らせるのは何の問題もない。
時間も無いので、必要な物をマジックバッグに収納し、モンブラン商会の簡易看板を即席で作ってもらい、荷馬車の前に設置した。
いつものメンバープラス商会員の皆さんに見送られ、俺は高学院へと2頭だての荷馬車を走らせる。
途中、パンを買いに寄る。中級地区のパン屋は高いけど、売れ残りを買い占めさせていただいた。
こんな時でも旅の楽しみは必要だと思う。美味しいは活力になる。
午後1時、荷馬車に乗って高学院に戻った俺は、出発の準備がどれだけできているのかを確認する。
今回の責任者は俺じゃないし、執行部が仕切っている訳でもない。
だから口を出さないと決めた。
ただ、もしも野営をするようなことになった最悪の場合を考えて、参加する学生は自分の毛布だけは持っていくように進言した。
貴族家の子供が泊まりで出掛ける場合、信じられないくらい荷物が多い。できるだけ最小限にしてもカバン二つは必要らしい。
小さなカバンの方は手に持つか、高位貴族家の学生にはマジックバッグに収納してもらう。
大きなカバンや余分な毛布等は、トーマス王子のマジックバッグに全て収納してもらう。
なんやかんや言っても、トーマス王子の(実際は学院長に貸した)マジックバッグは、学院長の執務室くらいの収納量があるから余裕だ。
で、馬車はどうなったのかと言うと、自分の家の馬車が出せる者(高位貴族)は出して貰い、その馬車にできるだけ相乗りし、他の学生は警備隊の馬車や、王宮の役人用の馬車に乗る。
馬車に乗れなかった平民や下級貴族の学生は、2台の小型の荷馬車に分かれて乗ることになったらしい。
それでも4人が乗れなかったようで、辻馬車を乗り継いで行くことになっていたけど、俺が荷馬車を持ってきたので、モンブラン商会の荷馬車に乗せることになった。
そして食料は、王都の下級地区で出来上がっている食料をトーマス王子が購入するようだ。
《人数分用意できたらいいね》
調理する人が居ないので、旅の間は立ち寄った町や村で食べたり購入したりするらしい。
《ふ~ん・・・》
医師や薬師は高学院の医療チームから数人、王宮から看護師が二人、強制参加させられるそうだ。
《これは仕方ないよな》
宿は、馬車で移動する学生が先行して部屋を確保する。荷馬車で向かう学生は、遅れて夜に到着し宿に泊まる予定らしい。
《泊まるところがあったらいいなぁ》
馬車と荷馬車では、走る速度が全く違う。
それでも今日あたりから、冬期休暇で故郷に帰る人が辻馬車を使うので、街道は混雑しているだろうから、それほど早くも走れないと思われる。
結局出発は、医療チームの準備や王宮から参加する看護師が揃う午後3時になった。
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