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魔王の改革

79ー1 魔獣襲来と敵の正体ー1

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 その知らせは、午後から冬期休暇だ!と浮かれながら体育館に向かっている学生たちの目の前で、学院長に届けられた。

「ご報告します!
 冒険者ギルド本部より緊急連絡があり、セイロン山からデミル領とサナへ領に向かって、ドラゴン、レッドウルフ、その他数種類の上位魔獣が山を下り、近隣の町や村を襲撃したと報告がありました。

【王立高学院特別部隊】は、住民救済活動に向かうよう王様から救援要請が出されました」

息を切らしながら学院長に火急の知らせを届けてきたのは王宮警備隊の副隊長で、連絡文にはトーマス王子に指揮を執って欲しいと書いてあった。

「軍や魔法省はどう動く予定なのだ? 指揮は誰が執っている?」

「はい学院長。魔獣の大氾濫を指揮するのは国務大臣のワイコリーム公爵ですが、今回は二つの領が襲撃されたので、サナへ領をサナへ侯爵とトーマス王子が、デミル領はデミル公爵と軍務副大臣のシーブル様が指揮を執られることになりました」

「私に救援要請を出したのは誰だ?」

学院長と一緒にいたトーマス王子は、難しい顔をして警備隊副隊長に質問した。

「私は直接聞いたわけではありませんが、軍務副大臣である王弟シーブル様が、トーマス王子が適任だと王様に進言されたようです」

「シーブルが?」と学院長は首を捻り、「なるほど」とトーマス王子は頷いた。

 当然、学生も教師たちも軽くパニックに陥って、王様からの救援要請に戸惑っている。
 救援要請とは建て前であり、王宮から知らせが来た時点で、それはほぼ命令と同じ意味であると、貴族である者は知っていた。



 混乱する現場を収めるため、学院長は予定通り全員を体育館に移動させた。

 現時点で【王立高学院特別部隊】に入っているのは、執行部が全員と魔法部でB級以上の作業魔術師を取得している者、特務部でCBランク以上の冒険者と、それ以外に是非にと希望した学生、そして、アコルの【妖精学講座】を受講している学生の合計48人だった。

「何も迷うことはありません。
 冬期休暇の予定は変更せざるを得ませんが、これは経験を積むチャンスです。

 確かに今の我々では、魔獣の変異種を倒したりドラゴンと戦うことは出来ません。
 しかし、これから先は何処の領が襲われてもおかしくない。

 明日には王都が襲われるかも知れない。誰だって怖いのは同じです。
 もしも一人で実家に帰省している時に魔獣に襲われる恐怖を考えたら、仲間と共に行動している方が心強いでしょう? 

 共に戦いながら強くなるしか、生き残る道はないんです。
 どうせ逃げられない運命なら、勇気を出して立ち向かう方がいい。

 ブルブル震えて建物の中に避難していても、生き延びることができるとは思えない。
 多くの魔獣は建物の中にも入ってくるし、強固な地下室でもない限り、危険なことに変わりありません」

不安に怯える学生たちの前に立ち、アコルはよく通る声で現実を突きつける。
 でも、仲間が居れば、皆で戦えば怖くないだろうと希望も与える。

「そうだな。これを実践訓練だと考えればいい。
 我々以外に住民の救済活動ができる経験者は居ない。サナへ領が故郷の者は、同郷の住民の希望となる働きをすればいい。

 次はマギ領かもしれないし、サーシム領かもしれない。自分の故郷が襲われた時は、また皆が助けてくれる。
 だから、我々の救済活動は、自分の故郷のためでもあると考えて欲しい」

トーマス王子はアコルの隣に立ち、力強い声でハッキリと、救援要請を受け入れサナへ領へ行くことを宣言する。

「そうだ! 我々は魔獣討伐に行くわけではない。それでも魔獣が襲ってきたら、アコルを先頭に、戦える者が戦えばいい。これまでの訓練の成果を見せればいいのだ。腕がなるな」

マギ公爵家のエイト君が、腕を捲りながら戦う気満々という姿勢をみせる。

「ああそうだ! こんなチャンスを逃すわけにはいかないな」

ワイコリーム公爵家のラリエス君も、腕を腰に当てやる気をみせる。

「もしかしたら、これは妖精と契約できるチャンスではなくて?」

「ええ、そうですわエリザーテ。それに、たくさんの学生と旅をするなんて初めてですし、この機会に恋人を見付けるのも素敵ですわね」

いつものようにノエル様とエリザーテさんの小芝居が始まる。
 二人が楽しそうに微笑んでいるので、恐怖に震えていた学生たちは、「あら、なんだか楽しそうだわ」なんて思い始めてしまう。

「そうだな。私も今回こそ救済活動で妖精に認めてもらって、何が何でも妖精と契約するぞ! そして憧れの伝承魔法陣を使って戦えるようにする」

救済活動の責任者として指名されたトーマス王子(23歳)は、王族として次期国王候補として、強気な姿勢を見せなければならない場面で、堂々とその役割を果たそうと意気込みをみせる。

「トーマス王子、私も、サナへ侯爵家の人間として恥じぬよう、必ずや妖精と契約し、我がサナへ領の領民たちを守ります。
 みんな、すまない! 今回はサナへ領の住民を助けてくれ! 次は必ず何処の領でも助けに行くと誓う」

執行部のメンバーでもあるサナへ侯爵家の三男トゥーリス先輩が、皆の前で頭を下げた。

 領主の子息がこうして頭を下げることなど、本来ならあり得ないが、その気持ちは皆にも理解できた。
 レブラクトの町に救済活動に行ったからこそ、それが自分の故郷の光景になったらと想像できるのだ。明日は我が身……学生たちはやっとそれを実感した。

 学院長は【王立高学院特別部隊】に出動命令を出し、部隊に入っていない者には、冬期休暇に入っても良しと告げて解散させた。

 意外だったのは、マリード領に帰る学生の一部が、帰り道でもあるので一緒に救済活動をすると願い出たり、あまり役には立ちそうもないけど、美女エリザーテさんにいい格好をしたい貴族部の学生数名も自ら志願したことだ。

 元々旅立つ準備は全員整っていたので、サナへ領へ行くことになった学生たちは、午後から出発することを伝えるため、王都に住まいのある者は説明しに家に戻ったり、親に事情を説明する手紙を書いたりする。

 親に説明したら救援活動を反対されそうな学生たちは、わざと家には戻らず手紙で知らせると決めたようで、特に高位貴族家の女子学生は、真剣な表情で手紙を書いていた。
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