キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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高学院 1年生

65ー2 疑惑と可能性(2)ー2

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 アコルが平民であれば、王族に不平を漏らす不届きな犯罪人扱いされ、処罰されても当然だと思われるだろう。

「ですが、もうひとつの可能性もあります」

「もうひとつの可能性ですか学院長叔父上?」

「ああ、アコルには不思議と人を惹き付ける魅力がある。
 天才的な頭脳、人を思いやる優しさ、ブラックカードを持たされるほどの強さ、つい引き込まれる話術、何よりもその存在自体が目を引くのだ。

 アコルの周囲に居るのは、冒険者ギルドのギルマスに商業ギルドのギルマス、モンブラン商会の会頭、そして私たちだ。単純に考えても可笑しいだろう?

 たった13歳の平民の子供なのに、大人と、いや、王都を代表する名だたる者から信用を得て、対等に渡り合っているんだ」

「そうですね。救済活動をリードしていたアコルは、既に学生からリーダーとして一目置かれています。

 だって、王子であるルフナもラリエス君もエイト君も、そして、マリード侯爵家のノエルさんも、アコルの指揮下で自分の実力を発揮していました。

 ああいうのをカリスマ性と言うのでしょうね。大人の貴族はダメでも、学院内の学生なら、アコルに従い戦えるような気がするから不思議です。

 今では自分だって、アコルが次に何をするのか楽しみになっているし、今夜だって、公爵家の子息であるイスデンを、見事な方法で返り討ちにしたでしょう?」

 確かにそうだ。イスデンの闇討ちに遭遇して、気付けばレイム公爵であり王族である私が罰を与えると断言することになった。

 ……アコルは人を利用する使うのが上手い。

「もうひとつの可能性、それは、このまま平民として学生たちを率いて戦い、民心がアコルを支持することです。それは、王族にとって脅威になる可能性がある」

モーマットは私の瞳を見て、アコルの扱いを間違えると、最強の味方となる者を、取り返しのつかない存在にしてしまう可能性があり、上手く手綱を握らないと国の根幹が揺らぐかもしれないと付け加えた。

 ……それは即ち、アコルの手綱を、レイム公爵である私に握れということだろうか?


 すっかり冷めてしまったお茶を飲みながら、私はあれこれと思考する。

 思考しながらアコルの顔を思い出し、私は大変なことを思い出した。
 思わず「あぁーっ!」と叫んで立ち上がりそうになったが、根性で押し止めた。

 あの髪、そうだ、グレーに銀色が混ざる独特の髪の毛は、500年前の魔獣の氾濫で国王を支え、勇者と呼ばれたレイム公爵と同じだ。
 先程何処かで見たことがあるような気がしたけど、あれはレイム公爵邸にある古い肖像画だったのだ。

 先代の長女である妻から聞いたことがある。
 レイム公爵家の男児は、必ずグレーの髪色で生まれる。
 偉大な領主となる者は、その髪に銀色が混じる。その割合が多い程、強大な魔力量を持つのだと。そして瞳も銀色に近いグレーであると。

 私はごくりと唾を飲み込み目を閉じた。

 ……アコルと同じだ。間違いない。アコルはレイム公爵家の血族だ!

「分かった。アコルがレイム公爵家の血族かどうか至急調べよう」




 あれから5日後、トーマス王子に言われた【建国記】を読み終えた私は、自分の無知と無能な先祖に腹が立っていた。
 そんなぐちゃぐちゃする気持ちを吹き飛ばす、待ちに待った報せが、レイム領の公爵屋敷を管理している家令のギヨル(58歳)から届けられた。

「遅かったな。手紙ではなく、ギヨル自ら王都へ来るとは、他に火急の用件でもあったのか?」

「いいえ旦那様、このギヨル、死んでお詫びしてもしきれない大罪を犯しました。どのような処分もお受けする所存ですが、ご報告だけはしなければと罷り越しました」

有能で実直な家令が、このようにひれ伏し謝罪する様を見たことがない。いったい何があったんだ?

 ひれ伏すギヨルを立たせて、13歳くらいの子供が血族に居るかどうかの答えを聞く。
 直系である必要はないので、領地内外の親族であっても構わない。

「実は、先代様のお手付きになった行儀見習いがおりました。その娘は領内の騎士爵家の者で、妊娠が発覚すると直ぐに、先代の奥様が家に返されました。

 奥様は次女フィナンシェ(ルフナ王子の母)様をご出産されたばかりで、もしも男児を産んだらレイム公爵家で育てると仰いましたが、産まれたのは女児でした。

 そして女児を産んだ娘は、産後体調を崩し半年で亡くなり、両親は流行り病で倒れました。
 奥様は、その女児を育てる養父母を隣のサーシム領で探され、産まれた娘が高学院を卒業するまで、養育費を渡す契約を結ばれました。

 養父母になった者には、レイム領の貴族の子だとしか教えておりませんでした。
 その娘が19歳になったので、養育費の打ちきりを告げにサーシム領に使いを送ったところ、なんと高学院には行っておらず、未婚で子を産んだ後、亡くなっていたのです。

 養父母になった者は、娘はサーシム領の高学院に通っていると虚偽報告をしていたのです。
 厚かましくも、産まれた子を育てるための養育費を請求してきたので、半額だけ送っておりました。それが13年前になります」

「・・・そうか、では、レイム公爵家の血族、しかも直系に男児が居たのだな」

 間違いないアコルだ!いや、でもアコルは捨て子だったと聞いている・・・

「えっ? どうして旦那様は男児だとご存じなのですか?
 旦那様のご指示で産まれた子の生死を確認させたところ、その養父母の所在が分からなくなっておりました。

 近所の者の話では確かに男児を産んでいたが、半年もしない内に男児の父親が迎えに来たと周囲に話していたそうです。
 またしても養父母は虚偽の報告をし、養育費を騙し盗っていました」

男児が産まれたと知った時には、既に先代夫婦は亡くなっていたので、ギヨルは自分の判断で養育費を渡していたのだと説明し、勝手なことをして申し訳ありませんでしたと謝罪した。

「産まれた男児の特徴などは聞いてないのか?」

「申し訳ありません・・・必要であれば調べさせますが、如何なさいますか?」

「極秘に、そして大至急探せ! レイム公爵家の養子として迎える可能性も考慮する」

私はギヨルに責任を問うことはないと告げ、同時に男児の父親の正体も調べるよう指示を出した。
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