キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

文字の大きさ
上 下
73 / 709
高学院 1年生

50ー2 アコル、喧嘩を売る(1)ー2

しおりを挟む
『初めましてエクレアです。
 アコル様にドラゴン襲撃をお伝えしたのは私ですわ。私たち妖精には、人間が知らない情報網があるのです。

 妖精と契約しているアコル様をお守りするのは、同じ血族の方々だけではなく、魔獣と敵対する妖精族も同じなのですわ。

 本当なら、ドラゴンと戦って欲しくはないのですが、アコル様がご自分の使命だと仰るので、情報をお伝えし、人々を守るお手伝いをしているのですわ』

エクレアはよく通る可愛い声で説明すると、ふわりと飛び上がり、俺の手のひらの上に着地するとスーッと姿を消した。

「・・・妖精」と、カモン教授はそれだけ言って呆然としている。

「ドラゴンと戦う使命?」と、ヨサップ教授は理解できないようで首を捻る。

「同じ血族って……あっ!そういうことか。でも、何故身分を隠してまで?」

「ノボルト教授、今の王族の魔力量をご存知ですか?
 魔獣を倒すのに身分なんて、何の役に立つんです? 

 今の王族や貴族がドラゴンに勝てますか?
 そもそも、戦う気があると思いますか?

 平民の身分のまま商学部の学生でいた方が、貴族部、魔法部、特務部に喧嘩を売るのに都合がいいんです。
 だって、平民ごときに負けたくないと思わせた方が、より効率的にやる気を引き出せるでしょう?

 このままでは絶対に生き残れそうにもない学生の皆さんを、足手まといにならない程度に鍛え、貴族として最低限の責務を果たせと脅す……ゴホン、失礼。

 最低でもC級魔術師、出来ればA級魔法師にして、私は魔獣の大氾濫に備えたいのです。
 もしも明日、ドラゴンがこの学院を襲撃したら、誰が守ってくれるんでしょう?
 今回の襲撃で軍も魔法師も全く役に立たなかった。それが現実です。

 教授は生き残りたいですか? それとも、仕方ないと諦めますか?
 フーッ、ということで、これから私は王都民を守るため、冒険者ギルドに行きます。許可書をお願いします。
 ああ、何度も言いますが、私が話したことは他言無用ですよ」

 俺は特上の頬笑みで、許可証を早くと左手をカモン教授に差し出した。

 とても顔色がいいとは思えないカモン教授は、机の引き出しから外出許可証と、特別事由欠席届と書かれた書類を取り出し、震える手で俺に手渡した。

 俺に恐怖を覚えたのか、明日ドラゴンが襲ってきたらという話に恐怖したのか分からないが、俺の事情を理解してくれたようなので、問題なく出掛けられる。

 ……ドラゴンが飛来したからには、のんびりなんてしていられない。魔獣の変異種と戦える仲間を増やすために、今日から俺は各学部に喧嘩を売ることにする。




 午前9時、冒険者ギルド王都支部の前には、大勢の人集りができていた。

 皆さんドラゴンの情報が欲しいみたいで、とても表から入れそうにない。
 倉庫の裏から中に入った俺は、勝手知ったるギルド内を、ギルマスの執務室に向かって急ぐ。

「舐めるなよ!冒険者を使い捨ての新兵と同様に考えているなら、今後冒険者は軍の指示には従わない。

 本部のお偉いさんが何を言おうが、冒険者は王都が嫌になったら他に行くだけだ。
 あんたらのせいで、王都から冒険者が居なくなったら、どう責任を取ってくれるんだ!」

ギルマスの怒声が廊下まで響いている。これは相当腹を立てているな。

「なんだと!それじゃあ冒険者ギルドは軍からの支援は必要ないんだな。ああン!」

「ああ、要らねえよ! 支援と言っても、引退した冒険者を軍で雇うくらいだろうが。ドラゴンと戦うために誰が軍人になりたがるんだよ。馬鹿か?バカなのか?」

「クッ・・・軍務大臣に言って冒険者ギルドの予算を減らしてやる!」

「ああどうぞ。困るのは本部の事務方だけだ。
 軍務大臣デミル公爵が、冒険者ギルド本部で働く貴族たちの、給料を減らしたがってるって報告するだけだ。

 協力して欲しけりゃ、無能な指揮官や大臣を辞めさせてから来い!」

 ……あちゃ~、言っちゃったよギルマス。正論過ぎて二の句が継げないじゃん。

 ドン!とドアが開いて、軍の上官らしき男が、怒りの形相で出ていく。

 無能な大臣の下で働くのは嫌だなぁ。でも、きっと今まで甘い汁を吸ってきたんだろうから、苦労するのは当然の報いかもな。

「おいベイクド、ギルマスのお前が喧嘩売ってどうするんだよ!」

「仕方ないだろう。今回だってBランクのパーティーが2つも再起不能にされたんだぞ。これ以上無駄死にさせられるのかよお前は?」


「おはようございます。ドラゴンの件、詳しくお訊きしていいですか?」

 口論している二人の間に入って、ウエストポーチの中からホットドッグを取り出し、俺を睨み付けた二人の口に素早く押し込む。

 何が起こったか分からないって顔をした二人は、自分の口に押し込まれたのがホットドッグだと分かると、プンプン怒りながらもぐもぐと食べ始める。

「どうせ朝食を食べる時間なんて無かったんでしょう? お茶も淹れますから、立ってないで座ってください。朝食を終えたらお願いしたいことがあるので聞いてください」

 今度は熱いお茶を入れたポットとカップをウエストポーチから取り出し、毒気を抜かれた顔に変った二人のために、お茶を注いでいく。

 ……なんだか、何処に行ってもお茶を淹れてるな俺。今朝は冷静さを取り戻すハーブティーだ。これから話す内容を、冷静に聞いてもらわなきゃいけないしな。

「足らないぞアコル。もっと出せ」と、ダルトンさんは当然のように要求する。

「学校はどうした? 緊急招集はまだ出してなかったぞ」と、ギルマスはまだ怒りが収まっていないようだ。

「フフフ。そろそろ本格的に軍と魔法省に喧嘩を売ろうと思いまして」

「「 はあ? 」」

「だから、Aランク冒険者を貸して欲しいんです。腐った貴族と腐った王族に喧嘩を売るために」

「「・・・・・」」 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

処理中です...