キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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高学院 1年生

50ー2 アコル、喧嘩を売る(1)ー2

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『初めましてエクレアです。
 アコル様にドラゴン襲撃をお伝えしたのは私ですわ。私たち妖精には、人間が知らない情報網があるのです。

 妖精と契約しているアコル様をお守りするのは、同じ血族の方々だけではなく、魔獣と敵対する妖精族も同じなのですわ。

 本当なら、ドラゴンと戦って欲しくはないのですが、アコル様がご自分の使命だと仰るので、情報をお伝えし、人々を守るお手伝いをしているのですわ』

エクレアはよく通る可愛い声で説明すると、ふわりと飛び上がり、俺の手のひらの上に着地するとスーッと姿を消した。

「・・・妖精」と、カモン教授はそれだけ言って呆然としている。

「ドラゴンと戦う使命?」と、ヨサップ教授は理解できないようで首を捻る。

「同じ血族って……あっ!そういうことか。でも、何故身分を隠してまで?」

「ノボルト教授、今の王族の魔力量をご存知ですか?
 魔獣を倒すのに身分なんて、何の役に立つんです? 

 今の王族や貴族がドラゴンに勝てますか?
 そもそも、戦う気があると思いますか?

 平民の身分のまま商学部の学生でいた方が、貴族部、魔法部、特務部に喧嘩を売るのに都合がいいんです。
 だって、平民ごときに負けたくないと思わせた方が、より効率的にやる気を引き出せるでしょう?

 このままでは絶対に生き残れそうにもない学生の皆さんを、足手まといにならない程度に鍛え、貴族として最低限の責務を果たせと脅す……ゴホン、失礼。

 最低でもC級魔術師、出来ればA級魔法師にして、私は魔獣の大氾濫に備えたいのです。
 もしも明日、ドラゴンがこの学院を襲撃したら、誰が守ってくれるんでしょう?
 今回の襲撃で軍も魔法師も全く役に立たなかった。それが現実です。

 教授は生き残りたいですか? それとも、仕方ないと諦めますか?
 フーッ、ということで、これから私は王都民を守るため、冒険者ギルドに行きます。許可書をお願いします。
 ああ、何度も言いますが、私が話したことは他言無用ですよ」

 俺は特上の頬笑みで、許可証を早くと左手をカモン教授に差し出した。

 とても顔色がいいとは思えないカモン教授は、机の引き出しから外出許可証と、特別事由欠席届と書かれた書類を取り出し、震える手で俺に手渡した。

 俺に恐怖を覚えたのか、明日ドラゴンが襲ってきたらという話に恐怖したのか分からないが、俺の事情を理解してくれたようなので、問題なく出掛けられる。

 ……ドラゴンが飛来したからには、のんびりなんてしていられない。魔獣の変異種と戦える仲間を増やすために、今日から俺は各学部に喧嘩を売ることにする。




 午前9時、冒険者ギルド王都支部の前には、大勢の人集りができていた。

 皆さんドラゴンの情報が欲しいみたいで、とても表から入れそうにない。
 倉庫の裏から中に入った俺は、勝手知ったるギルド内を、ギルマスの執務室に向かって急ぐ。

「舐めるなよ!冒険者を使い捨ての新兵と同様に考えているなら、今後冒険者は軍の指示には従わない。

 本部のお偉いさんが何を言おうが、冒険者は王都が嫌になったら他に行くだけだ。
 あんたらのせいで、王都から冒険者が居なくなったら、どう責任を取ってくれるんだ!」

ギルマスの怒声が廊下まで響いている。これは相当腹を立てているな。

「なんだと!それじゃあ冒険者ギルドは軍からの支援は必要ないんだな。ああン!」

「ああ、要らねえよ! 支援と言っても、引退した冒険者を軍で雇うくらいだろうが。ドラゴンと戦うために誰が軍人になりたがるんだよ。馬鹿か?バカなのか?」

「クッ・・・軍務大臣に言って冒険者ギルドの予算を減らしてやる!」

「ああどうぞ。困るのは本部の事務方だけだ。
 軍務大臣デミル公爵が、冒険者ギルド本部で働く貴族たちの、給料を減らしたがってるって報告するだけだ。

 協力して欲しけりゃ、無能な指揮官や大臣を辞めさせてから来い!」

 ……あちゃ~、言っちゃったよギルマス。正論過ぎて二の句が継げないじゃん。

 ドン!とドアが開いて、軍の上官らしき男が、怒りの形相で出ていく。

 無能な大臣の下で働くのは嫌だなぁ。でも、きっと今まで甘い汁を吸ってきたんだろうから、苦労するのは当然の報いかもな。

「おいベイクド、ギルマスのお前が喧嘩売ってどうするんだよ!」

「仕方ないだろう。今回だってBランクのパーティーが2つも再起不能にされたんだぞ。これ以上無駄死にさせられるのかよお前は?」


「おはようございます。ドラゴンの件、詳しくお訊きしていいですか?」

 口論している二人の間に入って、ウエストポーチの中からホットドッグを取り出し、俺を睨み付けた二人の口に素早く押し込む。

 何が起こったか分からないって顔をした二人は、自分の口に押し込まれたのがホットドッグだと分かると、プンプン怒りながらもぐもぐと食べ始める。

「どうせ朝食を食べる時間なんて無かったんでしょう? お茶も淹れますから、立ってないで座ってください。朝食を終えたらお願いしたいことがあるので聞いてください」

 今度は熱いお茶を入れたポットとカップをウエストポーチから取り出し、毒気を抜かれた顔に変った二人のために、お茶を注いでいく。

 ……なんだか、何処に行ってもお茶を淹れてるな俺。今朝は冷静さを取り戻すハーブティーだ。これから話す内容を、冷静に聞いてもらわなきゃいけないしな。

「足らないぞアコル。もっと出せ」と、ダルトンさんは当然のように要求する。

「学校はどうした? 緊急招集はまだ出してなかったぞ」と、ギルマスはまだ怒りが収まっていないようだ。

「フフフ。そろそろ本格的に軍と魔法省に喧嘩を売ろうと思いまして」

「「 はあ? 」」

「だから、Aランク冒険者を貸して欲しいんです。腐った貴族と腐った王族に喧嘩を売るために」

「「・・・・・」」 
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