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高学院 1年生
50ー1 アコル、喧嘩を売る(1)ー1
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冒険者ギルドに向かう前に、今日の講義を休むことを担任に告げなければならないが、言い訳をどうしようか迷ってしまう。
学院長かトーマス王子であれば直ぐに許可してくれるだろうが、残念ながら二人は既に王宮へ向かったそうで留守だった。
まあ、ドラゴンに襲われたら、のんびりしていられないだろう。
休日以外で学院を出るには担任か学院長の許可が必要で、こっそり抜け出すのは難しい。
これから抜け出すことが増えてくるだろうから、出来れば堂々と講義を休み外出する名目が欲しい。
ということで、商学部の部長教授で担任でもあるカモン教授に突撃した。
「おはようございますカモン教授。至急お伝えすべき重要なお話とお願いがありまして、少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
商学部の職員室には5人の教授と2人の講師が居て、事務職員は10人くらいかな。
俺は優等生らしく爽やかに挨拶しながら歩いて、一番奥の執務机に座るカモン教授の前に立った。
ここでは、教師も職員の皆さんも俺に対してとても好意的だ。
入学試験で最高点を取ったことと、どうやら学院長やトーマス王子と懇意にしているようだと噂が広まり、講義前の忙しい時間に来たにも拘らず、責めるような視線を向ける者は誰もいない。
「重要な話だと?」
「はい、実は昨日、王都の近くの町がドラゴンに襲撃され甚大な被害が出ました」
「何だって! ドラゴンに襲撃された!?」
せっかく小声で話し掛けたのに、職員室中に響き渡るような大声でカモン教授は叫んでしまった。当然、全員の視線が俺と教授に集まる。
「カモン教授、国の正式発表はまだです。声を抑えてください」
「い、いや、とても信じられない」
「学院長もトーマス王子も、その対応で王宮に向かわれたはずですが」
「そんな重要事項を、学院長は我々より学生の君に先に話されたのか?」
「いいえ、私には他の情報網がありまして、その方面と、ある組織から緊急招集がかかり、これから急いで向かわねばなりません。
ですので、学院を出る許可と講義を欠席する許可を頂きたいのです」
俺は堂々と緊急招集がかかったと話すが、それで納得する者なんていない。
凄く怪訝そうな視線を皆さん俺に向けてくる。ドラゴンの襲撃そのものが信じられないのだろう。
「学院内に住んでいながら、他から得られる情報網とは何かね? それに、何処の組織が緊急招集をかけたんだね?」
「そのことを詳しく話すと、私がわざわざ平民として入学した理由まで説明しなければなりません。
いずれ本当の身分をお話しする時も来るでしょうが、私に与えられし使命、そう、貴族部と魔法部、そして特務部の大改革を成し遂げるまでお待ちください。
これからお話しすることは、国の最優先重要課題である魔獣の大氾濫に関わることです。
少しでも話が漏れると、身分と命の保証はできませんので、カモン教授お一人か、はたまた、死を覚悟で全員か、カモン教授が人選なさるか決めてください」
いったい何を言い出すんだ!って顔をして教授は俺を見るけど、俺は至極真面目な顔をして、どこか脅しを込めた視線で皆さんを見回していく。
職員室に居る者は、興味津々で話を聞きたいと思っている者、面倒に巻き込まれたくないと思っている者とにハッキリ表情が分かれているようだが、わざわざ平民として入学したとか、本当の身分とか、明らかに胡散臭い話にも拘わらず、皆さん徐々に顔色が悪くなっていく。
ここは王立高学院。実は領主の隠し子だったとか、そんな感じの話がないわけではない。
学院長やトーマス王子と普通に話している時点で、常識を外れているらしいから、ハッタリだとも思えないだろう。
カモン教授が室内を見渡すと、殆どの教師も職員も席を立ち始めた。
残っているのはヨサップ教授(44歳)と、ノボルト教授(55歳)だけだった。
二人は俺のところまで来ると、大袈裟な話の真相を聞き出そうという感じではなく、神妙な面持ちで俺に視線を向けた。
……あれ、ちょっと脅しが効きすぎたかな?
「これからお話しすることは、学院長やトーマス王子もご存知ではないことが含まれます。ですから、くれぐれも他言なきようお願いします。皆さんはこのカードをご存知でしょうか?」
俺はそう言って、ウエストポーチからブラックカードを取り出してカモン教授の執務机の上に置いた。
三人は検証するようにカードを手に取り、冒険者ギルド本部の刻印を確認し、ウッと息をのんでからカードを机の上に戻した。
「見たのは初めてだが……こ、これはブラックカードかね?」と、信じられないものを見た驚きで、ヨサップ教授の声は少し緊張している。
「はいヨサップ教授。私はこのカードを持つ冒険者として、住民を守る義務を負っています。
入学時に提示した冒険者カードは、普通の学生と同等な生活をするためのもので、私の実力を示すものではありません。
もうお判りでしょうが、緊急招集は冒険者ギルド王都支部のギルドマスターがかけています。
では、何故本部ではないのか、それは、ある特別な事情が私にあるからです」
「「「特別な事情?」」」と、三人の声が揃う。
「私は未成年で学生ですから、本来従軍を強制されることはありません。
しかし、一つだけ例外があるのです。その例外を避けるため、私がブラックカード持ちであることは冒険者ギルド本部には極秘となっています」
「はあ? 学生なのに従軍? そんなことは有り得ない。法律で禁止されている。そもそも君は商学部の学生なんだぞ!」
またまた何を言い出すんだって顔をして、カモン教授は俺に正しいことを教えるつもりで反論する。他の教授も頷きながら同じような視線を俺に向ける。
「エクレア」
俺が名前を呼ぶと、エクレアはカモン教授の机の上をふわふわと優雅に飛びながら、その愛らしい姿を現し、教授の机の上に降りて優雅にお辞儀をした。
学院長かトーマス王子であれば直ぐに許可してくれるだろうが、残念ながら二人は既に王宮へ向かったそうで留守だった。
まあ、ドラゴンに襲われたら、のんびりしていられないだろう。
休日以外で学院を出るには担任か学院長の許可が必要で、こっそり抜け出すのは難しい。
これから抜け出すことが増えてくるだろうから、出来れば堂々と講義を休み外出する名目が欲しい。
ということで、商学部の部長教授で担任でもあるカモン教授に突撃した。
「おはようございますカモン教授。至急お伝えすべき重要なお話とお願いがありまして、少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
商学部の職員室には5人の教授と2人の講師が居て、事務職員は10人くらいかな。
俺は優等生らしく爽やかに挨拶しながら歩いて、一番奥の執務机に座るカモン教授の前に立った。
ここでは、教師も職員の皆さんも俺に対してとても好意的だ。
入学試験で最高点を取ったことと、どうやら学院長やトーマス王子と懇意にしているようだと噂が広まり、講義前の忙しい時間に来たにも拘らず、責めるような視線を向ける者は誰もいない。
「重要な話だと?」
「はい、実は昨日、王都の近くの町がドラゴンに襲撃され甚大な被害が出ました」
「何だって! ドラゴンに襲撃された!?」
せっかく小声で話し掛けたのに、職員室中に響き渡るような大声でカモン教授は叫んでしまった。当然、全員の視線が俺と教授に集まる。
「カモン教授、国の正式発表はまだです。声を抑えてください」
「い、いや、とても信じられない」
「学院長もトーマス王子も、その対応で王宮に向かわれたはずですが」
「そんな重要事項を、学院長は我々より学生の君に先に話されたのか?」
「いいえ、私には他の情報網がありまして、その方面と、ある組織から緊急招集がかかり、これから急いで向かわねばなりません。
ですので、学院を出る許可と講義を欠席する許可を頂きたいのです」
俺は堂々と緊急招集がかかったと話すが、それで納得する者なんていない。
凄く怪訝そうな視線を皆さん俺に向けてくる。ドラゴンの襲撃そのものが信じられないのだろう。
「学院内に住んでいながら、他から得られる情報網とは何かね? それに、何処の組織が緊急招集をかけたんだね?」
「そのことを詳しく話すと、私がわざわざ平民として入学した理由まで説明しなければなりません。
いずれ本当の身分をお話しする時も来るでしょうが、私に与えられし使命、そう、貴族部と魔法部、そして特務部の大改革を成し遂げるまでお待ちください。
これからお話しすることは、国の最優先重要課題である魔獣の大氾濫に関わることです。
少しでも話が漏れると、身分と命の保証はできませんので、カモン教授お一人か、はたまた、死を覚悟で全員か、カモン教授が人選なさるか決めてください」
いったい何を言い出すんだ!って顔をして教授は俺を見るけど、俺は至極真面目な顔をして、どこか脅しを込めた視線で皆さんを見回していく。
職員室に居る者は、興味津々で話を聞きたいと思っている者、面倒に巻き込まれたくないと思っている者とにハッキリ表情が分かれているようだが、わざわざ平民として入学したとか、本当の身分とか、明らかに胡散臭い話にも拘わらず、皆さん徐々に顔色が悪くなっていく。
ここは王立高学院。実は領主の隠し子だったとか、そんな感じの話がないわけではない。
学院長やトーマス王子と普通に話している時点で、常識を外れているらしいから、ハッタリだとも思えないだろう。
カモン教授が室内を見渡すと、殆どの教師も職員も席を立ち始めた。
残っているのはヨサップ教授(44歳)と、ノボルト教授(55歳)だけだった。
二人は俺のところまで来ると、大袈裟な話の真相を聞き出そうという感じではなく、神妙な面持ちで俺に視線を向けた。
……あれ、ちょっと脅しが効きすぎたかな?
「これからお話しすることは、学院長やトーマス王子もご存知ではないことが含まれます。ですから、くれぐれも他言なきようお願いします。皆さんはこのカードをご存知でしょうか?」
俺はそう言って、ウエストポーチからブラックカードを取り出してカモン教授の執務机の上に置いた。
三人は検証するようにカードを手に取り、冒険者ギルド本部の刻印を確認し、ウッと息をのんでからカードを机の上に戻した。
「見たのは初めてだが……こ、これはブラックカードかね?」と、信じられないものを見た驚きで、ヨサップ教授の声は少し緊張している。
「はいヨサップ教授。私はこのカードを持つ冒険者として、住民を守る義務を負っています。
入学時に提示した冒険者カードは、普通の学生と同等な生活をするためのもので、私の実力を示すものではありません。
もうお判りでしょうが、緊急招集は冒険者ギルド王都支部のギルドマスターがかけています。
では、何故本部ではないのか、それは、ある特別な事情が私にあるからです」
「「「特別な事情?」」」と、三人の声が揃う。
「私は未成年で学生ですから、本来従軍を強制されることはありません。
しかし、一つだけ例外があるのです。その例外を避けるため、私がブラックカード持ちであることは冒険者ギルド本部には極秘となっています」
「はあ? 学生なのに従軍? そんなことは有り得ない。法律で禁止されている。そもそも君は商学部の学生なんだぞ!」
またまた何を言い出すんだって顔をして、カモン教授は俺に正しいことを教えるつもりで反論する。他の教授も頷きながら同じような視線を俺に向ける。
「エクレア」
俺が名前を呼ぶと、エクレアはカモン教授の机の上をふわふわと優雅に飛びながら、その愛らしい姿を現し、教授の机の上に降りて優雅にお辞儀をした。
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