上 下
70 / 709
高学院 1年生

49ー1 国王の承認ー1

しおりを挟む
 ◇◇ 学院長 ◇◇

 私は深く息を吐き、混乱する思考のまま再び椅子に座る。
 トーマスは長椅子に座り頭を抱え、沈黙の中、何度も溜息を吐く。

「アコルを危険視していた自分こそが、危険人物だった。
 魔獣の大氾濫を分かっているつもり。王子として【魔獣大氾濫対策研究室】を立ち上げ、責任を果たしているつもり。

 今日ドラゴンに襲われるなんて想像さえしていなかった。
 民や学生を危険に曝していたのは私の方だった。
 具体的な手も打たず、改革を叫びながら思考しているだけの愚か者では、誰も守ることなどできない!」

トーマスもまた、アコルの言葉を思い出したようで後悔の言葉を吐き出す。

 多くの民や兵士や魔法師を死傷させたばかりか、ドラゴンに逃げられ、誰一人として王族や大臣は現地に出向いてもいない。
 そんな現実を嘆くのではなく、真面目なトーマスは自分を責めている。

 だが同じ王族として、現実を何も分かっていなかったのは私も同じだ。
 もしも明日、王都や高学院がドラゴンに襲われたら、そう思うと体が震える。
 
 ……覇王様も居ないこの時代に……もうドラゴンが来襲するなんて。


 伝承通り、強大な魔力と統率力を持つ覇王様が必要だ。
【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書を、最後まで読み解ける、覇王となるべき王族が必要だ。

「トーマス、君の手に、まだ【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書はあるか?」

「はい、あります……有りますが、私に覇王は無理です。まだ上級魔法を一つとして使えません。開けるページもたった6ページです」

「私は7ページだった。リーマス(第五王子)とルフナ(第六王子)はどうだろう? よし、直ぐに確認するぞ!」

 私はトーマスと一緒に、リーマスとルフナの部屋へと向かう。
 向かう道すがら、自分の行動がアコルに導かれているような気がして、正直怖くなった。

 王家や領主の家には魔術書があるという話をアコルとしなかったら、きっと私は【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書のことなんて忘れていた。


 最初に行ったのはリーマスの部屋だった。

 リーマスは早々に王になる気はないと宣言した、兄上国王が城の外で平民に産ませた子だ。彼は身を守るため意図して魔力量を上げてこなかった。

 覇王という言葉を出したら「学院長は私に死ねと? ようやく王宮から逃げ出したのに?」って泣きそうな顔で言って、魔術書なんて見るのも嫌だと拒絶した。

 血塗られた王家の歴史。何故か国王が外で作った子供は長生きできない。兄弟の誰かが、又は王妃や側室が暗殺してきたのだ。

 次に行ったルフナの部屋では、ドラゴンの話をする前に、ルフナから信じられない衝撃の事実を聞かされた。

「だって僕は、活字が頭に入らないです。
 本は開けますけど中に書いてあることは全然理解できません。

 でもアコルが、僕に勉強の仕方を教えてくれたから、これから覚えられるかも。
 いやダメだー。誰かが読んでくれなきゃ覚えられない。トーマス兄さん、読んでくれますか?」って。

 絶望で目の前が暗くなった。

 開けるページは10ページ。だけど、私が見てもトーマスが見ても、魔術書のページはどれも白紙にしか見えず、内容を確認することすら出来なかった。

 産まれて直ぐに血判登録することにより、本人以外が使えないようになっていたのだ。

「ルフナ、今日、王都の近くの町がドラゴンに襲撃され、街は半壊、住民の死傷者多数、そして軍も魔法省も全く役に立たず、ドラゴンに逃げられた」

「えっ! ドラゴンに襲撃された?」

ルフナも凄い衝撃だったようで、それ以上言葉が続かない。

「だから、だから【上級魔法と覇王の遺言】なの? 
 でも、誰も魔術書に書いてあることを教えてくれないし、父上も上級魔法を使えるようになれって言わなかったよ。

 ええぇっ!いやいや、兄さんたちだって、叔父上たちだって居るんだから、覇王は俺じゃないよね?」

 誰も真面目に魔術書を読み解こうとしない。
 誰も真剣に覇王を目指さない。
 誰も、魔術書を与えられる意味を考えようともしなかった。

 ドラゴンとの戦い方なんて、誰も知らないし、調べようともしていない。それが今の王族の現状だ。


 アコルがブラックカード持ちとしての責任を果たすため、閲覧禁止書庫で覇王がどう戦ったのかを調べようとしていたのに、まるで他人事だった私たちは、アコルの目にはどう映っていたのだろう?

 ……ああそうか、だから王族は民を守りたいのか、貴族だけを守りたいのかはっきりしろと言ったんだ。

 強大な敵と戦う気概さえない我々に、頭を切り替えろと示唆……いや、不敬罪を覚悟する気で最後通告したんだ。

「もしも明日、王都がドラゴンに襲われたら、王城もこの学院も壊滅する。
 アコルは今日、魔獣の大氾濫と覇王の戦いについての本を探して、閲覧禁止書庫に入った。
 王族の誰も調べようとさえしないことを調べようとして。

 アコルは学院長である私に、魔獣の大氾濫を収束させるのは王族や貴族の仕事であり、平民の私の仕事ではないと言った。

 そして、冒険者である自分の仕事は、王都の住民を守ることであり、決して王族や貴族や努力もしない腐った学生を助けることじゃないと言った。

 その通り、当たり前のことを言ったのに、なんて辛辣なことを言うんだと、私は少し腹を立てた。
 明日、生きていられるかどうかも分からない事態だというのに」

 トーマスもルフナも黙ったまま、王族であることの意味を考え直している。

 どのくらい沈黙の中で過ごしたのか分からないが、覇王に相応しい者は、魔力量が一番多く人望も厚いレイム公爵しかいないと私の中で結論が出た。

「明日、レイム公爵が魔術書を持っているかどうか確認してくる」

「そうですね叔父上。覇王の件はそれしかないと思います。でも我々にも出来ること、いえ、やるべきことがあります。
 私は、アコルの提案を父上に承認していただきます。今変わらなければ、本当にこの国は滅びます」

トーマスはそう言うと、明日の早朝、私と一緒に王宮へ行き国王から承認を得ると決めた。

 アコルの提案について何も知らなかったルフナに、トーマスが丁寧に説明していく。
 アコルを仲間に引き入れて監視するよう、ルフナやラリエス君やエイト君に指示を出していた私は、トーマスの話の途中で自分が恥ずかしくなり、監視の指示を取り消した。

 ついでに妖精と友達になり、オペラと名付けたことを話すと、トーマスとルフナからズルいと文句を言われた。

 気付けば深夜になっていた。
 こうして甥たちとじっくり意見交換することも、必要なことだと痛感した。

 本当に王位を争っている場合ではない。でも、きっと分からない奴には分からないだろう。
 この機会に、レイム公爵ナスタチウム兄上にアコルの存在を打ち明け、レイム公爵家の血筋かどうかを調べてもらおう。

 アコルがレイム公爵家の血族なら、堂々と学生のリーダーとして表に立って貰える……と思う。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!

モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。 突然の事故で命を落とした主人公。 すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。  それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。 「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。  転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。 しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。 そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。 ※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。

処理中です...