上 下
69 / 709
高学院 1年生

48ー2 ドラゴンの来襲ー2

しおりを挟む
 そして私たちは、開設準備中の【魔獣大氾濫対策研究室】に向かい、私はアコルから妖精との契約について教えを受けていた。

 偶然にも、トーマスは王宮から緊急呼び出しを受け留守にしていたので、申し訳ないが私だけ特別にコツを教えてもらった。

「妖精は自分から欲しいモノを言ったりしません。
 ですが私の経験上、妖精は自分が好きなものが目の前にある時、何らかのアクションを起こします。

 私の時は香木の香りでしたが、それは花だったり木だったり、歌だったり、剣や武具だったりと様々です。
 妖精の気配を感じた時に、妖精が好きなモノをプレゼントし、名前を付けて呼んでみてください。

 気に入ってもらえたら、必ず合図が返ってきます。そして、可愛い姿を現してくれるでしょう」

アコルはそう言うと、読書のために図書館へと戻っていった。

 心当たりが大有りな私は、逸る気持ちを抑えながら、急ぎ足で自分の執務室に戻り、いつものように横笛を取り出すと、妖精さんに捧げるつもりで一番好きな曲を演奏した。

「私の一番好きな曲をプレゼントしたんだ。もしも気に入ってくれたら合図して欲しい。私はモーマットだ」と私が言うと、何処からか草笛のような音色が響いてきた。

「ありがとう。嬉しいよ。君のことを【オペラ】と呼んでもいいだろうか?」と問うと、また草笛のような音色が聴こえて、執務机の上に、可愛い男の子の妖精がすうっと姿を現した。

 5色の羽根は透き通るように美しく、頭の上にちょこんと三角帽子を載せ、5色の葉のような服を着て、どこか悪戯っぽい笑顔で私をじっと見ている。

 大きさはエクレアちゃんより少し大きくて、首に笛のような物をぶら下げている。

 ……ああぁぁー、なんて幸せなんだ! こんな日が本当に来るなんて! ありがとうアコル。ありがとうございます神様!

『僕は音楽が大好きで、ずっと学校の音楽室に居たんだけど、音楽の教授が病気で授業が休みになっていて、とっても寂しかったんだ。
 モーマットは演奏が好きそうだから、ずっと友達になりたいって思ってたんだ。そしたらアコル様が、大丈夫だよって言ってくれた。これ、友達のしるしにあげる』

オペラはにっっこりと笑いながら、小さな手からピンク色の丸い石をプレゼントしてくれた。

「オペラはアコルと話したことがあるんだね。妖精と契約したら、私も他の妖精が見えたり話したりできるのかなぁ」

ワクワクが止まらず、私は可愛いオペラに色々と質問して、たくさん話をする。

『たぶん無理だよ。主の居る妖精は、主が許可したら姿を見せたり話したりするけど、僕とモーマットは契約じゃなくて友達だし……アコル様は特別なお方だから。

 ねえモーマット、アコル様を疑うのは止めて。もしもアコル様を害するようなことをしたら、僕はモーマットとは一緒に居られない』

「私とオペラは契約じゃないのかい? それにアコルが特別な方?」と、なんだか納得できない気持ちで、オペラに少しキツイ視線を向けてしまった。

『妖精が契約を許可するのは、自分よりも魔力量が多いか、自分が持っていない適性を持っていたり、相性がいいと確信できてからだよ。これ以上は話せない。
 アコル様のことは、きっと直ぐにその意味が分かると思うよ』

オペラはそう説明すると、逆に厳しい視線を私に向けてきた。

 その視線を受けた瞬間、オペラの魔力量は100を超えていて、自分よりも多いのだと何故だか分かった。

「またねモーマット」と可愛く手を振って、オペラはスーッと飛び上がり何処かへ行ってしまった。

 ……契約じゃなくて友達・・・ちょっとがっかりだけど、オペラと友達になれた喜びは変わらない。




 オペラの可愛い姿を思い出し、幸せな気持ちで夕食後のお茶を飲んでいると、王宮からトーマスが戻ってきた。

 すこぶる顔色の悪いトーマスの口から、信じたくない驚愕の話を聞き、私の幸せな気持ちは一瞬で吹き飛び眩暈がした。

「な、なんだって、王都の直ぐ近くの南の町が、ドラゴンに襲撃された?!」

「はい叔父上。直ぐに軍務大臣のデミル公爵が、軍の上官に出動命令を出し、魔法省の副大臣であるヘイズ侯爵も、A級魔法師三人を軍の大隊と共に現場に向かわせましたが、住民の死傷者は多数、兵士や魔法師の死傷者の数は・・・半数以上だと」

「それでドラゴンは、ドラゴンはどうなったんだ!」

「ドラゴンは無傷のまま、一頭は南へ、二頭は東に飛び去ったようです。襲撃された町の建物は、半分が壊滅状態になったと・・・」

 頭の中が真っ白になるとは、こういうことなのだと思い知らされた。
 魔法省や学者の見解では、魔獣の大氾濫まであと2年以上あったはずだ。

***** 

 時は待ってくれない。

 王族は民を守りたいのか、貴族だけを守りたいのか、そして貴族は、自分だけが助かればいいのか、いい加減にはっきりしたらどうでしょう。

 あれだけ魔獣の大氾濫が起こると言っているのに、学生たちが他人事なのは、改革する意味や目的が分からないからです。

 生きるため! ただそれだけのことが分からない。

 大きく発想を変えなければ、この国は滅びますよ!

 学ばなければ死ぬぞと脅すだけなのか、生きるために戦えと教えるのか、頭を切り替えるべき者は誰でしょう?
 皆さんは、学生たちを守りたいのでしょうか?

*****
 
 アコルの言葉が蘇る。
 あの時私は、思わず不敬が過ぎると叱咤してしまった。

 私もトーマスもマキアートも、あまりの言いように腹が立ったし、目の前の学生が未成年の少年で、現時点では平民だと思っているから、怒りの感情を抑え、手を出さないよう我慢するだけで精一杯だった。

 示された提案だって、実現不可能を通り越して、貴族社会を分かっていない平民が考えた絵空事だと考えようとした。

「生きるため・・・そうだ。生きるために戦う。守るために学ばせる。当たり前のことだったのに、分かっていなかったのは……私の方だった」

私は天を仰ぐように顔を上に向け目を瞑り、浅はかで無知だった己に腹を立てながら呟いた。

 ドラゴンに襲われて初めて、これから先も普通に生きていられると思っていた自分に気付くとは、教育者として王族として、あまりにも無責任だった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...