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冒険者とお仕事
36ー1 妖精使いのアコル(2)ー1
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魔法省の本部は、王族が住む宮殿前に建っているコの字型の建物の、手前に出っ張った右側に在った。ちなみに仲の悪い軍本部は反対の左側に在る。
正面中央の長い建物の部分には他の部署の本部があり、魔法省の研究施設は、城壁に囲まれた王宮の中でも外れにあるそうだ。
王宮までは会頭と副会頭と一緒に馬車でやって来たが、会頭は外務部に用事があって別行動となった。
魔法省に俺を引率していく役目を引き受けてくれたのは副会頭だ。
セージさんも立候補してくれたけど、副大臣からの呼び出しだからと、失礼のないよう副会頭に決まった。
「対応する相手によってキャラを変えますので、副会頭も合わせてくださいね」
「ああ、しっかり練習をしたから大丈夫だ。私の役どころは、とにかくアコルを困った子供だと思っている上司という部分が同じだから、どんなキャラでも問題ない」
馬車を下りて魔法省本部に向かいながら、俺はマンデリン副会頭と最終打ち合わせをしていく。
初めての王宮だが、商人モードの俺は全く緊張することもない。
何処かに商売に繋がるものが落ちてないか探りながら歩く。大商人を目指すなら、国を相手に商売することは必須だから、この場所にも度々訪れるくらいにならないといけない。
「あ~っ、花壇の手入れがなってないな。花の配置も色の組み合わせにもセンスがない。国の玄関である場所がこれでは他国に笑われる」
「これから魔法省との対決だというのに、アコルが気になるのはそこか?」
「俺に王宮の花壇を任せてもらえば、見違える程に美しくして見せますよ。現在花壇の担当をしている商会がいるのでしょうか? いなければ商機ありです副会頭」
俺は頭の中で花の種類や経費を考え、利益をどのくらい確保できるかブツブツ呟きながら計算していく。
「国が相手なら、仕事を貰うことを優先して利益を抑えるか、逆にガッポリ儲けさせて頂くか……どっちがいいと思いますか副会頭?」
俺の呟きを隣で聞いていた副会頭は、呆れた顔をして「モンブラン商会が受けるのであれば、当然ガッポリ儲ける方だろう」と答えて笑った。
初めて国と商売する商会や商店であれば、信用を得るために利益を落としてでも取引することもあるが、モンブラン商会であれば、こちらの言い値で大丈夫だろうと教えてくれた。
……モンブラン商会の傘下である【薬種 命の輝き】に仕事を任せてもらえば、母さんも張り切って仕事するだろうなぁ。なにせ俺には最強のパートナーである妖精のエクレアがついてるんだから。
魔法省本部の入口で名前と要件を言って、担当者さんの所まで案内してもらう。
今日の俺の格好は、新しく買ったばかりのシャツとズボンと靴で、如何にも王宮に来るために買いましたって感じになってる。ただ単に背が伸びて前の服が合わなくなっただけだが、新米商会員見習いっぽくていい。
案内してくれた受付の女性は、第3客室と書かれた部屋の前でドアをノックした。
「どうぞ」と中から声がして、先に副会頭が部屋に入り挨拶をして、続いて俺も秘書見習いをしているアコルと言いますと挨拶をした。
中で待っていたのは、ちょっと偉そうにしている上級役人らしき40代くらいの男性と、魔法師と思われる独特の服を着た若い男性だった。
二人の男は長テーブルに肘をつき、俺たちをジロリと見て観察する。副会頭と俺の前に机はなく、椅子だけが対面するように置いてあった。まるで就職の面接でもするかのような椅子の配置に、思わず笑いが零れそうになったが我慢した。
「座りなさい」と声を掛けられてから、俺たちはゆっくりと座った。
二人の雰囲気から、俺は先手必勝でガンガン攻めていくべきだと決め、にっこりと嬉しそうに笑って切り出した。
「妖精と契約できる者は、上級魔法師並みの待遇を受けられるって聞きました。住むところもタダで、レイム公爵家やサナへ侯爵家のお抱えにしてもらえて、お金も沢山頂けるんだって先輩方や、知り合いの上級貴族の人が説明してくれました」
「こらアコル、発言の許可が出る前から話すものではない!」
浮かれて話す俺を睨みながら副会頭が叱って、面接官(眼前の二人)に「申し訳ありません」と謝罪した。
「でも副会頭、こっちは呼ばれたから来たんですよ。当然相応の待遇を用意しているのが当然じゃないですか! だって妖精と契約できる者って凄く希少で、高位貴族、しかも侯爵家以上の貴族の保護対象になるってことは、貴族だけじゃなく平民だって知ってますよ」
「は~っ、いいからお前は口を閉じろ! 魔法省の要件がお前の保護だと決まっているかどうかも分からないのに、勝手な発言をするんじゃない!」
副会頭は大きな溜息を吐きながら、今度は少し大きな声で俺を叱った。
「いや、まだ君が本当に妖精と契約できると確認した訳ではない。君は自分の魔力量がどのくらいあるか知っているかね?」
上級役人らしき面接官が、ちょっと俺を見下すような目で見ながら質問した。
「えっ? 魔力量ですか。はい、大体分かります。俺、じゃなかった私は、モンブラン商会に入る前から冒険者登録をしていて、始めはFランクからスタートしたんだけど、最近Dランクに上がったんです。たった3年でFランクからDランクですよ。凄いでしょう。ふふん、俺ってもしかしたら天才かもしんない。妖精と契約できるから、もしかして超天才?」
俺は育ちのあまり良くない子供で、自分を過大評価しているさもしい根性の持ち主を演じていく。
首から下げていた冒険者登録証を取り出し、自慢気に立ち上がって、よく見えるように面接官の前に突き出す。
「アコル、言葉使い……座りなさい」って、副会頭が小声で注意する。
「はあ? Fランクからスタートしただと!」
偉そうな役人は、何故か大声を上げて俺を睨んだ。
正面中央の長い建物の部分には他の部署の本部があり、魔法省の研究施設は、城壁に囲まれた王宮の中でも外れにあるそうだ。
王宮までは会頭と副会頭と一緒に馬車でやって来たが、会頭は外務部に用事があって別行動となった。
魔法省に俺を引率していく役目を引き受けてくれたのは副会頭だ。
セージさんも立候補してくれたけど、副大臣からの呼び出しだからと、失礼のないよう副会頭に決まった。
「対応する相手によってキャラを変えますので、副会頭も合わせてくださいね」
「ああ、しっかり練習をしたから大丈夫だ。私の役どころは、とにかくアコルを困った子供だと思っている上司という部分が同じだから、どんなキャラでも問題ない」
馬車を下りて魔法省本部に向かいながら、俺はマンデリン副会頭と最終打ち合わせをしていく。
初めての王宮だが、商人モードの俺は全く緊張することもない。
何処かに商売に繋がるものが落ちてないか探りながら歩く。大商人を目指すなら、国を相手に商売することは必須だから、この場所にも度々訪れるくらいにならないといけない。
「あ~っ、花壇の手入れがなってないな。花の配置も色の組み合わせにもセンスがない。国の玄関である場所がこれでは他国に笑われる」
「これから魔法省との対決だというのに、アコルが気になるのはそこか?」
「俺に王宮の花壇を任せてもらえば、見違える程に美しくして見せますよ。現在花壇の担当をしている商会がいるのでしょうか? いなければ商機ありです副会頭」
俺は頭の中で花の種類や経費を考え、利益をどのくらい確保できるかブツブツ呟きながら計算していく。
「国が相手なら、仕事を貰うことを優先して利益を抑えるか、逆にガッポリ儲けさせて頂くか……どっちがいいと思いますか副会頭?」
俺の呟きを隣で聞いていた副会頭は、呆れた顔をして「モンブラン商会が受けるのであれば、当然ガッポリ儲ける方だろう」と答えて笑った。
初めて国と商売する商会や商店であれば、信用を得るために利益を落としてでも取引することもあるが、モンブラン商会であれば、こちらの言い値で大丈夫だろうと教えてくれた。
……モンブラン商会の傘下である【薬種 命の輝き】に仕事を任せてもらえば、母さんも張り切って仕事するだろうなぁ。なにせ俺には最強のパートナーである妖精のエクレアがついてるんだから。
魔法省本部の入口で名前と要件を言って、担当者さんの所まで案内してもらう。
今日の俺の格好は、新しく買ったばかりのシャツとズボンと靴で、如何にも王宮に来るために買いましたって感じになってる。ただ単に背が伸びて前の服が合わなくなっただけだが、新米商会員見習いっぽくていい。
案内してくれた受付の女性は、第3客室と書かれた部屋の前でドアをノックした。
「どうぞ」と中から声がして、先に副会頭が部屋に入り挨拶をして、続いて俺も秘書見習いをしているアコルと言いますと挨拶をした。
中で待っていたのは、ちょっと偉そうにしている上級役人らしき40代くらいの男性と、魔法師と思われる独特の服を着た若い男性だった。
二人の男は長テーブルに肘をつき、俺たちをジロリと見て観察する。副会頭と俺の前に机はなく、椅子だけが対面するように置いてあった。まるで就職の面接でもするかのような椅子の配置に、思わず笑いが零れそうになったが我慢した。
「座りなさい」と声を掛けられてから、俺たちはゆっくりと座った。
二人の雰囲気から、俺は先手必勝でガンガン攻めていくべきだと決め、にっこりと嬉しそうに笑って切り出した。
「妖精と契約できる者は、上級魔法師並みの待遇を受けられるって聞きました。住むところもタダで、レイム公爵家やサナへ侯爵家のお抱えにしてもらえて、お金も沢山頂けるんだって先輩方や、知り合いの上級貴族の人が説明してくれました」
「こらアコル、発言の許可が出る前から話すものではない!」
浮かれて話す俺を睨みながら副会頭が叱って、面接官(眼前の二人)に「申し訳ありません」と謝罪した。
「でも副会頭、こっちは呼ばれたから来たんですよ。当然相応の待遇を用意しているのが当然じゃないですか! だって妖精と契約できる者って凄く希少で、高位貴族、しかも侯爵家以上の貴族の保護対象になるってことは、貴族だけじゃなく平民だって知ってますよ」
「は~っ、いいからお前は口を閉じろ! 魔法省の要件がお前の保護だと決まっているかどうかも分からないのに、勝手な発言をするんじゃない!」
副会頭は大きな溜息を吐きながら、今度は少し大きな声で俺を叱った。
「いや、まだ君が本当に妖精と契約できると確認した訳ではない。君は自分の魔力量がどのくらいあるか知っているかね?」
上級役人らしき面接官が、ちょっと俺を見下すような目で見ながら質問した。
「えっ? 魔力量ですか。はい、大体分かります。俺、じゃなかった私は、モンブラン商会に入る前から冒険者登録をしていて、始めはFランクからスタートしたんだけど、最近Dランクに上がったんです。たった3年でFランクからDランクですよ。凄いでしょう。ふふん、俺ってもしかしたら天才かもしんない。妖精と契約できるから、もしかして超天才?」
俺は育ちのあまり良くない子供で、自分を過大評価しているさもしい根性の持ち主を演じていく。
首から下げていた冒険者登録証を取り出し、自慢気に立ち上がって、よく見えるように面接官の前に突き出す。
「アコル、言葉使い……座りなさい」って、副会頭が小声で注意する。
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