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冒険者とお仕事
33ー2 天才少年(2)
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お坊ちゃまの護衛任務二日目は、冒険者との連携ということで、お坊ちゃまの魔術というものをマジマジと見させてもらった。
「30の魔力量を捧げ、高さ1メートル、幅2メートル土壁を作れ。我が視線の先、迫りくる魔獣を倒す盾となれ。発動!」
大きな声で長い詠唱を終えたお坊ちゃまの前に、ゴゴゴゴゴと音を立て、詠唱通りの土壁が40秒くらいで完成した。
30の魔力量? 魔術師っていうのは、魔術を発動する時、使いたい魔力量を調節できるのか? 今の魔術は、30の魔力を消費したということだろうか?
「おおっ!なんと早い発動なんだ」って護衛騎士が驚いたように声を上げる。
ロードさんがエアーカッターで傷を負わせたシルバーウルフが、皆に追われて向かってきていたが、突然現れた土壁に激突した。
「ラリエス様、まだ息があります。壁を倒してください」と、連携していたロードさんが叫んだ。
「15の魔力量を捧げ、高さ1メートル、幅2メートルの土壁を前に倒し、魔獣を圧死させよ。発動!」
《 ドーン 》
「素晴らしいですラリエス様! 連携も完璧です」と、護衛騎士が感嘆の声を上げた。
……へっ? なんだこれ? 土壁は「いでよ土壁」で、倒す時は「倒れろ」でいいんじゃないの? あ、あれ?
「ふう、なんとか倒せたようだ。だが、冒険者から指示を受ける前に、自分で状況判断ができるようにならなくては意味がない」
「ラリエス様、指示を出すためには、たくさんの経験を積まねばなりません。魔獣が同時に数頭襲ってくることもありますので、詠唱中は周囲にも気をお配りください」
セイガさんは言葉を選びながら、丁寧にお坊ちゃまに指導していく。
「それは我ら護衛騎士の仕事、冒険者風情がラリエス様に指導するな!」
「・・・それは失礼しました。以後気を付けます」
最初は貴族家出身の冒険者ということで、護衛騎士も穏やかに接してくれていたが、時間が経過してくると態度が横柄になってきた。
俺以外はちゃんと敬語で話をするから、身分差が出来上がったのかもしれない。
……これじゃあ、何のために連携を学んでいるのか分からない。
こんな感じで周りがおだてて、魔術師の方が偉いんだと教え込んでいくから、冒険者なんて使い捨てればいいと思うような、バカで役立たずの魔術師が出来上がっていくんだ。
それから昼まで、お坊ちゃまは土壁を三回発動させ、小型の魔獣を1頭だけ倒した。致命傷には至らなかった獲物には逃げられたが、口を出すと怒られるので、我々が止めを刺すことは出来なかった。
せっかく冒険者が弱らせたのに、みすみす逃げられるなんて勿体ない。
……美味しそうな猪だったのになぁ……今日の昼食は肉無しだな。
昼食時間はお互い距離をとった。
冒険者風情がとか、冒険者ごときがって何度も言われて、こっちもいい気はしないし、お坊ちゃまの意識も徐々に変わっていった。
「そこの見習いのきみ、倒した獲物の血抜きをしておくように」って、お願いではなく命令になっていった。
貴族の護衛なんてこんなものだとロードさんが耳元で囁くけど、なんだか納得できない。ちょっとだけお坊ちゃまに好感を持っていたのに残念だ。
午後3時を過ぎた頃、お坊ちゃまの魔力が減って休憩することになった。
本来なら護衛騎士がお坊ちゃまの魔力量を把握し、体調管理をしなければならないのに、まるで冒険者が無理をさせたかのように文句を言われた。
「これ以上続けるのはお体に障ります。少し休憩してから森を出ましょう」
護衛騎士の無能さに嫌気がさしたっぽいセイガさんが、倒した魔獣をマジックバッグに収納して提案した。
「本日の成果を公爵様に報告されれば、きっと喜ばれるでしょう。D級魔術師とは思えない土魔法の完成度、そして発動速度は天才以外の何物でもありませんラリエス様」
「そうです。11歳でここまでできる者なんて居ません。多少のご無理も魔力量を増やすためには必要です。おい、早くラリエス様が休憩できるよう準備しろ!」
護衛騎士はお坊ちゃまを褒め称えながら、魔力量管理が出来なかったことを、魔力量を増やすために必要なことだったみたいに誤魔化して、休憩スペースを作れと命令してきた。
……ふ~ん、作ってもいいんだ休憩スペース。
「分かりました。椅子とテーブル、そしてお茶の準備のため、かまどを作らせていただきます」
俺は疲れた表情をしているお坊ちゃまに向かって、にっこりと微笑んだ。
「いでよテーブル、長椅子、かまど」と、本当は詠唱なんて必要ないけど、俺は声に出して土魔法を発動した。
「「「 はあ? 」」」
お坊ちゃま御一行様が、大きく目を見開いて、俺を化け物でも見たような目で見る。
いやいや、昨日の昼ご飯の時も、同じものを作っていましたけど、それは気付かなかったのかな?
「ああ、用心のために、後ろは囲った方が安心ですね。気が利かなくてすみません。なにせEランクになったばかりの新人冒険者ですから」
今度は何も言わず、ただ手を前に突き出して魔力を集中させ、高さ2メートル、幅4メートルの土壁をゆっくりと作り出した。
時間にして20秒足らず、たっぷり余っていた魔力を放出し、気分も体調もスッキリだ。さあ、美味しいお茶でも飲もう。
「アコル、この馬鹿者!」と、リーダーの怒鳴り声が聞こえたけど、無視して水魔法でポットに水を入れ、火魔法で魔鉱石に火をつけた。
「30の魔力量を捧げ、高さ1メートル、幅2メートル土壁を作れ。我が視線の先、迫りくる魔獣を倒す盾となれ。発動!」
大きな声で長い詠唱を終えたお坊ちゃまの前に、ゴゴゴゴゴと音を立て、詠唱通りの土壁が40秒くらいで完成した。
30の魔力量? 魔術師っていうのは、魔術を発動する時、使いたい魔力量を調節できるのか? 今の魔術は、30の魔力を消費したということだろうか?
「おおっ!なんと早い発動なんだ」って護衛騎士が驚いたように声を上げる。
ロードさんがエアーカッターで傷を負わせたシルバーウルフが、皆に追われて向かってきていたが、突然現れた土壁に激突した。
「ラリエス様、まだ息があります。壁を倒してください」と、連携していたロードさんが叫んだ。
「15の魔力量を捧げ、高さ1メートル、幅2メートルの土壁を前に倒し、魔獣を圧死させよ。発動!」
《 ドーン 》
「素晴らしいですラリエス様! 連携も完璧です」と、護衛騎士が感嘆の声を上げた。
……へっ? なんだこれ? 土壁は「いでよ土壁」で、倒す時は「倒れろ」でいいんじゃないの? あ、あれ?
「ふう、なんとか倒せたようだ。だが、冒険者から指示を受ける前に、自分で状況判断ができるようにならなくては意味がない」
「ラリエス様、指示を出すためには、たくさんの経験を積まねばなりません。魔獣が同時に数頭襲ってくることもありますので、詠唱中は周囲にも気をお配りください」
セイガさんは言葉を選びながら、丁寧にお坊ちゃまに指導していく。
「それは我ら護衛騎士の仕事、冒険者風情がラリエス様に指導するな!」
「・・・それは失礼しました。以後気を付けます」
最初は貴族家出身の冒険者ということで、護衛騎士も穏やかに接してくれていたが、時間が経過してくると態度が横柄になってきた。
俺以外はちゃんと敬語で話をするから、身分差が出来上がったのかもしれない。
……これじゃあ、何のために連携を学んでいるのか分からない。
こんな感じで周りがおだてて、魔術師の方が偉いんだと教え込んでいくから、冒険者なんて使い捨てればいいと思うような、バカで役立たずの魔術師が出来上がっていくんだ。
それから昼まで、お坊ちゃまは土壁を三回発動させ、小型の魔獣を1頭だけ倒した。致命傷には至らなかった獲物には逃げられたが、口を出すと怒られるので、我々が止めを刺すことは出来なかった。
せっかく冒険者が弱らせたのに、みすみす逃げられるなんて勿体ない。
……美味しそうな猪だったのになぁ……今日の昼食は肉無しだな。
昼食時間はお互い距離をとった。
冒険者風情がとか、冒険者ごときがって何度も言われて、こっちもいい気はしないし、お坊ちゃまの意識も徐々に変わっていった。
「そこの見習いのきみ、倒した獲物の血抜きをしておくように」って、お願いではなく命令になっていった。
貴族の護衛なんてこんなものだとロードさんが耳元で囁くけど、なんだか納得できない。ちょっとだけお坊ちゃまに好感を持っていたのに残念だ。
午後3時を過ぎた頃、お坊ちゃまの魔力が減って休憩することになった。
本来なら護衛騎士がお坊ちゃまの魔力量を把握し、体調管理をしなければならないのに、まるで冒険者が無理をさせたかのように文句を言われた。
「これ以上続けるのはお体に障ります。少し休憩してから森を出ましょう」
護衛騎士の無能さに嫌気がさしたっぽいセイガさんが、倒した魔獣をマジックバッグに収納して提案した。
「本日の成果を公爵様に報告されれば、きっと喜ばれるでしょう。D級魔術師とは思えない土魔法の完成度、そして発動速度は天才以外の何物でもありませんラリエス様」
「そうです。11歳でここまでできる者なんて居ません。多少のご無理も魔力量を増やすためには必要です。おい、早くラリエス様が休憩できるよう準備しろ!」
護衛騎士はお坊ちゃまを褒め称えながら、魔力量管理が出来なかったことを、魔力量を増やすために必要なことだったみたいに誤魔化して、休憩スペースを作れと命令してきた。
……ふ~ん、作ってもいいんだ休憩スペース。
「分かりました。椅子とテーブル、そしてお茶の準備のため、かまどを作らせていただきます」
俺は疲れた表情をしているお坊ちゃまに向かって、にっこりと微笑んだ。
「いでよテーブル、長椅子、かまど」と、本当は詠唱なんて必要ないけど、俺は声に出して土魔法を発動した。
「「「 はあ? 」」」
お坊ちゃま御一行様が、大きく目を見開いて、俺を化け物でも見たような目で見る。
いやいや、昨日の昼ご飯の時も、同じものを作っていましたけど、それは気付かなかったのかな?
「ああ、用心のために、後ろは囲った方が安心ですね。気が利かなくてすみません。なにせEランクになったばかりの新人冒険者ですから」
今度は何も言わず、ただ手を前に突き出して魔力を集中させ、高さ2メートル、幅4メートルの土壁をゆっくりと作り出した。
時間にして20秒足らず、たっぷり余っていた魔力を放出し、気分も体調もスッキリだ。さあ、美味しいお茶でも飲もう。
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