キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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冒険者とお仕事

32ー2 アコルの希望(2)

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 俺は自分にしか見えない【上級魔法と覇王の遺言】の本の中から、マジックバッグに関係する魔法陣だけを、モンブラン商会の支店の寮の先輩方から頂いたノートに書いていった。

「これが今使っているマジックバッグを作る時に使った魔方陣なんだけど、どのくらいの収納量があるのか、保存期間はどのくらいあるのか分からなくて」

「アコル、マジックバッグを自分で作ったの? こ、この魔方陣を使って?」

 俺がノートに書いた魔方陣を見て、母さんは驚愕の表情で俺を見た。

 そして「なんて無茶なことを」とか「信じられない魔力量が必要だわ」とか「いったい誰が作ったの魔方陣なのかしら」とか「複雑過ぎるわね」と呟きながら解読していく。

 結局、解読には数日かかりそうだと母さんが言うので、翌日は家の修理を手伝い、明後日からギルドの依頼を受けることに決めた。



「あっ、忘れてた。この野菜とパン、実は王都を出る時に買ったものだけど、何故か劣化してない気がするんだよね。自分でも試してはいるんだけど、参考になる?」

 家の修理を終えた翌日、【宵闇の狼】のメンバーと出掛ける間際、俺はキッチンに母さんを呼んで、マジックバッグの中から取り出した食料を母さんに見せた。
 母さんは絶句して、俺の両肩を痛いくらいに掴み「この事は誰にも言ってはダメ。検証するから野菜とパンと干し肉を少し置いていきなさい」と、怖い顔をして言った。
 
「それと母さん、セイガさんの前では言えなかったけど、俺の目標は大商人だから。それは絶対に変わらない。いつか必ず、薬を扱う大商人になってみせる。その時は母さんも手伝ってね」

 俺は自分の行く道の希望は変わってないと、極上の笑顔を作って言った。



 ◇◇ リーダー セイガ ◇◇

 最も近い冒険者ギルドは、ヨウキ村を管理しているアノサ男爵の屋敷がある町で、小さいけどリドミウムの森の南入口に在り、森で狩りをする冒険者たちで賑わっていた。

 いつも受付で依頼確認するのは、一番年下であるロードの役目だ。
 Aランク冒険者のパーティーは、依頼票に出ていない重要な任務だったり、貴族からの採取依頼だったり、大商団の護衛の仕事を優先して受けられるので、一応受付で訊くことになっていた。

「良かったです。実は今朝、何処の……とは申せませんが、高位貴族家のご子息様一行の護衛の依頼が出ておりまして、こんな小さな支店にはAランクパーティーなんて滅多と来てくれませんから、本当に助かりました。報酬はギルドの指定料金を払っていただくことで了解を得ています」

 受付の女性は、ホッと肩を撫で下ろして助かったと言いながら、依頼票をロードに手渡した。
 俺とロードがその依頼内容を確認し、口には出さずメモ書きで、何処の貴族かだけ情報を貰って依頼を受けることにした。

「こりゃ驚いた。こんな僻地にワイコリーム公爵家の坊っちゃんが来るとは、初心者向けの狩り場でもないリドミウムの森を選ぶとは・・・命知らずもいいとこだ」

 極秘依頼のため、一旦ギルドの外に出て、アコル以外のメンバーに依頼内容を話す。アコルには、森の入り口で薬草採取をさせる予定だから、掲示板でE~Dランクの依頼を確認させていた。

「リーダー、もしかしてワイコリーム公爵家の子供って、王都支部のギルマスが言ってた天才じゃあないっすかねぇ」

「あぁ……そんな話を聞いた気がするな。確か9歳だか10歳だとかで魔力量が50を越えていたとかなんとか。ラルフ、ちょうどいい。アコルと年も近いだろうから、アコルを雑用係として連れて行くぞ」

「えっ? でも公爵家ですよ、大丈夫なんですかアコルは」

「アコルはEランクで、うちの下っ端雑用係だ。なんの問題もない」

 確かワイコリーム公爵は国務大臣で、いけ好かない魔法省の副大臣であるヘイズ侯爵とは敵対していたはずだ。アコルの情報が伝わっているとは思えない。

 うちのメンバーは、冒険者パーティーには珍しく全員が貴族家の出身だ。
 だから、こういう依頼の時はギルドに重宝される。高位貴族に失礼な言動や態度をとらないし、気分を害されないよう接することが出来るからだ。

 とは言っても、領地もない貧乏貴族ばかりで、長男でもないから家を継げる訳でもなく、高学院に通わせて貰える金もないから、冒険者になった半端者ばかりだ。
 そして稼いだ金を、跡を継いだ兄が貴族として体面を保てるよう貢いでいる。

 まあ、結婚してない俺たちは、一応貴族家の端くれで準貴族っていうやつだから、実家を潰すわけにはいかない。
 冒険者でもBランク以上の者は、貴族家の出身者が多い。生まれながらに魔力量に恵まれ、努力すればAランク冒険者にだって成れるから、堅苦しい貴族でいるよりはと、冒険者を選ぶ奴が結構いる。


 そしてその日の午後、ギルドの前で依頼主である公爵家の子息と、その護衛騎士二人と一緒に、明日からの打ち合わせをした。

「ラリエス様、このAランク冒険者パーティーは、全員が貴族家の出身だそうです。不快な思いをなさることは少ないかと」

「うむ、それは良かった。世話になる。私はラリエスという。まだ11歳だが、D級魔術師レベルの魔法は学んでいる。今回はその腕試しと、冒険者との連携を学びたいと思っている。よろしく頼む」

 護衛の騎士が、俺たちを貴族家の出身だと坊ちゃんに説明し、少し安心したような顔をして、坊ちゃんは俺たちに今回の依頼の趣旨を話した。
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