キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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冒険者とお仕事

32ー1 アコルの希望(1)

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 母さんが凄くショックを受けているところ悪いけど、話の本筋はまだこれからだ。気を引き締めて話さなくちゃいけない。

「魔法省は何とかなる気もするけど、問題は王族らしい」

「はあ? 王族だと?」

「これから話すことは、知っていることがバレると命に係わると思う。だから、セイガさんは聞かない方がいいかもしれない」

 俺は真剣な顔をして、眉間にしわを寄せているセイガさんの方を見て言った。

「ここまで関わっているのに、今更引くことなんか出来るか! お前はサイモン兄さんの息子なんだぞ。それに、王都支部は俺を信用してお前を預けたんだ!」

超不機嫌な顔をして、セイガさんは怒鳴るように大声を出した。

 驚いたメイリが、びっくりして泣き出したので、母さんはメイリを先に寝かしつけてから続きを聞くと言って、メイリを抱いて寝室に入っていった。

 それから30分後、メイリを寝かせた母さんのために、俺は自慢のブレンド茶を淹れた。今夜のお茶は精神を安定させる茶葉入りだ。
 お茶を飲み始めた二人に、俺はダルトンさんから聞いた王族の話をしていった。

「な、なんだって! 第一王子はB級魔術師で、他の王子たちも魔力量が90未満?」

「信じられないわ。C級魔術師で魔法部を卒業できるですって!」

 セイガさんは絶望的な表情で、母さんは何度も首を横に振って呆れる。

「うん、それが今の王族の実態らしい。は~っ、5月に龍山支部で測定した俺の魔力量は85だった。そして適性は……全適性を持っていた」

「な、全適性だと!」

「しっ! 声が大きいよセイガさん、可愛いメイリが起きちゃうじゃないか」

 俺は小声で文句を言ったが、立ち上がったセイガさんは信じられないものを見るような目で俺を見て「高位貴族……公爵家の血というのは間違いないだろう」と呟き、ドスンと椅子に腰を下ろした。

 母さんは何も言わず、カタカタと小さく震えているような気がする。

「だからさ、俺の魔力量と適性を知られると、王族のメンツが立たないっていうか、都合が悪いらしい。王子より優秀な平民なんて認められないだろうって。だから、自分の命を守るために、実の親が高位貴族の血族だと証明した方がいいって」

 俺は大きな溜息を吐きながら、自分を捨てた親のことなんか知りたくもないし、会いたくもないけどと付け加えた。

「魔獣の大氾濫が起こるって時に、将来有望な冒険者を抹殺しようとするとは、魔法省も王族も地に落ちたな。王族の中に【覇王】の末裔は期待できないってことか。ハーッ……アコルを守る意味が分かったぜ」

 セイガさんは深く息を吐きながら、ギルマスたちが何故アコルを守れと命令したのか分かったと言う。そして俺の魔力量をもっと増やし、Sランク冒険者に成長させ、もう直ぐ起こる魔獣の大氾濫に備えたいのだろうと、低く呟きながら頷いた。

「ア、アコル、その本……その本の題字には何て書いてあるの?」

母さんは声を震わせ、テーブルの上に置いてある本を睨むように見ながら訊いた。

「それは……それを言うと、母さんの身に危険が及ぶかもしれない。だから俺は言いたくない」

 俺は本をウエストポーチの中に収納し、俺以外に読めない本の意味を考えて、今は言うべきではないと判断した。

「分かった。言わなくていいわ。
 母さんは王立高学院に在学していた時、薬師の試験に合格したお祝いだと言って、教授に閲覧禁止書庫に入れてもらったの。

 閲覧禁止書庫の中で、古い魔術書について記述してある本を見た記憶があるわ。各領主の家には、先祖代々受け継がれる魔術書があるって書いてあったはず。
 でも、ごめんなさい。母さん……残念ながら本の内容は覚えていないの。
 だからアコル、絶対に王立高学院に入りなさい。

 モンブラン商会の会頭は、アコルが望めば高学院に入学させてもいいと、約束してくれたとポル団長が言っていたわ。
 15歳になる年、いいえ、14歳になる年にも試験を受けられるから、何が何でも合格して、その本がどの領主家のものなのか調べなさい」

 母さんはそう言うと俺を強く抱きしめ、「メイリと一緒に王都に引っ越す決心をしたわ」と言ってくれた。
 モンブラン商会の寮の他に、下級地区にも住居があった方が安全だからと、魔獣の大氾濫ではなく、俺のことが心配だから引っ越すと約束してくれた。

「姉さん、俺は王都に戻ったら、冒険者を辞めてモンブラン商会専属の護衛になるよ。アコルを守ってみせる」

「それは止めてセイガ。貴方を巻き込みたくないわ。大丈夫だから。高学院に入学出来れば、軍も魔法省も手出しできなくなるの。商学部の学生は、絶対に戦争や魔獣の討伐に行かされることはないし、学生を従軍させてはならないという法律があるから」

 母さんは涙を拭いてキッと前を向くと、いつもの強くて逞しい顔でセイガさんの申し出を断った。
 こういう強い口調で母さんが話す時は、決して自分の考えを変えない時だ。
 元々我が家は、父さんよりも母さんの方が強かった。

「分かったよ姉さん。俺はアコルが高学院に入学するまで守ることにする。だけど、あの……俺で良かったら何でも力になるから頼ってくれ。サイモン兄さんに恩返しも出来てないから」

 セイガさんは、姿勢を正して母さんの瞳をじっと見つめた。

【宵闇の狼】の三人から、大恩ある未亡人を守れるのはリーダーしかいない……とかなんとか言われていたから、勇気を出して言ったんだな、きっと。
 長い独身生活に春が来ますようにとロードさんが言っていたけど、サイモンの息子である俺としては、3年近い旅の間にセイガさんの人となりを見せてもらってから、応援するかどうかを決めたい。

「ありがとうセイガ。何かあったら頼らせて貰うわね。でもとにかく今は、アコルを守らなきゃ。よろしくね」

 母さんは笑顔をセイガさんに向けて、頭を下げてお願いしてくれた。

「大丈夫だよ母さん。そう言えば、母さんは魔法陣を見たら、その魔法陣がどんな機能を持っているか分かる?」

「そうねえ、B級魔術師が習うのは、現在公開されている魔法陣だけだから、昔の魔法陣はどうかしら? でも、術式や記号を見れば大体分かると思うわよ」

 母さんはそう言うと、自分の部屋から高学院時代のノートを持ってきた。
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